11―69

11―69


 ソフィアは、アルベルトのときと同じように嘘を見破る魔法を使って巧みにフェーベル家の罪を暴いていった。


 それにより、判明したのは、フェーベル家が『組織』と深く関わっていたという事実だ。

 それどころか、『ローマの街』の『組織』を生み出したのがフェーベル家と言っても過言ではない。


 コンラッド一味に【大刻印】を施したのは、現在も『組合』で刻印魔術師をやっているビアンカ・フェーベルで、フェーベル家の先代の当主に命じられたということだった。

 フェーベル家の先代の当主とは、ビアンカの実兄でありドロテアの実父でもある人物で、イザベラにとっては祖父にあたるようだ。


 これまで僕は、当主や家長という言葉を曖昧に使っていたが、当主とはその商家の親族グループ全体のおさのことを指し、家長は一つの商家の長を指す言葉らしい。つまり、フェーベル家の本家の家長は、フェーベル家の親族グループの当主でもあるということだ。

 ソフィアが「当主」と「家長」という単語を巧みに使い分けていたため、自分がいい加減に使っていたことに気付いたのだ。


 ビアンカは、刻印魔術師をやっているくらい高レベルなので、ソフィアの強さが認識できることもあり、兄である先代当主の行動を諌めようとしたらしい。しかし、ダークエルフの助力も得られるということで、慎重に手を貸したそうだ。ダークエルフは、女性ダークエルフの蜂起により、刻印魔術師を失ったため、フェーベル家と手を結んだのだ。

 ちなみに直接ダークエルフがフェーベル家に打診してきたのではなく、『ナポリの街』の商家を通じて渡りを付けてきたとのこと。

 この時点では、『ローマの街』に『組織』は存在しなかった筈だが、『ナポリの街』には既に『組織』があったのかもしれない。


「じゃあ、ダークエルフの一部は、【冒険者の刻印】を刻まれているということですか?」


 僕は、疑問に思ったことを質問した。


「ビアンカ、ご主人様のご質問にお答えなさい」

「はっ、はいっ! わたくしは、39人のダークエルフに【冒険者の刻印】を刻みました……」


 緊張した様子でビアンカがそう答えた。

 僕たちを襲撃したダークエルフたちは、【冒険者の刻印】ではなく【エルフの刻印】が刻まれていた。

『東の大陸』に住むエルフとダークエルフに刻まれていた【大刻印】が全く同じものかどうか分からないが、少なくとも見ただけでは僕たちの強さを見抜けなかったようだし、自動的に蘇生魔術が発動していたので、【エルフの刻印】とほぼ同じ機能の【大刻印】を刻んでいたと思われる。


