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 ――ガチャ


『密談部屋3』の扉から、フェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、ユキコが入ってきた。

 扉が閉められたのを確認して、僕は、『密談部屋3』の扉を『アイテムストレージ』へ戻す。


「ただいま戻りました」


 フェリアが僕の近くまで来てそう言った。


「ご苦労様」


 僕がそう言うと甲冑姿のフェリアが頭を下げた。


「フェリア、『魔女』のユリアを召喚して」

「ハッ!」


 片足を床に突き騎士のように跪くレヴィアの後ろに白い光が発生してユリアが召喚された。


「ご主人様……?」

「久しぶり……と言ってもそっちはそうでもないのかな……?」

「いえ、お久しぶりでございます」


 そう言って、ユリアが頭を下げた。


「それで、わたくしに何か御用ですか?」

「ちょっと、聞きたいことがあったんだ。ホムンクルスに憑依しているときに、そのホムンクルスが死んじゃったら、術者に何か影響はあるのかな?」

「おそらく、影響はございませんわ」

「試したことあるの?」

「ホムンクルスではありませんが、ゴーレムではあります」

「なるほど……同じような存在だから問題ないということか……」

「ご心配でしたら、実験されてみては?」

「うーん……それはなぁ……」

「何か問題でも?」

「ホムンクルスとはいえ、殺すのは気が引けるんだよね……」

「では、わたくしりましょう」


 フェリアが口を挟んだ。


「待って……少し考えてみるから……」

「畏まりました」


『ユリアにお金を渡して、適当にホムンクルスを作成してもらい、ユリアが憑依した状態でフェリアに倒してもらえばいいかな?』


『トレード』→『ユリア』


 僕は、ユリアに1000万ゴールドを渡した。


「このお金でホムンクルスを作成すれば良いのですね?」

「いま渡した1000万ゴールドのうち、100万ゴールドで作って。つまり、魔法石を100個使ったホムンクルスだね。残りのお金は、取っておいて。また、何か作ってもらうかもしれないし」

「畏まりましたわ。それで、どのようなホムンクルスを作成いたしましょう?」

「うん。それなんだけど……フェリア、ユリコを召喚して」

「ハッ!」


 ユリアの近くにメイド服姿のユリコが召喚された。


「そのユリコをベースにそっくりなホムンクルスを作ってみて」

「畏まりました」

「ユリコ、ユリアの命令に従って」

「はい……」


 ユリコが無表情のままそう言った。


「では、ユリコさん? こちらにいらして」

「はい……」


 ユリアがユリコを部屋の空いたスペースへ連れていった。


 視線を下げると片膝を突きこうべを垂れた姿勢のレヴィアが僕の前で控えている。

 まるで、叙勲される騎士のような恰好だ。


「レヴィアも戻って」

「ハッ!」


 レヴィアがフェリアと同じような返事をして立ち上がり、元居たテーブルへと戻って行った――。


 ◇ ◇ ◇


「ご主人様、ホムンクルスの能力はどう配分いたしましょうか?」


 ユリコを裸にして観察していたユリアが指示を仰いできた。何故か自身も裸になっている。


 訊いてきたのは、ユリコをベースに作成するホムンクルスのステータスをどうするかということのようだ。

 100万ゴールド、つまり魔法石100個で作るホムンクルスなので、オフェーリアやオフィリスほどの能力はない。

 パペットのドライも魔法石100個で作成したが、能力は調整した。今回もそうしたほうがいいだろう。


「じゃあ、『筋力』と『敏捷性』、『耐久力』を半分にして」

「畏まりました」


 パペットに比べるとホムンクルスは、装備を細かく変更できるため、デフォルトのままでも良かったのだが、どちらかと言えば、魔術師系のほうがイメージ的にも似合うと思うので、魔術に関係するステータスを上げることにしたのだ。

