11―63

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「ユーイチ、その人は?」


 廊下に立つセシリアを見たクリスティーナが僕にそう尋ねた。

 セシリアは、部屋の中ではなく廊下に立っていたのだ。

 薄暗い廊下に毛布を羽織っただけの女性が立っている姿は、非日常的で現実感が薄い。


「セシリアさんです。ソフィアの側近の方で『組織』に捕まったそうです」

「そう言えば、確かユーイチの店で見かけたわね」

「見覚えがありますわ」

「あー、そう言えば見た気がするな」

「組合長とテラス席に居られましたわ」

「ああ……」


 パーティメンバーたちも刻印を刻んでいるため、完全記憶能力のような力を持っているようだ。つまり、記憶がデータベースのように記録される能力は、【エルフの刻印】特有のものではなく、【冒険者の刻印】も同様ということだ。

 フェリアは、死んだとき(正確には、体力がゼロになったとき)に発動する魔術が違うだけのように言っていたが、【冒険者の刻印】には、ある程度のレベルになるとモンスターや刻印を刻んだ者が自分よりも強いかどうか見極めることができる能力があるようだ。長い間、一人で生きてきたフェリアは、そのことを知らなかったのだろう。

【エルフの刻印】が刻まれている僕には、その感覚が分からないのだが、その能力は確実に存在あると思われる。先ほど『組織』の首領であるコンラッドが僕を見ただけで窓を突き破って逃げ出したことでも確認できた。僕のことを「バケモノ」と呼んでいたので、相手の強さが分かる【冒険者の刻印】を刻んだ者から見れば、僕はよほど恐ろしい存在に見えるようだ。


「皆様、この度はありがとうございましたわ」


 セシリアがクリスティーナたちに礼を言った。


わたくしたちは、何もしておりません。礼ならユーイチに……」

「勿論、ユーイチ様にも感謝しておりますわ。皆様も『組織』の壊滅に尽力されたわけですから、感謝しておりますわ」

「でも、あんた。オレたちよりも強いよな?」


 カーラがそう指摘した。


「そうですか? それほど変わらないと思いますが……」

「いいえ……わたくしたちよりも強いですわ。レリアと同じくらいかしら……?」

「そうですわね」

「私には分からんがな……」


 レリアがそう言った。

 エルフのレリアは、僕と同じように【エルフの刻印】を刻んでいるため、見ただけでは相手の強さが分からないのだ。


「とりあえず、部屋に入りましょう」


 僕は、そう促した。


「ええ、そうしましょう……」


 クリスティーナがそう言って、扉のない入り口から部屋に入る。

 他のメンバーたちも後に続いた。

 ちなみにルート・ドライアードは、廊下を移動しているときに帰還させた。もう、パーティメンバーの護衛は必要ないからだ。


 部屋に戻るとイザベラがベッドから降りて立ち上がっていた。


「イザベラ!?」

「どうして!?」

「マジかよ? 何でここに居んだ?」

「あらあら……」

「クリスティーナ・メリエール……」


 イザベラは、クリスティーナの名前をフルネームで呼んでから彼女を睨んだ。

 どうやら、イザベラはクリスティーナに対抗意識を持っているようだ。

 大商家の娘でパーティリーダーという点が共通しているからだろうか。


 僕は、マジックアイテムの毛布を一枚、『アイテムストレージ』から取り出して全裸のイザベラに差し出した。


 ――パシッ!


