11―11

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「ユーイチ、悪かったな……」


『夢魔の館』から『プリティ・キャット』の地下にある食堂兼リビングルームへ戻ると、カーラが僕に話し掛けてきた。


「何がです?」

「今まで、お前のことを童貞と馬鹿にして……お前は、童貞じゃないよ……」

「ええっ!? いや、童貞なんですけど……」

「あんなに何人もの女たちと裸で絡み合ってる童貞はいねーだろ!」

「そうですわね……」


 日頃、カーラと不仲なレティシアまでがカーラに同調した。


「最後までシてないというだけよね……」

「アリシアまで……止めてくださいよ……。僕は、エッチな目的で彼女たちとマットプレイをしているわけではありませんから……」

「じゃあ、どういうわけなの?」

「それは……スキンシップというか……彼女たちが求めてくるので……」

「ふーん、スキンシップねぇ?」


 カーラが疑わしいという風にそう言った。


『スキンシップで通じるんだ……』


 現実逃避のためか、そんな思考が頭に浮かぶ。


「でも、あのマットプレイというのは、凄く気持ちが良いわね」


 僕の窮状を察してか、クリスティーナが話題を変えてくれた。


「そうだ! ユーイチ! 今度、オレとマットプレイしようぜ?」

「お断りします」

「何でだよ!?」

「相手がカーラだと、貞操の危険を感じますからね」

「そうね。カーラとは止めておいたほうがいいと思うわ」

「クリスまで!? オレを何だと思ってるんだよ!?」

「日頃の行いのせいですわ」

「レティ! てめぇ!」

「間違いが起きるといけないので、使い魔以外とはマットプレイはしません」


 この際だから、線引きをしておくことにした。

『夢魔の館』を造ったときに『エドの街』の組合職員のマリとマットプレイをしたことがあるが、彼女は一般人だしノーカンということにする。


「そう……残念ね……」

「ホントですわぁ……」

「ええ……」


 レリアが僕の前に来た。


「……ユーイチ……貴様は……」


 思いつめた顔でそう言った。


「な、何?」

「いや……何でもない……」


『何か言いたそうなんだけど……』


 パーティメンバーたちは、裸ではなかったが、カチューシャを除いてラフな寝間着姿だった。

 使い魔たちなら、風呂からあがった後、命令しないと服を着なかっただろう。

 カチューシャは、『夢魔の館』の食堂で僕が使い魔たちに服を着るよう命じたときにいつものゴスロリドレスを装備していた。


 クセニアは、『夢魔の館』に残してきた。

 明日、トウコの持つ『移動部屋』から入って、『ウラジオストクの街』に居るグルフィヤの『移動部屋・裏口』から出た後、『ゲート』を経由して『アスタナの街』へ帰り、日曜日に『アスタナの街』の教団の幹部を『夢魔の館』へ連れてくるよう指示しておいたのだ。

 また、40歳を超えている教団員には、『女神の秘薬』を飲ませておくようにとも指示しておいた。


 時刻は、まだ朝の8時を過ぎたところなので、『ローマの街』と『エドの街』は、7時間くらいの時差があることが分かる。


 ――ニャーン……


 テーブルの席に着くと猫たちが足下に寄ってきた。

 僕の足に体を擦りつけている。

 猫たちは、刻印を刻んでいるので、擦り寄られても足に毛が付くということはないようだ。


 地下の食堂には、猫たちの他には誰も居なかった。

 いつもは、月曜日に休みのアデリーナ母娘おやこが居るのだが、今日はリビングから既に移動した後のようだ。


 僕たちは、朝食を食べてから学園へ向かった――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 8月の第二週である8月7日(月)から8月10日(木)までは、前の週とほぼ同じスケジュールだった。