「【刻印付与】は?」

「いっ、いえ、【刻印付与】の【魔術刻印】は刻んでおりません。それは、兄……当時のフェーベル家当主に禁止されておりましたので……」


 つまり、『組織』に加担するダークエルフには、【刻印付与】が使える者が居ない可能性が高いということだ。

 フェーベル家もダークエルフに対して優位に立つために【刻印付与】は与えなかったのだろう。


「貴女が刻印を刻んだダークエルフは、男性のみですか?」

「ええ、その通りですわ」

「しかし、コンラッド一味の刻印魔術師には【刻印付与】を刻んだのですね?」

「ええ、コンラッドたちには、貧民街をまとめて『組合』に対抗する勢力になってもらう必要があったようです」


 まるで、他人事のようにビアンカはそう言った。

 兄である先代の当主に命令されたことであって、自分は無関係と言いたいようだ。


「クレアにも?」

「はい、そうですわ」


 話しているうちに落ち着いたのか、今のビアンカには最初に僕と会話したときのような緊張は見られなくなった。

 それどころか、口元には笑みさえ浮かべている。

【戦闘モード】を起動して落ち着いたのかもしれない。


「そういえば、『組織』にはクレアの前にも刻印魔術師が居たとか?」

「ええ、パメラという町娘が魔力系の魔術を使えたので、わたくしが【刻印付与】の【魔術刻印】を刻みました。後に『組織』から脱走したようですが……」

「その人は、何処に逃げたんでしょうね……?」


 僕には、ただの町娘が商家と繋がっている『組織』から簡単に逃げ切れるとは思えなかった。


「パメラでしたら、わたくしが保護しておりますわ」


 僕が何となく呟いたセリフにソフィアがそう答えた。


「そうだったんですか?」

「ええ、わたくしが持つ魔法建築物から出て来ようとはしないのですが……ユーイチ様の奴隷にしてあげては如何でしょう?」

「ソフィアは、その人を使い魔にしていないの?」

「はい。そう提案してみたことはあるのですが、断られてしまいましたわ。無理強いもできませんし……」

「じゃあ、僕も断られるでしょ?」

「ご主人様なら大丈夫ですわ」

「でも、命の恩人であるソフィアの使い魔になることも拒んだんだよ?」

「ユーイチ様が乳房を吸えば、どんな女でも奴隷にできますわ」

「うーん……でも、それって卑怯じゃ?」


 そもそも、乳房を吸わせてもらうような関係になるのが普通は難しいはずだ。

 本人の意志を無視して、かなり強引に関係を迫らないと短期間では無理だろう。

 刻印体の女性は、妊娠や性病に感染するリスクがないため、カーラのように奔放に振る舞う女性も居るが、普通の人間だった頃の性格に左右されるため、貞淑な女性は簡単に乳房を吸わせるようなことはしないだろう。

 しかし、僕に母乳を吸われると凄く幸せな気分になれると聞けば、興味を持つ女性も多いようだ。

 あの、お堅いレティシアやレリアでさえも、今では僕に母乳を吸われることが病みつきになっているくらいなのだ。

 だから、その女性にも強引に授乳させてもらえば、使い魔にすることは可能だと思われる。

 しかし、相手の気持ちを無視して強引に事を運ぶのは気が引けた。


「……ソフィアがその女性に授乳されるか、逆に授乳すれば使い魔にできるんじゃないかな?」

「ご主人様にとっては、簡単なことかもしれませんが、普通はその程度で【サモン】の【魔術刻印】が持つ心理防壁は超えられませんわ。こればかりは、レベル差も関係ございませんし……」

「でも、低レベルの人がソフィアに授乳されたら虜になってしまうんじゃ?」

「はい。中には、それで使い魔にできる者も居ると思われますが、そう多くはないでしょう」

「そうなの? 例えば、ソフィアが男性に授乳しても難しいのかな?」

「ユーイチ様以外の男性に授乳したいとは思いませんが、男性でも難しいと思いますわ。子供の頃からわたくしが育てた男の子でしたら使い魔にできると思いますが……」

「ソフィアが使い魔にした女性たちは、子供の頃からソフィアが育てた人たちなの?」

「ええ、彼女たちは孤児でした。わたくしが拾って育てたのですわ」


 ソフィアは、まるで犬や猫を拾って育てたかのようなセリフを言った。


「ソフィアの使い魔は、彼女たち4人だけなの?」


 僕は、ソフィアの忠誠心を試すために敢えて核心的な部分に触れてみた。

 使い魔の数を知られるということは、戦力を知られるのと同義なので、僕に対して含むところがあるなら答えられないと思う。

 しかし、彼女がいつも言っているように本当に自分のことを僕の奴隷だと思っているなら、嘘は吐けないはずだ。

 もし、この件で嘘を吐いていることが発覚すれば、彼女に対して警戒する必要があるだろう。


「ええ、その通りですわ」

「ホントに?」

わたくしのことをお疑いなのですね……」


 ソフィアが悲し気な表情でそう言った。


「僕なら、使い魔の数を聞かれても答えないよ。自分の戦力を知られることになるからね」

「フフッ、慎重ですのね……しかし、わたくしは、ユーイチ様の奴隷です。ですから、ご主人様の質問に答えないわけには参りませんわ」

「そう……ありがと……」


 僕は、話を使い魔の件に戻すことにした。


「それで、ソフィアは、さっき話してた使い魔についての知識はどうやって知ったの? 実験したわけでもないみたいだし……」

「はい。多くは、わたくしの師である初代組合長から聞いた話ですわ」

「初代組合長は、多くの使い魔を持っていたの?」

「それは……わたくしにも分かりません。初代組合長が使い魔を召喚するところを見たことがないので……」


 考えてみれば、僕のように多くの使い魔を持っていたら、殺されることも無かっただろうし、初代組合長は、使い魔を持っていなかったと考えるのが妥当かもしれない。

 ゴーレムについても魔女の為に【魔術刻印】を作ったのに自身は強力なゴーレムを所持していなかったのだろうか?


