12-12 よし。それじゃあ行ってこい!
「おい、怜。場所はどこだ?」
「野幌森林公園でしょ? 磯野わかってないの?」
「入れ替わったんだよ! 映研世界でもそうなのか?」
「千尋が言ってた」
……映研世界も同じなのか。
怜は
「こっちで大丈夫なのか?」
「このまままっすぐ
俺は車のことはわからない。まかせるしかない。
ほぼ直線の道路を、エンジンの回転音を上げ、パスンという音が鳴り、再び上げてを繰り返してひたすら飛ばしていく。って!
「
「世界の危機に信号無視なんて関係ないから!」
声色になにか
パスン! ふたたびその
そのあいだも、何台ものクラクションがドップラー効果を起こしながら過ぎ去っていく。途中、道なりに軽くカーブをかけながらも、車は高速を維持する。
「
「四〇分かかるのを二〇分で移動してるんだから!」
またもや赤信号を無視して、交差点を抜けようとする。
そこを、左からバンが飛び出してきた。が、ハンドルを切ってそれをかわす。
あっぶねえ。
……そういえば、この車まだ
「あ、つぎ右に曲がるから」
「はい?」
怜は思いっきりハンドルを切った。
車体の後方が左に思いっきり振れる。
「うおおおおおおおお!?」
こいつ、一般道でドリフトしやがった!
「ひゃっほーーい!」
……こいつ、楽しんでるのかヤケクソなのかわからねえ。
「ねえ、磯野、生きてる感じするよね!」
千代田怜の瞳に、竹内千尋と同種の輝きを見た。……って、
「知るかよ!」
南郷通に入ってふたたび加速。
二車線を器用に車線変更しながら何台もの車を追い越していった。
中央分離帯があったことは幸いだ。
こいつのことだ、そんなものなければ
「この直線で
「……あの、千代田さん、いま時速何キロですか?」
「んー一四〇キロ越えたねー。まだ出せるよ」
「タイムスリップするつもりかよ!」
「これデロリアンじゃないから! インプレッサだから!」
その後は南郷通から国道一二号線へ入り、出発から約二〇分過ぎには野幌森林公園へあがる坂が見えた。右折して坂を登る。
「あのね」
怜のとなりでその言葉を聞く。
「あんたに二回振られたけどね、まだあきらめてないんだから、
――ちゃんと戻ってきなさいよ」
インプレッサは坂をのぼり切って、駐車場前で止まった。
俺は――
「ああ」
ひとつ返事をする。
それだけでいい。いまは。
「自転車は?」
「この距離なら走ったほうが速い」
「よし。それじゃあ行ってこい!」
俺はうなずいて、助手席から飛び出して走り出した。
そう言って送り出してくれたんだ。
だから、彼女に振り向いちゃいけない。
このまま、全力で駆けろ。
公園の階段を上る。
目的地は百年記念塔……のはずだが、そういえばこの時間に空いてるのか?
百年記念塔の展望部分から小さな光が見えた。
あれは、柳井さん?
俺は走りながらスマートフォンを出して柳井さんにかける。
「もしもし!」
「ああ、磯野か。まだ霧島榛名はいる。展望台だ。鍵はあいているが、エレベーターは動いてないから、自力で上がってこい」
「わかりました!」
なんで鍵が空いているのか、いや、ほかにも訊きたいことは山ほどあるが、そんなことよりもいまは一秒が惜しい。ただ、おそらく、すべてがスムーズにいく、
――「当たり」の世界に
百年記念塔に入り階段を上る。
ああ、もうヤケクソだ。一気に駆け上がってやる。
それにこのまえ千代田怜が手を引いて上らせてくれたあの経験のおかげで、いまはそんなに恐怖を感じない。
……いや、それは嘘だ! 嘘だそんなの!
一気に上れ! なにも考えるな。
下なんて見る……見ちゃった! うわあ……。
一段、一段と踏み込むその足は、すでに
そもそも高所恐怖症以前に、数百メートルを全力疾走して、そのまま六階まで駆け上がるんだぞ。毎日自転車
やっとのことで、上りきったそのさきには、柳井さんと、
――霧島榛名がいた。
伏せられた彼女の横顔。
大きめのキャスケット帽に隠れてはっきりとは見えない。
彼女は、柳井さんや俺のことが見えていない、らしい。
「間に合ったな」
「ありがとうございます」
「よし、行け」
俺はうなずき、彼女に近づく。
そうだ。
今度は離さないように、彼女の左手を――
――つかめない。
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