「――――っ!?」


 イザベラは、毛布を持つ僕の右手を叩いた。

 僕は、彼女の行動に驚いて、毛布を床に落としてしまう。


「こんなもので、わたくしを懐柔できると思っていますの!?」

「貴様っ!?」

「…………」

「……主殿……?」


 カチューシャが割って入ろうとしたので、僕は身振りでそれを制した。


「何か着てください……」


 僕がそう言うと怒った顔で睨んでいたイザベラが表情を緩めた。


「ふっ……ユーイチ……わたくしの裸体を拝める機会なんて、もう二度とないですわよ? 目に焼き付けておかなくてもよろしいのかしら?」


 そう言ってイザベラは、腰に手を当て胸を反らした。

 大きくはないが、形の良いイザベラの乳房がプルンと揺れる。


「わっ!? 隠してくださいよ……」

「ユーイチ! わたくしが許可しているのです! 目を逸らすなんて失礼ですわよ!?」

「……貴女あなたの裸にそんな価値があるのかしら?」

「そうですわ」


 クリスティーナとレティシアが口を挟んだ。


「フェーベル家の令嬢であるわたくしの裸体に価値が無いとおっしゃるのっ!?」

「つーかさぁ? ユーイチの奴がどれだけ女の奴隷をはべらせているか知らねぇだろ?」

「カーラ!? 人聞きの悪いことを言わないでよ。僕は、奴隷を侍らせてなんかいないよ?」


 僕は、慌ててカーラの言葉を否定した。


「おーおー、あれで侍らせてないとかよく言うぜ」

「ホントですわ……」

「ユーイチくんにとってはあの程度、侍らせているうちに入らないのですわ」

「どんな感覚してるのよ……」

「ふぅ……」


 レリアが肩をすくめて、やれやれと呆れるジェスチャーをした。


「分かったでしょ? ユーイチは、こういう反応をするのだけれど、実際には、多くの女性たちと一緒に裸で過ごしているのよ。わたくしたちともね」

「主殿、その初心ウブな反応も良いものじゃが、そろそろ我ら使い魔を性欲の捌け口として使ってくだされ……」

「……カチューシャさん。そこに愛はなくてもいいのですか?」


 まるで肉体関係だけを望んでいるようなカチューシャの物言いが気になって訊いてみる。


「ふふっ、主殿……。妾は主殿を心からお慕いしておりまする。主殿が妾にどのような感情を抱いておるかは知らぬが、妾は主殿を愛しておりますよ」

「……あ、ありがと……」


 僕は、カチューシャの赤裸々な告白に面食らってしまった。


「主殿は、妾のことをどう思ぅておいでじゃ?」

「…………」


『僕は、カチューシャのことをどう思っているのだろう?』


 こんな美少女に慕われて悪い気がしないのは当たり前だが、恋愛の対象になるかと言えば、現実感が無さすぎて、そんな感情が湧いてこない。フェリアに対しても以前はそんな感じだったのだが、数々のスキンシップの結果か最近では割と等身大に見ることが出来ていると思う。

