07.ボーイ・ミーツ・ガール 協力者となった柳井の指摘によって、礒野の身に起こった超常現象の原因が浮かび上がる。
07-01 なんで? ……どうして、磯野くんが
この世界に存在しないはずの女性。霧島榛名。
ショートに
……いや、一度だけある。
一年前、オカルト研究会へ見学に来た日。
あの日の榛名は、もっと女の子らしい
だが、この世界はオカ研世界ではない。
俺は彼女の前に立つ。
けれども、彼女は俺のことには気づいていないらしい。
俺のことが見えていないのか?
「どうしたの磯野!」
竹内千尋の声。
「なんで一人で雨の中にいるの?」
一人?
「なに言ってるんだよ。千尋、目の前にいるだろ」
「え?」
もしかして、
――俺にしか見えていないのか?
霧島榛名も俺たちのことが見えていないのか、右手の杖をつきながらゆっくりと南門へむけて歩きはじめた。
「まってくれ!」
俺は霧島榛名の左手を――
つかんだ。
――そう、彼女の
手をつかまれた榛名は振り返る。
俺にむけたその目は
「……磯野……くん?」
霧島榛名は、たしかにそう言った。
なぜ俺のことを?
その言葉が
――俺の視界が
俺の
八月七日の、ちばちゃんの大学ノートを見たときと同じ
けれどすぐに、それが眩暈などではないことに気づく。
――
目の前の霧島榛名だけは、
しかしそれ以外のすべてが歪めれられたような、そんな
妙な
その浮かび上がるような
――俺たち二人は、無数の世界を
そして、止まった。
無人。
無音。
世界は
――色の薄い世界。
俺の目に
また、訪れてしまった。
いや、俺はここに訪れるために、いままで――
右手の
彼女から伝わってくる小さな息づかいも。
目を、つかんだ左手の相手にむけると――
霧島榛名。
「なんで? ……どうして、磯野くんが」
え?
「だって……わたし……」
彼女は、俺を視界に入れて――そう、俺を見て――
……けれども、俺にはわからない。
この世界の霧島榛名を俺は知らない。いや、一年前のあの春の日に見かけた
それでも、目の前にいるこの女性は――
俺にとって、
とても、とても、
大切な人であると
どうしてかは
一年前に
俺の脳みそなのか、それとも
「榛名、俺は――」
――その手を離してはいけない。
突然、
その言葉は、俺の頭のなかに
なんだ? これは。
目の前の榛名は、
涙を
左手を顔へ近づけようとする。
そのとき、彼女の手を、
――離してしまった。
ダメだ……!
――目の前の景色がまた
今度は榛名までもが。
「榛名!」
俺は彼女をつかもうと手を伸ばす。
しかし俺の手は、目の前にいるはずの霧島榛名をすり抜けて
「磯野くん!」
一瞬だった。
俺は、見覚えのある景色に飛ばされていた。
八月七日のプラットホーム。
「ちくしょう!」
なぜ手を離した?
なぜ手を離した?
なぜ……俺は! 手を……!
本当は……本当はわかっていたんだろう?
俺の無意識の中に、思い出せないとしても俺の記憶の中に、霧島榛名がいたことを。なんで彼女を見たとき、触れたとき、よみがえらなかったんだ? 二つ目の記憶がよみがえったときのように。
そうだよ、俺の中にあるんだろう? 彼女との思い出が。突然、その思考をさえぎるように――
ピタン
と、はじける音が、世界に
髪や衣服から
彼女の消える
いまさらよみがえる。
ささやくように、そして、
なにかを
――……ごめんね
この言葉の意味はなんだ? 解らない。思い出せない、なにも。
……いや、ひとつだけ解ることがある。
――俺は、霧島榛名を救い出さねばならない。
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