 ユリアが現在作っているホムンクルスは、『筋力』・『敏捷性』・『耐久力』がデフォルトの半分となり、『魔力』・『精霊力』・『神力』が1.5倍になっていると思われる。


 ちなみにパペットは、金属素材を追加して作成できるため、硬い上に金属の装甲に直接【魔術刻印】を刻むことができるというメリットがある。金属鎧でも刻印石を追加すれば、魔力系や精霊系の魔術を使うことができるが、リキャストタイムがデフォルトのまま固定されるため、直接、皮膚に【魔術刻印】を刻んだ場合とは異なっている。ただ、パペットの装甲に刻んだ【魔術刻印】のリキャストタイムがどうなっているのかは分からない。ステータスの影響を受けて短くなっている可能性が高いが、それを確認したことがないためだ。


「ご主人様、ホムンクルスの名前はどうなさいますか?」


 僕がそんなことを考えているとユリアがそう訊いてきた。


「んー……ユリカで」


 ユリエとどっちにするか迷ったが、何となくユリカにした。


 ユリコの前に屈んでいたユリアが立ち上がり、こちらに歩いてきた。ユリコも後に続いている。

 すると、僕の目の前に白い光に包まれてユリコに瓜二つのホムンクルスが召喚された。


「ご主人様、こちらをどうぞ……」


 僕の視界に『トレード』のウィンドウが開いた。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・ユリカのレシピ【ホムンクルス】


―――――――――――――――――――――――――――――


 なんと、ホムンクルスのレシピだった。

 料理のレシピなんかと同様にゴーレム類のレシピも渡すことができるようだ。


【ゴーレム作成】→『ホムンクルス』→『レシピから作成』


 僕は、レシピを受け取ってから、そう念じてみる。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・ユリカ【ホムンクルス】