 しかし、カチューシャは、デニスの祖母なのだ。外見通りの少女だったらともかく、知り合いの祖母という辺りで恋愛対象と見るにはハードルが高すぎた。


「えっと……カチューシャさんのことは信頼してますし、美人だと思いますよ」

「ほぅ……主殿は、妾の容姿が好みかぇ?」

「カチューシャさんの容姿を嫌う人は居ないと思いますが……」

「凡百の者たちがどう思おうが妾には興味がないのじゃ。主殿がどう思うか教えてくだされ」

「ええ、僕も好みです」

「そうか!? 凄く嬉しいですぞ!」


 カチューシャが凄く幸せそうな表情を見せた。

 僕も嬉しくなったが、この反応も召喚魔法によるものという可能性がある。

 使い魔は、主に褒められると通常よりもずっと嬉しく感じてもおかしくはない。使い魔たちから聞いた話では、主の命令に従うと幸福感が得られるようなのだ。


「ねぇ? そろそろ、妹を紹介してもいいかしら?」


 アリシアがそう言った。


「え、ええ……いや、その前に……」


『トレード』→『クレア』


 僕はトレードでクレアに毛布を渡す。


「あっ!? ありがとうございます!」


 クレアは、そう言って『アイテムストレージ』から毛布を取り出して羽織った。


『トレード』→『イザベラ』


 床に落ちた毛布を回収してから、イザベラにもトレードで毛布を送ってみる。


「フン!」


 彼女は、顔を背けてそう言ったが、毛布は受け取った。

 しかし、『アイテムストレージ』から取り出して羽織ることはなかった。意固地になっているようだ。


 僕は、イザベラから目を逸らしてクレアを見る。

 クレアは、僕よりも少し背が低い。165センチメートルくらいだろうか。

 外見年齢は、僕と同じくらいか少し年上に見える。

 アリシアとよく似た赤い髪をしているが髪型はショートカットだった。


「じゃあ、妹さんを紹介してくれる?」

「ええ。妹のクレアよ。クレア、この子はユーイチ。あたしたちの恩人よ」

「クレアです。初めまして、本当にありがとうございました」

「いえ……初めまして、ユーイチです。髪の色がアリシアにそっくりですね」

「アリシア……?」

「あたしのことよ」

「え……? もしかして、『閃光のアリシア』って……?」

「そうよ」

「偽名なの?」


 僕は、アリシアにそう尋ねた。


「ええ、組合長が付けてくれたの。あたしの本当の名前は、エリスよ。でも、もうアリシアのほうがしっくりくるから、アリシアって呼んで頂戴」

「分かった。でも、どうして偽名を?」

「『組織』に狙われていたからよ。前にも言ったけれど、あたしの家は、魔力系の魔術師を輩出する家系だったの。だから、『組織』に襲われてクレアは攫われたわ。あたしは、家に居なかったから助かったけれど、見つかれば同じように攫われていたでしょうね」

