11―9

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「ハァハァハァハァハァ……」


 ――チュパッ……


 レリアの乳房から口を離した。

 これで、今日もパーティメンバー全員から授乳されたことになる。


「大丈夫ですか?」

「……あ、ああ……。こ、これは、慣れないな……」

「レリアは、感じすぎだろ」

「かっ、感じてなどいない!」

「いやいや、それは無理があるだろ……」


 カーラが少し呆れた態度でそう言った。


【戦闘モード】


 目の前でレリアの小さな乳房が揺れているのを見ていたら欲情してきたので、僕は【戦闘モード】を起動して冷静さを取り戻した。

 レリアの身体を見ないように目を閉じる。


「レリア、そろそろ戻ってください」

「あっ……すっ、すまない……」


 ――ザバッ! ザバザバザバ……


 レリアは、立ち上がって少し移動したようだ。


『ヤバいなぁ……この調子だと、このパーティの人たちもそのうち使い魔になっちゃいそうだ……』


 僕は目を閉じたまま、そんなことを考えた。

 彼女たちを使い魔にすること自体は、別に嫌ではないのだが、使い魔にしてしまったら、パーティメンバーたちの僕に対する態度が変わってしまうだろう。

 比較的に対等な関係で僕に接してくれる彼女たちは、この世界では貴重な存在なのだ。


「ユーイチ。今日はどうするの?」

「僕は、用事があるので、別行動をさせてください」

「その用事が何か聞いてもいい?」

「ええ、『アスタナの街』の教団に所属している使い魔が『プリティ・キャット』に来ていると思うので、会って対応しないといけないのです」

「どんなことをするの?」

「今までにもいくつかの街の『女神教』の教団と交渉して協力関係を築いてきたのですが、たまたま、アデリーナたちの村に来ていた教団員と知り合って使い魔にしたので、『アスタナの街』の教団とも交渉してもらっていたのです」


 僕は、一呼吸置いてから話を続ける。


「『女神教』の教団は、幹部に刻印を刻むことを目的の一つとしているようで、その資金稼ぎのために娼館を経営したり、有力者に取り入って寄付を集めたりしているようなのです。ですから、刻印を刻んであげる代わりに僕の使い魔になるよう説得してもらいました」

「マジかよ……」

「ユーイチが全教団員に刻印を刻んであげて使い魔にするということかしら?」

「いえ、全員ではなく、40歳以上の教団員に限定します。40歳になるまでは、今まで通り教団に仕えて、40歳になったら、刻印を刻む代わりに僕の使い魔になってもらうということです」

「ユーイチくんは、熟女が好みなのかしら?」

「いえ、別に自分の女にするとか、そういうつもりで使い魔にするわけではありませんからね」

「じゃあ、どういうつもりでそんなにお金の掛かることをするの?」


 アリシアがそう尋ねた。


「ユーイチは、エルフの刻印を刻むのだろう?」

「ええ。ですから刻印を刻むのにお金は必要ありません」

「しかし、刻印を刻んだ教団員たちをどうするつもりなのだ?」

「別にどうもしませんよ。特に希望が無ければ、そのまま教団で働いてもらいます」


 クリスティーナが思いついたように話し始める。


「なるほど……。そうやって、教団を陰から支配するつもりなのね?」

「流石、主殿じゃ」

「いや、そんなつもりはありませんよ?」


 ――人を何だと思っているのだろう? クリスやカチューシャは、僕を腹黒いフィクサーのような人間だと思っているのかもしれない。


「そうなの? じゃあ、あまり意味がないと思うわ」

「ユーイチくんは、教団の人たちを助けたいのですわよね?」

「ええ、まぁ……」

「流石、ユーイチね。わたくし、感動いたしましたわ」

「うむ」

「素晴らしいですわ……」


 ――ザバーッ


 誰かが湯船の中を移動して来る気配を感じる。


 ――むにゅっ……


「わあっ!」


 いきなり抱きつかれて驚いた。

 目を開けると巨大な乳房に顔が埋もれている。

 顔を上げるとグレースと目が合った。


「ふふっ、ユーイチくんを抱きしめたくなったのですわ」


【戦闘モード】


 僕は、【戦闘モード】を一瞬起動して、胡座から体育座りに姿勢を変えて目を閉じた。


『柔らかいなぁ……凄く癒される……』


「ふふっ……可愛い……」


 僕は、しばしグレースの胸の感触を楽しんだ――。


 ◇ ◇ ◇


「本当にいいのですか?」

「ええ、わたくしたちも特にやることがないのよ」

「でも、せっかくの休日なのに……」

「ユーイチが何をするのか見物するほうが楽しそうだぜ」

「そうですわ。わたくしも興味がありますわ」

「確かにな……」

「妾は、主殿のお側を離れぬよ」

「退屈かもしれませんよ?」

「そのときは、お風呂に入ったり、昼寝したりして時間をつぶせばいいわよ」

「あたくしには、ニンフを貸してくださいな」


 僕は、パーティメンバーと一緒に学園から『プリティ・キャット』へ向かっていた。

『キャンプルーム』の浴場でゆっくりし過ぎたため、時刻はもう昼前だ。


 使い魔のカチューシャはともかく、他のパーティメンバーたちの休日を潰してしまうのは心苦しいので、別行動をすると言ったのだが、僕が何をするのか興味があるらしく、皆でついてくると言い出したのだ。

