06-03 磯野ー、あれ友達だよ、あれ
撮影組と観光組。俺もどっちかに混ざってもよかったのだろうが、寝不足によるだるさが抜けないためそんな元気はない。
と、うしろを見ればちょうどいいベンチがあるじゃないか。撮影組の作業が終わるまでとくにやることもないし、腰をかけるとするか。
「磯野ー、あれ友達だよ、あれ」
千代田怜の指差すさきには中島があった。……って、
「やかましいわ!」
さて、考えなければいけないことが三つある。
さきほどのノートの件。
「もう一人の俺」が、情報共有用のノートを用意していないのであれば、いまのうちに俺が手に入れておかなければならないだろう。旅館の近くにノートを買える……コンビニはあるんだろうか?
もう一つは、柳井さんに
とはいえ、次の入れ替わりまでになんの
そしてもし可能ならば、ちばちゃんと二人きりでの接触。
だがこれに関しては絶望的だろう。基本青葉綾乃という
ちばちゃんと二人きりになれる可能性は、いままで以上に低くなったわけだ。……けど、そんなこと言ったら撮影旅行など関係なく、今後もこの高難易度が続いてしまうことになるぞ。やはり柳井さんを味方につけたあとじゃないと無理があるな。
顔を上げると、今川が柳井さんに
「ホントごめんなさい! ギブ……ギブ!」
なにも言えねえ……。
最後のロケ地
一方、女子組は車から降りるなりはしゃぎまくっている。
「
千代田怜が楽しそうに言った。
「ほらちばちゃん、あそこ、
同じく浮かれる青葉綾乃の言葉に、ちばちゃんは
「あれが
柳井さんも感心して見上げていた。
そして、千尋は……例のターレットファインダーをのぞきながら、あちらこちらへと
旅館への帰りの途中も寄り道をしながらめぐり、ロケハンが終わるころには午後四時を過ぎていた。さすがにクタクタだ……。
旅館へ戻り男部屋に戻った
「磯野、そのまま寝たらダメだよ。夜は冷えるよ」
そう言って、うつぶせに倒れている俺にタオルケットをかけてくれる竹内千尋。なんだよ、おまえ
「礒野、晩飯前に風呂に入ってくるが、行くか?」
「……え? いま何時ですか?」
うつ伏せのまま一時間近く寝ていたらしい。
柳井さんと千尋は、俺の寝ている間に明日の撮影の打ち合わせを終わらせたらしい。そして、ひと段落ついたので風呂にしようということになったそうだ。
いまの俺は風呂に入る気力も無いんだが……。とはいえ、いま後回しにしたとしても、夕食後すぐには風呂など入れないわけで、そうなると腹が落ち着くまで待ってから……いや、やはり寝てしまうな。ならさきに俺も一緒に風呂に行ったほうがいいのか。うーん……仕方ない。
俺はバスタオルと旅館備え付けの浴衣を抱えて、柳井さんと千尋の後について行った。
とはいえ、まだだるい。これは今夜しっかり寝ないと疲れは抜け切らないんじゃないか? 入れ替わり時間なんて知ったことか。寝不足のままじゃまともな状況判断なんてできるわけがない。今夜はしっかり寝てやる。
「そういえば今川は?」
「あいつはさきに風呂に行ってるみたいだが……」
柳井さんの顔が
今川もまた別の意味でバイタリティ
と、風呂にむかう廊下で女子連中と
「あ、柳井さんたちもお風呂ですか?」
相変わらず二段階くらいテンションが高くなっている千代田怜。
「なんだ、おまえらもか」
笑顔の怜と青葉綾乃。そして二人のうしろに隠れながらもコクコクとうなずくちばちゃん。
「柳井さん、のぞかないでくださいよ」
「はは。千代田よ、俺より今川を警戒しろよ」
あれだけ歩きまわったのにみんな元気すぎるだろ。
「磯野、あんたホントに顔色悪いよ。お風呂入って大丈夫なの?」
「ああ。大丈夫だ問題ない」
こういう場合、
「そう、それならいいけど」
心配そうな顔をするなよ。おまえは気にせず楽しんでいればいいんだ怜。
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