11―40
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「んっ……」
僕は、柔らかい感触に包まれながら目を覚ました。
今日は、8月29日(水)だ――。
朝の6時まで眠るように念じてから眠ったので、時刻は午前6時頃だろう。
昨夜は、使い魔たちに授乳された後、マットの上で眠ったのだ。
ちなみに魔法石100個を使って作成したホムンクルスのユリカの母乳は、出会った頃のフェリアの母乳よりも少し美味しいくらいの味で、トロールよりも強い戦闘能力を裏付けていた。
目を開けると淡い光を放つ天井が見えた。
『ハーレム』の大浴場も同じような天井だが、ここは『キャンプルーム』の浴場だ。
周囲を使い魔たちにガッチリと固められているため身動きが取れない。
僕の体の下には、ユリアが寝ていて、後頭部に彼女の胸が当たっている。
お腹の辺りには、フェリアが抱きついているし、四肢には、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、ユキコなどがまとわりついていた。
レヴィア、ベリンダ、ダニエラ、ユリカも空いたスペースに身体を寄せている。
――まるでハーレム主人公みたいだな……。
僕は、自嘲気味にそう思った。
『でも、ハーレムとは違うよな……? 彼女たちは、恋人というよりも家族に近い存在だし……』
彼女たちは、僕にとって姉のような存在だと思う。
最近、使い魔になったばかりのレヴィアたちはともかく、それなりに付き合いの長いフェリアたちに対しては、そんな感情を抱いているのだ。
いくらフェリアが奴隷のような態度を取っていたとしても、それは主従プレイのようなお遊びで、本来の彼女は出会った頃のような優しいお姉さんだと思っている。命の恩人である彼女が主従プレイを望むのであれば、僕も付き合うことに異論はない。
この先、何年もこういう関係を続けていけば、僕の方にも彼女の主人であるという自覚が芽生えるのかもしれないが、僕がこの世界に来てから、まだ数ヶ月しか経っていないのだ。そう簡単に元の世界の常識や倫理観を捨て去ることができるはずもない。
『はぁ……柔らかいなぁ……このままずっと眠っていたい……でも、そろそろ起きないと……』
意外とこの状態でも性的な欲望は感じない。
僕が子供だからかもしれないが、添い寝のような行為ではあまりエッチな気分にはならないのだろう。
それにこうやって使い魔たちと触れ合っていると、家に帰れない不安や家族と会えない寂しさが紛れて癒されるのだ。
僕が体を起こそうとすると、【戦闘モード】を起動していない状態では重くて起きあがれなかった。
「みんな、そろそろ起きるからどいて」
「あんっ……」
「んんっ……」
「はい……」
「……は、はっ!」
「わかりましたわ……」
「……ぎょい……」
「「はぁい……」」
僕にまとわりついていた使い魔たちがのろのろと動き出す。
使い魔たちが身体を離してくれたので、僕は上半身を起こした。
【フライ】
そして、【フライ】を起動して湯船のほうへ飛行していく。
【エアプロテクション】
僕は、【エアプロテクション】を一瞬発動してから湯船に入った。
「ふぅ……」
――ザバッ、ザバザバザバザバザバ……
使い魔たちが僕の周りを囲んだ。
「座って」
――ザバーッ!
僕は、
◇ ◇ ◇
――ガチャ
その後、『キャンプルーム』の扉を召喚して『ロッジ』へ戻った。
レヴィアたち3人を除いた他の使い魔には、『キャンプルーム』で装備を身に着けさせてから帰還し、ホムンクルスのユリカもメイド服姿の『ユリカの装備6』に換装した後、『アイテムストレージ』へ戻している。
『ロッジ』の中を見渡すと、ホムンクルスのオフェーリアとオフィリスしか居なかった。
メイド服姿のオフェーリアとオフィリスが『ロッジ』の壁際に直立不動の姿勢で並んでいる。
他の人たちは、『ハーレム』の中でまだ寝ているのだろう。
僕は、いつものテーブルのいつもの席に座った。
「レヴィアたちも適当に座って」
「ハッ!」
「「はいっ」」
レヴィアたち3人が隅のテーブルへ移動していく。
昨日、座っていたのと同じテーブルだ。
『現在時刻』
時刻を確認してみると、【06:32】だった。
そろそろ、みんなを起こしたほうがいいだろう。
しかし、女性が寝ているところへ起こしに行くわけにはいかない。
【テレフォン】→『カチューシャ』
僕は、左手を左耳に当ててカチューシャに向けて【テレフォン】の魔術を起動した。
「もしもし、カチューシャさん?」
「……はぇ? あるじどの?」
数秒の間を置いてカチューシャが応答した。
「7時頃には出たいので、みんなを起こしてください」
「分かり申した……。あの……主殿……。悪いのですが、こちらの建物に自動清掃機能を発動してくだされ」
「分かりました」
『ハーレム』
僕は、『ハーレム』の扉を『アイテムストレージ』へ戻してから、同じ場所に召喚し直した。
「ありがとうございまする。さっぱりいたしました」
「じゃあ、通信終わり」
カチューシャへ向けて使用していた【テレフォン】の魔術をオフにした。
同時に左耳に当てていた左手を下ろす。
「では、すぐに主殿の元へ参ります」
僕が【テレフォン】の魔術をオフにしたあとにカチューシャからのメッセージが左の耳元に届いた。
【テレフォン】の魔術は、術者が相手に向けて使うものなので、相手から一方的にメッセージが届くのだ。
電話のような感覚で使っていると、電話を切ったのに相手の声が聞こえてくるような現象が起きてしまい違和感を感じる。
――ガチャ
「あるじどのぉ!」