 他にやることがなく暇だったということもあるだろう。

 これまでの日曜日もそうだったが、毎回、特にやることがないので、何をして過ごすかが課題となっていた。

 何も思いつかないときは、街をブラついて食べ歩きをしたり、服や装備などを売っている店を冷やかしたりといった感じだった。

 彼女たちは、有力商家の娘ではあるが、あまりお金を遣わないようで、闘技場のようなお金の掛かるところへは、滅多に行かないようだ。クリスティーナとレティシアは大商家の出身なので、ある程度、自由にできるお金を持っているようだが、レリアは、商家の出身ではないため、彼女に気を遣ってのことかもしれない。

 少ない小遣いでやり繰りしていた高校生の僕としては、派手に浪費しない彼女たちの姿勢は好ましく感じた。


 今日も日差しの柔らかい春のような陽気の天候だった。

『東の大陸』では、晩秋のような肌寒い日が多かったが、この辺りは、ぽかぽかとした春のような気候だ。

 しかし、地中海性気候らしく、海が近い割に乾燥しているので、日陰に入ると肌寒いくらい涼しい。

 そういえば、日本の本州であるはずの『東の大陸』も湿度が低く、乾燥していたような気がする。

 雨があまり降らないことや、蒸し暑いと感じる夏のような気候ではなかったからかもしれない。

 雲が殆ど見られなかったので、風も乾燥していたのだろう。

 つまり、この世界の気候は、元の世界とはかなり違う可能性が高いということだ。

『闇夜に閉ざされた国』のような場所があるということを踏まえると当然のことかもしれない。


 それから、10分くらい歩くとメイド喫茶『プリティ・キャット』へ到着した。

 外のテラス席にソフィアと4人の女性が座っていた。

 日差しが柔らかいので、外に居ても暑くはないし、刻印を刻んでいる女性は、日焼けについても気にしないで済む。


「ユーイチ様!」


 ソフィアが僕を見て手を振った。


「こんにちは」

「「ごきげんよう」」


 テラス席に近づいて、挨拶すると、女性たちがそう返した。

 おそらく、ソフィアが言っていた『組合』の女性職員たちだろう。


「『組合』の職員の方ですか?」

「ええ、そうですわ」

「待て! この者たちは、本当に『組合』の者か?」


 カチューシャが話に割り込んだ。


「どうしたのですか?」

「こやつら、『組合』の職員にしては強すぎるのじゃ」

「彼女たちは、元冒険者ですの」

「貴様、何を考えておる? よもや結託して主殿を害そうとするつもりではなかろうの?」

「まさか!? わたくしのご主人様であるユーイチ様にそのようなことはいたしませんわ」

「抜け抜けと言いよるわ……」

「カチューシャ様のご心配も分かります。わたくしがユーイチ様の使い魔になるまで警戒されるのは当然のことでしょう……」


 僕は、この不毛な言い争いが終わるように話題を変える。


「テラス席に居られるとは珍しいですね」


 ソフィアは、いつも店の一番奥の席に座っているので違和感があったのだ。


「ええ、このたちと一緒ですから、外のほうがいいかと……。それにこのお店を監視している者に対しての抑止にもなりますし……」


【ワイド・レーダー】


 僕は、ソフィアの言葉を聞いて、【ワイド・レーダー】を起動した。

 僕の周囲以外にも少し離れた位置に青い光点が一つあった。距離は、300メートルくらいだろうか。

 その方向を見ると、廃屋が並んでいた。


【テレスコープ】


 視界を拡大する。

 よく見ると2階建てで屋根が平べったい廃屋の屋上に寝そべってこちらを見ている黒っぽいフードを被った男が居た。この位置からだと肩口の辺りまでの上半身しか見えない。

 フードを被っていて顔がよく見えないが、男と目が合ったような気がする。

 男は、慌てて後ろに下がって僕の視界から逃れた。


「あそこの建物の屋根の上に誰か居ますね」

「ええ、おそらく『組織』の関係者ですわ」

「あの位置からこの店を監視しているのですか?」

「そのようです」

「魔力系の術者ですか?」

「はい。【インビジブル】を使っていますから」


 僕は、常に【トゥルーサイト】を使っているので、男が【インビジブル】を使っていることに気付かなかった。


「今は、放っておくしかないですよね?」

「そうですわね。先日の件でこの店に手出しをするのは、得策ではないと理解したはずですから、何もして来ないと思います。しかし、念のため、わたくしのほうでも気をつけておきますわ」