「それで、ソフィアに?」

「ええ、組合長があたしをかくまってくれたの……」

「へぇ……もしかして、ソフィアに刻印を……?」

「ええ、そうよ」


 僕は、ソフィアを見直した。

 組合長という不自由な立場にありながら、不幸な女性を救ったのだ。

 ベルティーナの話では、組合長というのは名誉職的な役職のようだった。

 いや、ソフィアは超高レベルなので、他の街の組合長のような不自由はないのかもしれないが……。

 仮にそうだとしてもソフィアが善人で信用できる人物だという証拠になるだろう。

 カチューシャは、僕の使い魔にならないソフィアを疑っているようだが……。


 また、ソフィアは、高位の魔力系魔術師でもあるため、【刻印付与】の魔術により【大刻印】を刻むことができるのだろう。

 立場上は、『組合』の刻印魔術師に任せるべきところなのかもしれないが、ソフィアの性格からして必要なら自分でも使うと思う。

 ソフィアは、意外と奔放な性格をしている。

 出会ったばかりの僕に乳房を吸わせるなんて、普通の女性ではあり得ないだろう。

 僕に命を助けられたりと、何らかの恩義を感じていそうな僕の使い魔になった女性たちとは違うのだ。

 僕の使い魔にもユウコやカチューシャのような例外は居るが……。


 ――ゴトン……


 割れた窓からアルベルトが部屋に入ってきた。


「ほぅ……」

「キャッ!? ジロジロ見ないでくださいな!」

「別に減るもんじゃねぇだろ?」

「あなたのような方に見られたら減りますわ」


 アルベルトに裸体を凝視されたイザベラが慌てて身体を隠す。

 そして、『アイテムストレージ』から毛布を取り出して羽織った。

 僕は、渡した毛布が役立ったことに安堵する。


「なんだよ、さっきユーイチに見せてたじゃねぇか?」


 カーラがツッコミを入れた。


「あっ、あれは……そう! ユーイチをからかっただけですわっ!」

「ふーん、からかったねぇ?」


 クリスティーナがそう言った。


「文句がありますの! メリエール!?」

「もしかして、ユーイチのことが好きですの?」


 レティシアがイザベラに質問した。


「おっ、確かにそうだな。イザベラもユーイチのことがなぁ……?」

「ちょっと! 何を勝手なことをおっしゃってますの! それに、親しくもないのにわたくしの名前を呼び捨てないでください!」


 言い争っているイザベラたちを無視してカチューシャがアルベルトのほうを見る。


「お主、よく逃げなかったのぅ?」

「ハハハ……逃げるわけないじゃないですか、姐さん」


 アルベルトは、乾いた笑いを零した。


「逃げたら追いかけねばならぬと見張っておったのじゃが……」

「なっ、逃げたらどうなってたんですかい……?」

「殺すに決まっておろう」

「でっ、ですよね……」

「カチューシャさん、どうしてそこまでアルベルトさんを殺そうとするんです?」

「別に殺したいわけではありませぬが、主殿にそうお約束した以上は、逃げたら容赦いたしませぬ。主殿のことじゃ、殺しても復活させるのであろう?」

「それは、まぁ……」


 ここまで一緒に行動したため、アルベルトを殺してしまうのは寝覚めが悪いと思いつつあるのは確かだ。

 それに『組織』の情報を得るためにもアルベルトは生かしたまま『組合』に引き渡したほうがいいだろう。


「そういえば、アルベルトさん。『組織』のリーダーの……コンラッドとかいう人は?」

「ああ、死体になるまで側で見てたぜ。コンラッドの野郎は死んだよ」

「そう……ですか……」


 僕は、コンラッドを殺してしまっても良かったのかと複雑な気分になった。

 何か重要な情報を知っていたかもしれないのだ。

 ただ、それを引き出すのは難しいだろう。

 司法取引のようなことを持ち掛けてきたかもしれないし。


「そういえば、捕まってる人が居るんじゃ?」

「おお、そうだったな。これから助けに行こうぜ」


 アルベルトがそう言って、部屋の入り口から外へ出る。


 僕たちも、アルベルトに続いて廊下へ出た――。


 ◇ ◇ ◇


 アルベルトは、廊下を戻って、セシリアが囚われていた部屋まで移動した。

 部屋の中には、カーキ色のトランクスのような下着しか身に着けていない男達の死体が転がっている。


「キャッ!? この方たちは……?」


 イザベラが死体を見て悲鳴を上げた。


「先ほど、妾が殺した男達じゃ」

「『組織』のクズ共だろ。死んで当然の奴等さ」


 カーラがそう言った。


「こっちだ」


 アルベルトがそう言って、部屋の左のほうにある扉へ向かった。

 僕たちは、その後に続く。

 扉を開けた先は、5メートルくらいの長さの廊下があり、奥に扉が見える。

 そして、2メートルくらい先に左に曲がる角があった。


 アルベルトは、その角を曲がる。

 曲がった先には、地下へ降りる階段があった。

 囚われた女性たちは、地下牢に幽閉されているようだ。


 階段の先には、木製の扉がある。

 アルベルトがその扉を引いて開けようとした。


「あ、あれ……? 開かねぇぞ?」


 アルベルトは、そう言いながら、扉の取っ手を引いたり押したりしているが、扉はビクともしないようだ。

 ガチャガチャという音すらしない。まるで、巨大なコンクリートで固めてあるかのようだ。見た目は、木製の扉なので、ありえない光景に違和感を覚えた。


「鍵が掛かっておるようじゃのぅ」

「マジかよ」

「鍵はどうやって開けるのですか?」

「さぁな……鍵穴も見あたらねぇ……」

「もしかして、マジックアイテム?」

「ふむ。主殿の言われる通り、【工房】で造り出されたもののようじゃ」

「扉を壊せば入れるかな?」

「いや、それは止めておいたほうがよいじゃろう」

「あっ、そうか。扉だけ消えてしまうのか」


 僕は、フェリアの家の玄関扉を思い出した。

 同じような造りだとすれば、中は異空間になっていて、扉を攻撃した場合、許容ダメージを超える攻撃を加えると扉は消失するのだ。そして、マジックアイテムなので、消えても約24時間後に再生する。


「それなら、まだ良いのじゃが……」

「どういうこと?」

「扉を破壊すると、建物すべてが破壊されるやも知れぬ」

「そんなことが……?」

「通常は、そのような事態にならぬよう、扉は独立して作られるのじゃが、この扉は、中の人間を逃さぬように作られた牢屋への入り口なのじゃろう?」

「その場合、中の人はどうなるのですか?」

「それは、妾にも分かりませぬ……じゃが、刻印体であっても二度とこちらに戻ってくることは出来ぬであろうな……」


 カチューシャが深刻な顔をしてそう言った。


「そんな……」


 クリスティーナが話に割り込む。


「誰が鍵を持っているの?」

「さぁな、オレは聞いてねぇ」

「コンラッドよ……」


 クレアがそう答えた。


 コンラッドは殺してしまった。

 そのため、コンラッドの『アイテムストレージ』内に存在したと思われる扉の鍵も消えてしまったのだ。


「他に持ってた人は?」

「それは……聞いてません……申し訳ありません……」


 クレアが僕に謝る。彼女のせいではないのだが、今の僕にはクレアを慰める余裕が無かった。


「じゃあ……」


 この中に囚われている女性たちは、二度と外に出られないということだろうか……?