―――――――――――――――――――――――――――――


 視界にウィンドウが開いた。


『ユリカ作成』と念じる。


『魔法石が100個必要です。よろしいですか?』と表示されたので、【商取引】で魔法石を100個購入してから、ホムンクルスのユリカを作成した。


『ユリカ』


 設置場所を示すガイドが表示されたので、目の前に立つユリカの向かって左隣に指定する。

 ユリアが召喚したユリカの隣に僕が召喚したユリカが白い光に包まれて出現した。


「ユリコさん、ご主人様の前へ……」


 そう言ってユリアがユリコをホムンクルスの隣へ誘う。


 僕の前に3人のユリコが並んだ。


『見分けがつかないな……』


 3人とも裸だが、知的好奇心が勝っているためか、間違い探しのようにホムンクルスとユリコを見比べてしまう。

 しかし、違いは分からなかった。


『ハッ!? こんなところをクリスたちに見つかったら何を言われるか分からないぞ……』


 僕は、立ち上がり何もない壁の前に移動した。


『キャンプルーム』


 そして、『キャンプルーム』の扉を壁際に召喚した。


「アリシアとカチューシャさんは、ここに残ってください」

「どうしてじゃ?」

「クリスたちに僕は、明日の朝まで用事があると伝えて欲しいのです」

「それならば、アリシアだけで良いではござらんか……」

「カチューシャさんは、いつも一緒に居るでしょ?」

「……分かり申した……」

「ユーイチ……いってらっしゃい」


 アリシアが控え目にそう言った。


「はい。オフェーリアとオフィリスも残って。食事を頼まれたら【料理】スキルで出してあげて」

「畏まりました」

「分かりましたわ」


 ――ガチャ


 僕は、『キャンプルーム』の扉を開いた。


「あ、あの……ご主人様……?」


 ずっと部屋の隅にあるテーブルでおとなしくしていたベリンダが声を掛けてきた。


「どうしました?」

「あたしたちもそちらへ行っていいですか?」

「ええ、構いませんよ」

「ありがとうございます」


 ベリンダ、ダニエラ、レヴィアの3人がこちらへ歩いてくる。


 僕は、『キャンプルーム』の中へ入った。

 続いて、フェリアを先頭に使い魔たちが『キャンプルーム』の中に入ってくる。

 最後にレヴィアが入ったところで扉を閉めて『アイテムストレージ』へ戻した。


「フェリス、ホムンクルスの二人に娼婦たちと同じ【魔術刻印】を刻んで。あっ、召喚魔法の【サモン】は必要ないから」

「畏まりましたわ、ご主人サマ。さぁ、ホムンクルスのお二人は、こちらへ……」


 フェリスがそう言って手近なテーブルへホムンクルスを誘った。


【工房】


 僕は、フェリスがホムンクルスたちに刻印を施しているテーブルに反対向きに座り、目を閉じて【工房】のスキルを起動した。


『装備作成』→『レシピから作成』


 以下の装備を2セット作成する。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・メイドカチューシャ

 ・グレート・ヘルムのサークレット

 ・黒のチョーカー

 ・フェリアのメイド服

 ・フェリアの腕輪

 ・黒のストッキング&ガーターベルト

 ・竜革のブーツ+5

 ・魔布の黒ブラジャー

 ・魔布の黒Tバックパンティー


―――――――――――――――――――――――――――――


『フェリアのメイド服』を作ってみたが、出会った頃のフェリアにも装備できなかったメイド服を魔法石100個で作成し、更に『筋力』を半減させたホムンクルスに装備できるかどうかが問題だ。


 僕は、目を開けて、フェリスがホムンクルスの二人に【魔術刻印】を刻み終わるのを待った――。


 ◇ ◇ ◇


「終わりましたわ」


 そう言って、裸のフェリスがテーブルから降りて裸のホムンクルスの二人を僕の前に連れてきた。


「ありがとう……フェリスは服を着て下がって」

「分かりましたわ」


 フェリスが白い光に包まれて、いつものエルフ装備となり壁際へ移動した。


『トレード』


 僕は、ホムンクルスの二人に作成した装備を渡した。


「えっと、どっちが僕のホムンクルスなのかな?」


 見分けがつかないので訊いてみる。


わたしです……」


 向かって左側に立つユリカが無感情な声でそう言った。

 ユリカの声は、ユリコと酷似している。


『やっぱり、ベースとなったユリコの影響を受けてるんだな……』


 フェリアの似姿で作ったオフェーリアはフェリアに、フェリスの似姿で作ったオフィリスはフェリスに声や性格が似ているのだ。

 おそらく、【ゴーレム作成】を使った術者のイメージがホムンクルスに反映されるのだろう。


『ユリカの装備6』


―――――――――――――――――――――――――――――


 頭:メイドカチューシャ

 額:グレート・ヘルムのサークレット

 首:黒のチョーカー

 服:フェリアのメイド服

 腕輪:フェリアの腕輪

 脚:黒のストッキング&ガーターベルト

 足:竜革のブーツ+5

 下着:魔布の黒ブラジャー

 下着:魔布の黒Tバックパンティー


―――――――――――――――――――――――――――――


 装備を直接設定してみたところ、『ユリカの装備6』に『フェリアのメイド服』を設定することができた。

 魔法石100個を使って作成したホムンクルスは、出会った頃のフェリアよりもレベルが高いということだ。

 考えてみれば、ユリカと同じ魔法石100個で作成したパペットのドライは、トロールよりも強かった。

 僕たちがトロールと戦った頃には、フェリアは『フェリアのメイド服』を装備できていたのだ。ユリカの『筋力』は、デフォルトの半分に設定したので、その点は割り引く必要があるだろうが、フェリアもレベルの割に『筋力』は高くなさそうだった。おそらく、魔法石50個で作成した能力がデフォルト状態のホムンクルスにも『フェリアのメイド服』は装備できるのではないだろうか。