「その割に【サモン】の【魔術刻印】について詳しかったんだね」


 僕は、初代組合長の使い魔に対する説も眉唾に思えてきた。

 これまでの初代組合長に対する伝説から、いい加減なことを語るような人物とは思えないのだが……。


「初代組合長は、【魔術刻印】を解析する御力を持っておられたようです」

「マジで!?」

「はい。わたくしもその力を授かってはいないのですが、そんな話を聞きましたわ」

「それって、魔法なの?」

「詳細は不明ですが、その可能性が高いと思われます」

「自分が開発した【魔術刻印】を自身に刻む場合には、【刻印付与】を持つ人に先に刻んでから、後でその人に刻んでもらわないといけないよね? それとも指輪とかのアイテムに刻印したのかな……?」

「分かりませんが、その可能性が高いと思われます……それにしてもユーイチ様は、流石にご慧眼ですわね」

「うむ。主殿は、凄いのじゃ」


 カチューシャが相づちを打った。


「話を戻すけど、召喚魔法の成功率は、男女で差は無いということでいいんだよね? 異性から掛けられたほうが成功率が高いってことも無いと?」

「いえ、初代組合長の話では、【サモン】の【魔術刻印】は女性に対して掛けたほうが成功率が高いそうです」

「それは、術者が男でも女でも?」

「ええ、そうですわ。初代組合長によれば、一般的に男性は支配されるよりも支配するほうを好み、女性は支配するより支配されるほうを好むからとのことです。勿論、どのようなことにも例外というものがございますが」

「そうかな? 普通は、他人に支配されるのなんて嫌だと思うけど……」

「ええ、ですから、召喚魔法の成功率は極めて低いのですわ」

「それだと、あまり信憑性が無いような……?」

「例えば、恋愛で相手のことを心から愛していたとしても召喚魔法が成功するとは限りません」

「そうなの?」

「はい。恋愛感情は、相手に多くのことを望む傾向があるため、心から愛していたとしても使い魔になるような心理状態になることは稀だそうです。母親が子供に対して持つような無償の愛が必要なのです」

「じゃあ、母親が自分の子供に【サモン】を掛けられたら、使い魔になってしまうってこと?」

「一般的な【サモン】の成功率に比べて、可能性は高くなると思われますわ」


 元々、召喚魔法が成功する確率は極めて低いらしいので多少成功率が上がったとしても誤差の範囲にしか感じられないのではないだろうか?


「そのあたりのことは、実際に実験してみないと分からないよね?」

「ええ、その通りですわ」


 初代組合長は、【魔術刻印】を解析する能力を持っていたようなので、ソフィアが言ったこともそれなりに信憑性が高いと思われる。

 僕が母乳を吸った女性たちを使い魔にすることができるのも母性本能を刺激するからかもしれない。

 その場合、僕の子供っぽい容姿が影響している可能性もあるだろう。


「そういえば、パメラって人の他に魔力系の魔術が使えるようになった女性は居ないの?」


 アルベルトのように男性で魔力系の魔術が使える者は、『組織』にそれなりの数が居たようだ。

 魔力系の魔術が使える人は、【冒険者の刻印】を刻まれた人の中ではかなりレアなようだが、大量に刻めばそれなりに出現するのではないだろうか?

 フェリアから聞いたザックリとした確率の話では、【冒険者の刻印】を刻んだ人のうち何らかの魔術が使えるようになる割合は、十人に一人くらいで、そのうち過半数が回復系の魔術のようだ。そして、3割くらいの人が精霊系の魔術で残る約1割が魔力系の魔術ということだ。

 つまり、【冒険者の刻印】を刻んだ人のうち百人に一人くらいは、魔力系の魔術が使えるということだろう。


「はい。そのようです」


 ビアンカがそう答えた。


「男性のメンバーには、アルベルトさんのような魔力系の魔術が使える人が何人か居たみたいですが?」

「彼らは、刻印を刻むため『組合』に来ていましたから……囚われた娘たちは、わたくしがアジトへおもむかないと刻印できません」


 ユウコやカチューシャを見ても分かるように『組合』の中で刻印魔術師の地位は高いようだ。刻印魔術師自身がかなり高レベルなうえ【刻印付与】という門外不出の【魔術刻印】まで有しているのだから当然だろう。