『いや、何か方法があるはずだ』


「カチューシャさん、この扉を開ける方法はありませんか?」

「……主殿……閉じこめられておる女たちには可哀想じゃが……諦めたほうがよいじゃろうのぅ……」

「そんな……【工房】で作られた扉の鍵なら、【工房】で同じものを作れるんじゃ?」

「残念じゃが、そんなに簡単に複製できては意味がないからのぅ……聡明な主殿には分かるじゃろう?」


 確かにカチューシャの言うとおりマジックアイテムの扉の鍵を簡単に複製できたら防犯上の問題が起きるだろう。


「……刻印のシステムにハッキングするとか……?」

「システム? ハッキング? どのような意味ですかぇ?」


『いや、いくら【工房】でも構造を理解してイメージしないと作れないだろうな……』


「主殿……?」


『ソフィアなら……ソフィアなら、何か良い方法を知っているかもしれない』


「ユーイチ、諦めるのはまだ早いわ」


 アリシアがそう言った。


「中の人たちを助ける方法があるの?」

「この扉を作った職人が居るはずよ。もしかしたら、合鍵を持ってるかもしれないわ」

「コンラッドが作ったんじゃないの?」

「コンラッドは、【工房】の刻印を持っていませんでした」


 クレアがそう答えた。


「そうなんだ……」


 これは意外な情報だった。タダで【魔術刻印】を刻むことができるのにどうしてだろう?


「『組織』の刻印魔術師は、【商取引】や【工房】の刻印を持っていません」

「他人事みたいに言っちゃいるが、あんたのことだろ?」

「ええ……でも、もうあたしは『組織』の刻印魔術師じゃないわ」


 クレアは、脅されて刻印魔術師をやっていたのだろう。


「どうして、【工房】の刻印を持ってないの?」

「【刻印付与】を持ち込んだのが商家の人間だからだと聞いています」

「つまり、【商取引】や【工房】は商家の特権ということでしょうね」


 クリスティーナがそう補足した。


「まっ、何にせよ、その職人が合鍵を持っていれば問題は解決だな」


 カーラが楽観的な意見を言った。こういうところは、彼女の美徳だと思う。沈んだ雰囲気を和らげてくれるのだ。


「うん、ソフィアも何か良い案を出してくれるかもしれないしね」

「ええ、組合長ならきっと何か方法を考えてくれるわ」


 クリスティーナが僕を安心させるようにそう言った。


「噂をすれば……ソフィア様が来られたみたいですわ」


 セシリアがそう呟いた。


「えっ? 何処に?」


 僕は、視界に表示されている【レーダー】を見たが僕たち以外に光点は見あたらない。


【ワイド・レーダー】


【ワイド・レーダー】を起動してみると、『ローマの街』の市街地がある東の方角に青い光点が複数表示された。

 おそらく、『組合』の部隊だろう。


「セシリア、どうしてソフィアが来たと分かるの?」

「それは、ソフィア様に刻印していただいた【ワイド・レーダー】という魔術で確認したのですわ」

「【ワイド・レーダー】? 僕も同じ名前の魔術を作ったことがあるんだけど……?」

「あっ……そっ、それは凄い偶然ですわね!?」


 セシリアが何故か慌てた様子でそう言った。


『どうして、僕が作った魔法をソフィアやセシリアが持ってるんだ?』


 単なる偶然だろうか?

 それとも、他人が作った魔法を自分のものにする方法があるのだろうか?


「確かに【ワイド・レーダー】を起動すると遠くに複数の青い光点が映ってるけど、どうしてそれがソフィアだと断言できるの?」

「それは、想像ですわ。このタイミングで現れた一団は『組合』の部隊に間違いないでしょう。だとすれば、ソフィア様は必ずその中に居られるはずですわ。ユーイチ様がここにいらっしゃるのですから」


 セシリアが僕の質問にそう答えた。


「そっか。じゃあ、ソフィアをここで待とう」

「畏まりました」

「そうしましょう」

「ええ……」


 僕たちは、ソフィアが来るのを待った――。


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