『ユリカの装備6換装』


 左側に立つユリカが白い光に包まれてメイド服姿となった。


「ユリア、『ユリカの装備6』にメイド服を装備させて換装して」

「畏まりました」

「それから、ユリアとユリコも何か服を着て」

「ふふっ……分かりました」

「はい……」


 裸のユリカとユリアとユリコが白い光に包まれてメイド服姿となった。


『武器はどうするかな?』


 とりあえず、オフェーリアたちと同じ『アダマンタイトの小太刀+30』を1本作成して渡してみる。


『トレード』


『ユリカの装備1』に『ユリカの装備6』と同じメイド装備を設定した後、『アダマンタイトの小太刀+30』を装備した。

 どうやら、『筋力』を半分にしても、『アダマンタイトの小太刀+30』は装備可能なようだ。パペットのドライも『筋力』を半分にしたが、『アダマンタイトのハルバード+50』を装備できたくらいなので、同じ個数の魔法石を使っているユリカも同じくらいの重さの武器や防具を装備可能なはずだった。


【工房】


 僕は、【工房】のスキルを起動して、『アダマンタイトの小太刀+30』を更に3本作成してホムンクルスたちに渡した。僕がレシピから作成したホムンクルスに1本、ユリアが作成したホムンクルスには2本だ。


 そして、『ユリカの装備1』に装備させる。


『ユリカの装備1』


―――――――――――――――――――――――――――――


 右手武器:アダマンタイトの小太刀+30

 左手武器:アダマンタイトの小太刀+30

 頭:メイドカチューシャ

 額:グレート・ヘルムのサークレット

 首:黒のチョーカー

 服:フェリアのメイド服

 腕輪:フェリアの腕輪

 脚:黒のストッキング&ガーターベルト

 足:竜革のブーツ+5

 下着:魔布の黒ブラジャー

 下着:魔布の黒Tバックパンティー


―――――――――――――――――――――――――――――


「ユリア、ユリカに武器を渡したから、『装備1』にメイド服と一緒に装備させて」

「畏まりました」


『さて、と……どうやって実験しようかな?』


 元々、『憑依しているホムンクルスが死んだ場合、術者はどうなるのか?』という疑問を検証するためにユリカを作ったのだ。

 勿論、ユリカは、実験が終わった後もホムンクルスとしていろいろ活用させてもらうつもりだ。元ゾンビで無感情なユリコがベースになっているため、気分的に使いやすいということもあった。

 他の使い魔をベースにしたホムンクルスの場合だと、使う度にその使い魔の肖像権を侵害しているように感じてしまうと思う。

 オフェーリアやオフィリスのように超高レベルな戦闘要員として使うならともかく、量産して召使いのように使うのは気が引けるだろう。その点、ユリカは雑用係として様々なところへ配置したら便利だろうなと思えるホムンクルスだった。


「じゃあ、実験をしよう」

「分かりました。どのようになさいますか?」


 ユリアがそう言った。


「まず、ユリアは適当な席に座ってユリカに憑依して」

「畏まりましたわ」


 そう言って、僕の隣に座った。そして、ピッタリと身体を寄せてくる。


「ユキコ、そちら側からユリアの身体を軽く抱いて保持して」

「分かりました……」


 ユキコがユリアの向こう側に座った。この長椅子は片側に3人が座るように設計されているが、僕が中央に座っていてもユリアが僕に身体を寄せているため、ユキコが座れるくらいのスペースが空いているのだ。

 そして、ユキコは両腕をユリアの身体に回して抱き寄せた。

 ユリアは、既にユリカに憑依しているようで、目を閉じている。


 それを確認して、僕は立ち上がった。


「じゃあ、フェリアとルート・ドライアード、それからユリアが憑依したユリカだけついてきて……」

「ハッ!」

「御意!」

「はい……」


『まてよ……?』


 僕は、あることが気になったのでレヴィアたちも連れて行くことにした。


「あ、レヴィアとベリンダさんたちも来てもらえますか?」

「畏まりました」

「勿論です」

「分かりました」


『キャンプルーム・裏口』


 そして、『キャンプルーム・裏口』の扉を召喚する。


「フェリア」

「ハッ!」


 僕の体が回復系魔術のエフェクトに包まれた。


 ――ガチャ


 甲冑姿のフェリアが『キャンプルーム・裏口』の扉を開けて外へ出る。


 僕もフェリアに続いて『キャンプルーム』の裏口から外へ出た――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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