 月曜日と水曜日に地下迷宮に行き、火曜日と木曜日には『オークの砦』で狩りをするというパターンだ。


 そして、今日は、8月10日(木)だ――。


 時刻は、午後8時過ぎだった。

 パーティメンバーたちは、『オークの砦』へ行っている。


 今日もトロール狩りをする予定だが、あることの為にこの時間まで待っていたのだ。

 いつもなら、パーティメンバーが出掛けてから、少し経ったくらいの午後6時頃にトロール狩りに行ってもらっていた。

 しかし、今日は、『プリティ・キャット』の店員たちをトロール狩りに参加させようと思い、店が終わるのを待っていたのだ。


『プリティ・キャット・裏口』


 僕は、『キャンプルーム』の壁際に『プリティ・キャット』の裏口の扉を召喚した。

 何気にこの扉を使うのは初めてだ。


 ――ガチャ


 扉を開けると『プリティ・キャット』の地下にあるリビングが見えた。

 そのまま、中に入る。


「――――っ!?」

「え……? ご主人さま!?」

「ユーイチ様、どうなさいましたの?」


 僕が珍しいところから出てきたので、元村人の店員たちは驚いたようだ。

 彼女たちは、食事を摂っていた。


「食事が終わったら、全員、この扉に入ってきて」


 僕は、そう言って、『キャンプルーム』へ戻った――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ガチャ


 僕が『キャンプルーム』に戻って、5分くらい経った後、『プリティ・キャット』の裏口の扉が開いた。

 そこから、店員たちが『キャンプルーム』へ入ってくる。


「ユーイチ様……?」

「今日は、トロール討伐に同行してもらう」

「あたしたちに戦えと?」

「戦うのは嫌?」

「いえ、ご命令とあれば従います。しかし、あたしたちで役に立つのでしょうか?」

「君たちだけで戦うわけじゃないから大丈夫。それに『組織』に目をつけられている以上、荒事にも慣れておいたほうがいいと思うし……」

「分かりました」


『フェリア召喚』『ルート・ドライアード召喚』『フェリス召喚』『ルート・ニンフ召喚』『ユキコ召喚』


「ご主人様、ご命令を」

「主殿」

「ご主人サマ……」

「旦那さま」

「……ご主人様」


『キャンプルーム』の中にレイコを除いた直属の使い魔たちを召喚した。


「今日もトロール討伐に行くよ」

「「ハッ!」」

「分かりましたわ」

「ええ」

「はい……」

「今日は、この店員たちと一緒に僕も行くからね」


 僕の体が回復系のエフェクトに包まれた。

 フェリアが回復系のバフを入れてくれたようだ。


『密談部屋3』


『密談部屋3』の扉を召喚して中に入る。


「ルート・ドライアード」

「ハッ!」


 入り口の反対側の壁に扉が召喚された。


「フェリア」

「ハッ!」


 甲冑姿のフェリアが扉を開けて外に出る。


『装備2換装』


【フライ】【ナイトサイト】


 僕は、装備を換装して【フライ】と【ナイトサイト】の自己強化型魔術を起動してから、フェリアに続いた。

 時差の関係で富士の麓の時刻は、午前3時過ぎだ。


「フェリア以外は、使い魔を召喚して」

「ハッ!」

「分かりましたわ」

「いいわよ」

「はい……」


 トロールの洞窟の前が大量の使い魔を召喚する光に包まれた。


「うわぁ……」

「す、凄い……」

「ご主人さま……」

「「…………」」


 その幻想的な光景に店員たちは目をみはっている。


「じゃあ、店員たちは初めてだから説明するけど、僕が合図したら、そこの入り口付近から、トロールの集団をターゲットにして【ファイアストーム】の魔術を撃ち込んで。リキャストタイムが終わったら、どんどん撃ち込んでいいからね」

「「はいっ」」

「他のメンバーは、今回は攻撃しないように」

「「はいっ!」」


 全員で攻撃すると瞬殺してしまうので、今回は、僕と『プリティ・キャット』の店員たちだけで討伐したほうがいいだろう。


「じゃあ、フェリア」

「ハッ! 畏まりました」


 フェリアが洞窟内へ飛行して入っていく。


『速い……』


 目にもとまらないスピードで一瞬で奥のほうまで移動してしまった。

 おそらく、【ハイ・マニューバ】を使っているのだろう。

【戦闘モード】を起動していない僕には、凄まじい速度に感じた。


 トロールたちが奥の穴から飛び出してくる。


「あっ……」

「ママ……あたし怖い……」

「ロリサ。ご主人様の言うとおりにしていれば大丈夫よ……」


『フェリア帰還』


 フェリアがトロールに囲まれたので帰還させる。


『フェリア召喚』


「ご主人様」

「ご苦労様。使い魔たちを召喚してから、ルート・ドライアードと入り口で待機して」

「ハッ!」


【ファイアストーム】


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 トロールの集団に【ファイアストーム】を撃ち込んだ。

 効果範囲内のトロールが白い光に包まれて消え去った。

 それを見たトロール達が入り口に向かって移動してきた。


「じゃあ、攻撃開始!」

「「はいっ」」


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ・

 ・

 ・


 店員たちがトロールの集団に次々と【ファイアストーム】を撃ち込んだ。

 流石に使い魔になってから日が浅い彼女たちの【ファイアストーム】では、一撃では倒せないようだ。


【ホールド・ヴォーテックス】


 ――ゴォオオオーーーッ!


【ホールド・ヴォーテックス】


 ――ゴォオオオーーーッ!


 接近してきたトロールの集団に向け、移動阻害の効果がある【ホールド・ヴォーテックス】を発動する。【ホールド・ヴォーテックス】により洞窟内に二つの竜巻が発生した。


「「キャッ!?」」

「「あっ!」」


 洞窟内に物凄い勢いの風が吹き込んだため、店員の中には悲鳴を上げる者も居た。普通の人間なら立っていられないだろう。いや、刻印を刻んだ者でも【フライ】などの魔術が使えないと【ホールド・ヴォーテックス】により発生した竜巻に引き込まれてしまうかもしれない。


【ホールド・ヴォーテックス】に巻き込まれたトロール達が次々と白い光に包まれて消え去っていく……。


 動揺から立ち直った店員たちは、【ファイアストーム】による攻撃を再開する。


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ・

 ・

 ・


 それから、10分と掛からずにトロールの群れは殲滅された――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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