05-05 二重人格とかすごい面倒くさい
柳井さんは続ける。
「――最初の入れ替わりは魂のみの入れ替わりだったが、二回目以降の入れ替わりは肉体――脳みそも一緒に入れ替わっている。脳みそも含めた体ごとと言ったほうが自然かもしれない。そうなると、入れ替わり先の世界の記憶なんて得ることはできない。そのあいだ、肉体――脳みそは入れ替わり先の世界にはそもそも無かったわけだからな」
柳井さんは、棒人間を囲むようにそれぞれ円を描き、囲った二つの円に入れ替わりを示す両矢印を描き込んだ。
「こう考えれば、一回目の入れ替わりと二回目以降で、記憶の補完に
なるほど。
もし入れ替わりだとしても魂だけと、肉体まで含めたものと二つの考え方があるのか。俺の身体が入れ替わったところで同一人物なわけだから、他人が見ても入れ替わったなんてわからないだろう。なら魂だけが入れ替わろうと、体も一緒に入れ替わろうと、
ちょっとまて、てことは……
「もしかして、いまの俺は映研世界の魂にオカ研の体がくっついた状態で、二つの世界を行き来してるってことですか?」
「俺の
「けど会長、それなら磯野がトイレの最中に入れ替わりが起こったら、その姿勢のまま入れ替わることになるんじゃないか? 体ごと入れ替わるわけだろ?」
「榛名汚い」
「とはいってもなあ」
怜のツッコミに、意外にも
柳井さんは
「さっきから言っているとおり、無理やり理屈に当てはめた
そこまで言って、柳井さんは俺を見る。
「ちなみに話を戻すが、磯野、ここにいるお前も、昨日はその映研の世界で探りを入れていたってことか?」
「俺はそうでしたね」
霧島榛名がうーんとうなった。
「けどさ、その話でいくと、昨日はいま目の前にいる磯野とは別人と話してたことになるんだぜ? それってある意味怖くね?」
榛名はそう言って俺の顔を見て、
「いや、昨日の磯野が
「なんだよ、ワザとらしいなおい」
「日によって磯野の中身が入れ替わっているとしても、僕たちから見れば、磯野が二重人格になったとも思えちゃうよね」
竹内千尋の言葉に、千代田怜は絵に描いたようなジットリとした
「一人でもウザいのに、二重人格とかすごい面倒くさい」
「なんだとこのやろう」
「もし磯野の入れ替わりが本当に並行世界
「観測者……ですか?」
おうむ返しに尋ねてみたが、柳井さんは気にするなと手を振った。
そんなこと言われると
「俺の解釈は置いておくとして、いままでの話をまとめると――」
柳井さんはホワイトボードに
「解決すべきは、現実世界とその映研になっている世界の入れ替わり。そして磯野のなかで二つの記憶が
柳井さんは書き終わると「難しいな」と一言つぶやいてペンのキャップを閉めた。
たしかに雲をつかむような話がいくつもある現状で、確実な解決策など思い浮かぶはずがない。
ただ
「映研世界に現れたちばちゃんが持っている大学ノート……」
俺の言葉にオカ研全員がうなずいた。
「磯野、つぎ映研の世界に戻るタイミングはわからないのか?」
霧島榛名は、いま俺が一番知りたいことを尋ねてきた。
「わかれば苦労はないんだけどな。けど」
そういえば、
「入れ替わりってほぼ一日ごとじゃないか?」
俺の言葉に竹内千尋が反応する。
「話を聞く限りだとそうみたいだね。入れ替わった時間と回数について調べてみることで、入れ替わりに関する
「それじゃあ、いままで起こった入れ替わり日時をわかる範囲であげていくか」
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