『ハーレム』の扉が開いて、中からカチューシャが飛び出してきた。
そして、凄いスピードで飛行して僕の近くまでやってきた。
「カチューシャ様、そんなに急いでは危ないですわよ」
カチューシャに続いて『ハーレム』の扉から出てきたクリスティーナがそう言った。
彼女は、黒い下着の上に黒のキャミソールという寝間着姿だ。
「主殿、寂しかったぞぇ……」
「おはようございます」
「おお、これは失礼いたし申した。おはようございまする、主殿」
カチューシャは、そう言って僕の左隣の席に座り、僕の腕にしがみついた。
「クリスもおはよう」
「ええ、おはよう。ユーイチ」
それから、クリスティーナのパーティメンバーが寝間着姿で『ロッジ』の中に入ってきた。
寝間着を持っていないらしいカーラとアリシアにいたっては下着姿だ。
しかし、もう見慣れてしまった感がある。
「たまには、女同士もいいもんだよなぁ?」
「カーラとは、もうコリゴリですわ」
「またまたぁ? レティがあんな可愛い声を出すとは思わなかったぜ」
「ちょっ、ユーイチに聞かれてしまいますから、止めてくださいな」
「お、ユーイチ。おはようさん」
「お、おはようございますわ」
「みんな、おはよう」
僕は、パーティメンバーに挨拶をした。
「うむ。おはよう」
「ユーイチくん、おはようございますわ」
「おはよう、ユーイチ」
「お前もこっちで寝れば良かったのに……昨日は凄かったんだぜ?」
「ちょっと、カーラ!」
カーラが僕の背後に回り込み抱きついた。
後頭部に柔らかい
「ふぅ……」
僕は溜め息を
「なんだよ? その態度は?」
「何かもう慣れちゃったなと思って……」
「なっ!? オレの胸に飽きたっていうのか!?」
「そこまでは言いませんけどね」
「可愛くねーな」
「ふふっ、ユーイチもカーラの扱いに慣れてきましたわね」
クリスティーナのパーティメンバーに続いて、アンジェラとマリエルのパーティメンバーが『ハーレム』から『ロッジ』へ入ってきた。
「ユーイチ殿、おはようございます」
マリエルが僕が座るテーブルの側に来て恥ずかしそうにそう言った。
彼女は、白いタンクトップ姿だ。裾から白いパンティが見えてしまっている。
僕は、目のやり場に困った。
「おはようございます」
「おはよ……」
「ユーイチ……」
続いて、エレナとモニカがそう言った。
彼女たちは、薄い黒のボディスーツ姿だ。
薄い生地なので、透けてしまっている。
僕は、目を逸らした。
「見たくないの?」
「いえ……いいです」
「ガッカリ……」
「魅力が無いと言ってるわけじゃないですよ? 逆だから困るんです」
「そう……」
「良かった……」
それ以外の女性たちも下着に近いあられもない姿をしている。
おそらく、寝間着のまま『ロッジ』に来たのだろう。
僕は、他の女性たちとも挨拶を交わした――。
◇ ◇ ◇
それから、僕は全員の席に朝食として『サンドイッチセット』を出した。
「ユーイチ、もう街へ戻る?」
僕の向かいの席からクリスティーナがそう尋ねてきた。
カチューシャ以外のパーティメンバーたちは、僕の右隣にアリシア、向かい側にクリスティーナと、その左右にレティシアとレリアが座っていた。カーラとグレースは、隣のテーブルに座っている。
「スケルトンを倒してみたいんだけど……?」
僕は、そう提案してみた。
「うおっ、マジかよ!?」
隣のテーブルからカーラがそう叫んだ。
「ユーイチ殿!?」
奥のテーブルでマリエルが立ち上がりそう言った。
「マリエル、あたしたちでも戦えるんだから、ユーイチくらい強ければ、結構いい線いくんじゃねーか?」
「確かにユーイチ殿ならば、スケルトンを危なげなく倒せるだろうが……それでも、あの数を突破するのは無理だろう」
「ユーイチならできるかも……」
「少なくとも
「お姉様の仰るとおりですわ」
立ち上がっていたマリエルが腰を下ろす。
「課外活動の成果としては、もう十分だと思うのだけれど?」
クリスティーナが僕に向かってそう言った。
「クリスは反対?」
「そんなことはないわよ」
「オレは、反対だぜ。面倒くさいし、無駄に危険な目に遭う必要はねぇだろ?」
「カーラにしては、まともな意見ですわね」
「レティも反対なの?」
「いいえ。
「しかし、ユーイチ。本当に大丈夫なのか?」
レリアがそう訊いてきた。
「スケルトンは、オーク・ウォーリア程度の強さらしいので、僕とカチューシャさんの敵ではありません」
「数が多いそうよ?」
「何万体居ても大丈夫です」
「ユーイチがそう言うなら大丈夫でしょうね。あたしも賛成よ」
アリシアがそう言った。
「スケルトンを突破した奥に何があるのか知りたくありませんか?」
僕は、パーティメンバーたちを説得するため、そう言った。
「スケルトン以上の脅威があるかもしれないわよ?」
「ホムンクルスを偵察に出します」
「なるほどな」
「昨日のように?」
「そうです」
「ああっ!? 昨日、メイドエルフが先に降りて来たのは偵察のためだったのか!?」
「ユーイチ。もしも、昨日のようなことがまたあったとして、偵察ができなかったら、どうするおつもりですの?」
「もし、僕がホムンクルスを持っていなくても、昨日のような場面では、落とし穴に落ちてパーティメンバーの安否を確認すると思いますよ」
「ユーイチくん、ありがとうございますわ」
「ユーイチが責任取ってくれるならいいぜ」
「他力本願すぎますわ」
どうやら、みんなスケルトン討伐に賛成してくれたようだ。
「じゃあ、そろそろ出発しよう」
僕は、そう言って立ち上がった――。
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