 ビアンカは、その立場を利用して『組織』のメンバーを招き入れて【大刻印】を付与していたのだと思われる。


わたくしが『組織』のアジトへ頻繁に通うことはできないため、クレアが『組織』の刻印魔術師になるまでは、【大刻印】が刻まれずに売られた者も居たそうですわ……」


 その女性たちに同情するような様子でビアンカはそう続けた。


「…………」


 僕は、何て答えたらいいのか分からずに沈黙した。


「ご主人様、よろしいでしょうか?」


 ソフィアが僕にそう尋ねた。

 他に質問はないかという確認だろう。


「うん、続けて」


 僕は、そう言って先を促した。


「畏まりました。では、最後にイザベラさんが何故、『組織』のアジトに居たかについて究明したいと思いますわ」


 僕は、心の中で『それって重要なことなの?』と思ったが口には出さなかった。

 イザベラは学園の生徒だし、フェーベル家の陰謀に深く関わっているとは思えないので、議題に挙げるほどのことなのかと疑問に思ったのだ。


「では、イザベラさん。貴女は先ほど『組織』に拉致されたわけではないと仰っていましたが、何故、貴女があの場所に居たのか教えてくださいな」


 ソフィアがイザベラにそう訊ねた。


「そっ、それは……」


 イザベラが言い淀んだ。何か言いにくい理由があるようだ。

 この世界には、法律がないため黙秘権のような容疑者が持つ権利も存在しないだろう。

 そのため、拷問のような手段で供述を引き出すことがあるのかもしれない。


 ソフィアには嘘を見破る能力があるので、その必要はないし、そもそも刻印体には拷問の効果が薄いと思われる。刻印体は、強い痛みを感じないためだ。

 しかし、カーラが言っていたような、スライムをけしかけて恐怖をあおるような方法なら効果があるのかもしれない。彼女自身が死ぬことを酷く恐れているくらいなので、蘇生魔法で蘇ることができると分かっていても、多くの冒険者にとって死は畏怖の対象なのだろう。

 僕は、殺されそうになって失禁してしまったグルフィヤのことを思い出した。


『刻印体でも強い恐怖を感じると漏らしちゃうくらいだし、拷問の効果が全くないとは言い切れないか……』


 そんなことを考えていると、イザベラが口を開いた。


「そっ、『組織』を調べていたのですわ……」

「イザベラさん、わたくしは嘘を見破ることができます。本当のことを言わなければ、貴女を地下牢に幽閉することになりますよ?」

「ソフィア、イザベラさんのことは別にいいんじゃない?」


 僕は、助け舟を出した。

 これ以上、彼女との関係をこじれさせたくないし、いい加減、この堅苦しい場所から解放されたいという気持ちもあった。


「ユーイチ様がそう仰るなら……」


 ――ガタン!


