05-06 お金だよ! ほしくないの? 偽善者だな!

 ホワイトボードに並べられた日時は以下の通り。


 7日14時30分辺り―色の薄い世界へ

 7日18時30分辺り―映研世界へ戻る

 8日13時辺り――――オカ研世界にいると気づく

 9日08時辺り――――映研世界にいると気づく

 9日19時02分―――オカ研世界に移る


 ……うーむ。いまのところ入れ替わり日時に関する情報が少なすぎる。


 このなかで正確な日時が判明はんめいしているのは、八月七日の十四時半と十八時半、あとは昨晩九日の十九時二分だろ? これじゃあ、法則性を探る以前の問題だ。てことはだ、


 ――入れ替わりタイミングの情報を得るためには、あと数回、しかも連続して入れ替わる必要があるってことか……。


 しかも、俺が起きている最中に、というのが前提条件……だよな。

 このまま解決しなければ、今後も幾度いくどとなく入れ替わりが発生するわけで、どうやっても避けようがないのは仕方がない。

 だが短く見積もっても、このさき数日は事態が解決しないことを前提ぜんていに話が進むのは正直気が滅入めいる。


「大変な事態になって落ち込むのはわかる。が、これから入れ替わり日時を確認していけば、近いうちに入れ替わり周期が明らかになるだろ」


 柳井さん、気遣ってくれるのはありがたいです。

 けど、俺が落ち込んでるのは、その「近いうちに」にあたる数日間は解決の見込みがないと確定したことについてなんですよ……。


「ざっと見ると、一日弱くらいの間隔かんかくで磯野に入れ替わりが発生しているっぽいよね」

「てことは竹内、明日はオカ研側の磯野がうちの部室に来るってことか?」

「榛名の言うとおりだけれど、あくまで予想だからね」


 予想とはいえ、これまでの入れ替わり間隔でいけば千尋の言うとおり、明日は映研の世界に戻ってそうな気がする。


「ただ、うまく映研世界に戻ったところで――」


 俺はそこまで言いかけたところで、映研側のちばちゃんの恥じらいに満ちた顔が思い浮かんだ。

 あの怯えたウサギから情報を引き出せるとは到底思えないのだが……。


「い……磯野さん?」


 俺はそのままちばちゃんの顔をじっと見つめていたようだ。

 見つめられたちばちゃんは、妙に意識しているのか頬を赤らめている。え、なに? 結婚する?


「恋、だな」

「きゃー」


 目を閉じてうなずく姉の一言にすかさずお茶目ちゃめな悲鳴をあげる妹。

 なんなんだこの姉妹。


「ちばちゃん、磯野の心情を考えれば無理ないだろ。話によると映研のちばちゃんは相当そうとう奥手おくてらしいからな」

「むー。柳井さーん」

「たしかに一年前の千葉ちはっぽいな。あの頃は身内以外には超奥手だったし、大学ノート以前に会話も成立しないかもなー」

「お姉ちゃん、いくらなんでも会話くらいはできてたってば」


 むくれるちばちゃんに竹内千尋が微笑みかける。


「そうそう。ちばちゃんがこんなにしゃべれるようになったのって、榛名がうちのサークルに連れて来てからだったよね」

「もー竹内さんまで」

「おーそうだそうだ。千葉ちははわたしに感謝しないとな」


 榛名のドヤ顏に、ちばちゃんはさらにふくれっ面になった。


「てことは、大学ノートについて訊きだすには、むこうのちばちゃんに信頼されたうえで、二人きりになることが前提になるのか」

「これまだ難題なんだいだな」と柳井さんは首をひねる。

「まあデートまでもってけってことだな」

「確かにそうだが……榛名よ、お前の妹をデートに誘ってもいいのか?」

「べつにいいんじゃないか? 磯野ー、デートしようぜー」

「うるせえな」

「磯野さんとデートかあ。どこに連れてってくれますか?」


 なにあざとい返ししてくるのちばちゃん。


「まあ、ここにちばちゃん本人がいるんだから作戦は立てやすいな」と柳井さん。


 けど、映研側のちばちゃんとはアプローチの仕方が違う気がするぞ。


「USJがいいなあ」

「大阪かよ!」

「じゃあ、定山渓じょうざんけい温泉とか」

「ちばちゃん……関係がいきなり三段飛ばしだから」

「関係とか……発想がエロい」


 すかさず千代田怜のツッコミ。

 おまえはそういう事にしか物事をむすびつけられんのか。


「いやいやいや、いきなりUSJとか定山渓とかがだな」

「あ! 礒野、わたし寿司すし食べたい」

小樽おたるもいいですね!」

「礒野、言っておくが経費けいひは出ないからな」

「おまえら適当に欲望よくぼう並べてるだけだろ」

「えー。けどさ、十万くらいにぎらせてくれたらわたしはついて行くけどな」


 怜、ついて行くって……おまえは節操せっそうってものがないのか……。


「いや……怜……おまえらしいな」

「お金だよ! ほしくないの? 偽善者ぎぜんしゃだな!」

「怜、金が欲しいのはわかるが、おまえのそのなみなみならぬ執着しゅうちゃくはなんなんだ……」

「だって、お金じゃん!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る