「よろしくお願いします」


 そう言って、僕は店の中に入った。


「お帰りなさいませ、ユーイチ様!」

「「お帰りなさいませ、ご主人様」」


 店に入ると使い魔たちにメイド喫茶らしい挨拶をされた。


「ただいま」


 店の奥を見ると、いつもはソフィアが座っている一番奥の席に座っていた女性が立ち上がった。

 ベゲニ村の近くの洞窟で出会ったクセニアだ。


「ご主人様!」

「お久しぶりです、クセニアさん」

「ああ……そんな……。わたくしごときに敬語はお止めくださいませ……」

「……早速ですが、あまり時間がないので、ついてきてください」

「は、はい」

「アデリーナも一緒に来て」

「畏まりました」


 僕は、『プリティ・キャット』の地下へと向かった――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ニャーン……


 テーブルの下から猫たちが出て来た。構って欲しいのかもしれない。

 僕は、地下の食堂兼リビングの奥のほうに移動してから、近くの長椅子に反対向きに座った。

 3匹の猫たちが僕の足にすり寄ってくる。


【工房】→『アイテム作成』→『レシピから作成』


 レシピから『移動部屋』を2つ作成した。

『移動部屋13』『移動部屋13・裏口』『移動部屋14』『移動部屋14・裏口』の4つのアイテムが僕の『アイテムストレージ』内に増えた。


『トレード』→『クセニア』


 クセニアに『移動部屋13・裏口』と『移動部屋14』を渡した。


「ご主人様、ありがとうございますわ」


『トレード』→『アデリーナ』


 アデリーナには、『移動部屋14・裏口』を渡した。


「ユーイチ様、ありがとうございます。それで、このアイテムは一体……?」

「じゃあ、クセニアは『移動部屋14』を壁際に出して。アデリーナも『移動部屋14・裏口』を空いてるところに出して」

「「はい」」


 壁際に2つの扉が並んだ。


「扉を開けて中を見てみて」

「畏まりました」

「はい」


 二人はそれぞれの扉を開けて中を覗き込んだ。


「「あっ!?」」


 すると、驚いたような声を上げた。


「その二つの扉は、中で繋がっているんだ。だから、テレフォンで連絡を取り合えば、いつでも行き来することができるよ」

「「はい」」

わたくしたちには、そこに扉があるのが見えませんわ」


 レティシアがそう言った。

『移動部屋』には、『密談部屋』と同様に扉に【インビジブル】の魔術が掛かっているため、【トゥルーサイト】の魔術が使えない人には見ることができないのだ。


「凄いな……」


 レリアが感想を漏らした。

『移動部屋』が凄いということではなく、そのようなアイテムを使い魔に渡すことに対してだろう。

『キャンプルーム』にも同じような裏口が付いているので、レリアが原理的なことで驚くことはないはずだ。


「ただし、下手に『アイテムストレージ』へ戻してしまうと、元の場所に戻れなくなるので注意して」

「どうすれば良いのでしょう?」

「部屋の中で扉を帰還させてから、次に部屋の中から扉を召喚したら、同じ場所に扉が出現するんだ。だから、移動する側の人は、中に入ったら扉を戻すといいよ」

「「分かりました」」

「じゃあ、扉を戻してから、アデリーナは店に戻って」

「はい」


【テレフォン】→『トウコ』


「もしもし、トウコさん?」

「……ご主人様!? ああ……お久しぶりですわ……」

「これから『夢魔の館』へ行くつもりなので、トウコさんにも来て欲しいのですが……?」

「分かりましたわ。すぐに向かいます」

「じゃあ、よろしく。通信終わり」

「はい。では、ご主人様。後ほどお逢い致しましょう……」


 僕は、【テレフォン】の魔術をオフにした。


「僕は、これから『夢魔の館』という『エドの街』の娼館へ行きますが、クリスたちはどうします?」

わたくしたちが同行してはいけないのかしら?」

「いえ、そういうわけではありませんが……」


 正直に言えば、パーティメンバーたちには、『夢魔の館』へ来て欲しくなかった。

 弱い立場の人間を奴隷にしているようなものなので、そんなところをパーティメンバーには見せたくないからだ。


『夢魔の館・裏口』


 リビングの一番奥の壁に『夢魔の館・裏口』を召喚する。


 僕は、『夢魔の館』へ移動した――。


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