 イザベラが勢いよく立ち上がった。


「ユーイチ・イトウを殺すようにコンラッドに依頼したのですわ!」

「貴様ッ!」

「……何ですって……わたくしのご主人様であるユーイチ様を暗殺しようと……?」


 カチューシャが激高して怒鳴った後、ソフィアが底冷えのするような声でそう言った。


「「ヒイッ……」」


 イザベラだけでなく、ドロテアとビアンカが小さく悲鳴を上げた。

 激高していたカチューシャですら、絶句している。

 会議室全体の気温が下がったかのように感じる。


 そして、重々しい静寂が訪れた――。


 誰も言葉を発せない。今の会議室は、そんな状況だった。


「まぁまぁ、確かに僕たちはダークエルフを含む刺客に襲われましたが、あの程度では何ともなかったわけですし……」


 僕は、この場を和ませるためにソフィアをなだめた。


「もとより、コンラッド如きにユーイチ様が害されるとは思っておりませんわ……」


 ソフィアの態度が軟化した。

 それにより、極度の緊張状態だった会議室の空気も和らいだように感じる。


 ふと、イザベラを見ると顔を真っ赤にして憤怒の形相をしていた。


「そうやって、いつも! いつも! いつも! 一体、何様のつもりですの!?」


 イザベラが僕に向かってそう叫んだ。

 どうやら、僕が執り成したのが気に食わなかったようだ。


「貴様ッ!」


 カチューシャがまた激高して叫んだ。


「イザベラ! いい加減にして! 貴女のおかげで我が家はお取り潰しの危機なのよ!?」


 ドロテアがイザベラを諫めた。


「叔母様ッ!?」

「貴女がユーイチ様にちょっかいを出したことがすべての始まりなのよ?」

「そんな……」

「イザベラ、貴女が後先考えずに行動した結果、どれだけの人に迷惑を掛けたか考えてみなさい」


 ビアンカがイザベラにそう言った。


「大叔母様まで……もう、いいですわ!?」


 イザベラが出口へ向かって走りだした。


 ガラッ!――


 そして、出口の引き戸を勢いよくあけて外に飛び出した。


「キャッ! お放しなさい! わたくしを誰だと思っておりますの!?」


 廊下でそんな叫びが聞こえた後、イザベラが軽装戦士風の職員二人に捕まえられて会議室に連れ戻された。

 暴れたせいで毛布が落ちてしまい、イザベラは全裸ブーツ状態だった。


「ユーイチ様、如何いたしましょう?」

「イザベラさんは、別にいいよ」

「畏まりました。その娘は放っておきなさい」

「ハッ!」

「畏まりました!」


 軽装戦士風の職員がソフィアに命じられてイザベラを放した。

 イザベラは、僕を睨んだ後、毛布を羽織って会議室から飛び出して行った。


『もう、会うこともないだろうけど、あそこまで恨まれるのは嫌だな……どうしてこうなった? オークをけしかけられたときに助けておけば良かったのかな?』


 そう思ったが、後悔したところでやり直せるわけではない。

 軽装戦士風の職員も廊下に出て行き、入り口の引き戸が閉められた。


「では、フェーベル家はお取り潰しということでよろしいでしょうか?」


 ソフィアが僕にそう訊いた。


「そうですね。この街の『組織』を作った商家ですから、そのほうがいいでしょうね」

「畏まりましたわ」

「「…………」」


 意外にもドロテアとビアンカは、異議を唱えなかった。


「具体的な方策については、わたくしのほうで段取りさせていただいても構いませんでしょうか?」

「うん。って、僕に確認する必要があるの?」

「ええ、それはもう、この街の『組織』を潰したのは、ユーイチ様ですから」

「僕は、何もしてないんだけど……」


 実際にコンラッドたちを倒したのはカチューシャだ。

 多くの手下たちを倒したのは、クリスティーナのパーティメンバーだった。


「使い魔の手柄は、あるじであるユーイチ様の手柄ですわ」

「うむ。その通りじゃ」

「一番、戦闘をしたのはクリスたちだし……」

「ええ、そうですわね。ですが、ユーイチ様がこの街に来られなければ『組織』が潰れることもなかったでしょう」

「それは、そうね」


 クリスティーナが相槌を打った。


 クリスティーナたちには、『組織』を潰す動機がないのだろう。

 勿論、『組織』のことは苦々しく思ってはいたのだろうが、自ら『組織』と正面切って戦って潰すなんてことは考えもしなかったのではないだろうか?

 元の世界で例えるなら、マフィアのような犯罪組織を少人数の個人集団で潰そうとするようなものだ。

 そんな荒唐無稽なことを本気で考える人は居ないだろう。物凄く強い恨みがある場合は、その限りではないかもしれないが。


「じゃあ、僕たちは、もう帰っていいかな?」

「お待ちください。わたくしもユーイチ様のお店までお供いたしますわ」

「あの……? ユーイチ様、わたくしもお連れ願えないでしょうか?」


 左側からドロテアがそう訊ねてきた。

 見るとぎこちない笑みを浮かべている。

 彼女は演技が苦手なようだ。これくらい分かりやすいほうが警戒しなくても済む。

 おそらく、僕のことは嫌いなのだろうけど、僕とソフィアとの関係を見て僕に取り入るつもりではないだろうか。


「わっ、わたくしもよろしいでしょうか?」


 ビアンカがそう言った。ドロテアとは対照的に覚悟を決めたような顔をしている。


「ビアンカは、ご主人様の奴隷にしてもらいなさい。ドロテアは、今日のところはわたくしが可愛がってあげましょう」

「そっ、そんな……ソフィア様……」

「……分かりました」


 僕たちは、『組合』の会議室を後にした――。


―――――――――――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る