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「……主様ぬしさま


 背後から遠慮がちに呼ばれた。

 湯船に腰を下ろしたまま、体全体で反対を向く。

 すると、湯船に立ったまま待機していた使い魔たちが、僕を取り囲んだ。


 正面には、レイコと一緒に見知らぬ女性たちが並んでいた。

 1階の奥の部屋に居た娼婦希望者たちだ。数を数えてみたら、新たな娼婦希望者は11人だった。


「座って」


 ――ザバーッ!


 フェリア、ルート・ニンフ、ニンフ1、ニンフ2の他、時間の空いている娼婦たちも居るため、湯船には50人くらいが入っていることになる。


 僕は、レイコと一緒に並んでいる娼婦希望者たちに挨拶をする。


「僕は、ユーイチと言います。お姉さんたちは、『夢魔の館』で働きたいということでいいのですね?」

「「はいっ」」


 レイコが娼婦希望者たちに命じる。


「では、一人ずつ主様に自己紹介をするのだ」


 レイコから一番遠い右側に座った女性がゆっくりと立ち上がった。

 恥ずかしそうに手で胸と股間を隠している。


「貴様っ! 何を隠しておるかぁ! 両手は頭の上に組んで、主様に身体をよくお見せしろっ!」


 レイコが鬼軍曹のように一喝した。

 他の娼婦希望者たちも首をすくめている。正直、僕もビビった。


「ヒイッ! 申し訳ございません!」


 女性は慌てて手を頭の後で組んだ。


「レイコ、ちょっと待って! こんな格好をされたら僕のほうが目のやり場に困るよ……」

「お言葉ですが、この者たちは主様の奴隷となり、娼婦の仕事をするのです。あるじである主様に身体を見られて恥ずかしがるようでは、この先やっていけませぬ」


 レイコは正論のようなことを言っているが、レイコのパーティメンバーだって最初はこんなふうに身体を隠していたわけだし、この時点で恥ずかしがるのが娼婦の仕事に支障を来すとは思えない。

 それにそういうウブな反応をするほうが喜ぶ男の人も多いのではないだろうか。

 おそらく、これはレイコ流の新人教育なのだろう。前にテレビ番組で新入社員の社員教育の現場レポートのようなものを見たことがあるが、声がれるほどの大声で何かを叫ばせたりしていた。ネットでは、前時代的だとかブラック企業だとかと言われて炎上していたが……。


 その番組でインタビューに答えていた人は、「鉄は熱いうちに打て」と言っていた。

 新人に最初に緊張感を持たせるというのは、有効な手段のだろう。

 僕は、冒険者パーティのリーダーをやっていたレイコらしい教育方針だと思った。


「主様……?」


 そんなことを考えていたら、レイコが僕に声を掛けた。

 ぼーっとしていた僕は我に返る。

 最初に立ち上がった女の人も不安そうな表情をしていた。


「ごめん、ぼーっとしてた。続けて」

「ハッ! では、主様に挨拶をしろ」

「はっ、はいっ!」


 女性は、追いつめられたような表情をして自己紹介を始めた。


「ルリコといいます。歳は三十六です。ご主人様、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」


 僕が微笑んでそう返すとルリコは目に見えてホッとした表情をした。凄く緊張していたようだ。刻印を刻んでいてもそういった感情の動きはある。【戦闘モード】を起動すると嘘のように収まるのだが、戦闘経験もなく刻印を刻んで間もない彼女たちはそんなことを知らないのだろう。

 ルリコは、身長が160センチメートルくらいで長い黒髪の女性だった。胸は小ぶりだ。既に刻印を刻んでいるので、外見年齢は30歳くらいに見える。


「じゃあ、次の方どうぞ」


 僕がそう言うとルリコが座り、彼女の隣に座っていた女の人が立ち上がった。

 立ち上がった後にレイコが言ったとおりに両手を頭の後で組んだ。


「私は、ノリコと言います。歳は四十三です。ご主人様、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」


 ノリコは、身長が165センチメートルくらいで長い波打つ黒髪の女性だった。胸はかなり大きい。おそらく、『女神の秘薬』を飲んだ後に刻印を刻んでいるので、外見年齢はルリコと同じく30歳くらいに見えた。


「じゃあ、次の方どうぞ」


 ノリコが座って隣の小柄な女性が両手を頭の後で組んで立ち上がる。


「あたしの名前は、アカリです。歳は二十四です。ご主人様、よろしくお願いします」

「よろしくお願いしますね」


 アカリの身長は、155センチメートルくらいだろうか? 黒髪のショートカットで小ぶりな胸をしている。

 パッと見、僕とあまり年齢は変わらないように見えたのだが、かなり年上だったようだ。

 小柄でショートカットで胸が小さいからそう感じたのだろう。


「では、次の方どうぞ」


 アカリが湯船に座る。そして、隣の女性が立ち上がった。両手を頭の後で組む。


「ナオコと言います。歳は二十五です。ご主人様、末永くよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」


 ナオコは、アカリよりも少し身長が高く160センチメートルくらいだろう。黒髪でショートカット、小さな胸という点はアカリと似ている。


「じゃあ、次の方」

「はいっ!」


 そう返事をして十代後半くらいに見える女の人が元気よく立ち上がった。そして、両手を頭の後で組んだ。


「あたし、リノ! 歳は十八! よろしく! ご主人様!」

「はい、よろしく」


 リノは、黒髪のロングヘアで身長は160センチメートルくらいだ。胸のサイズは大きくも小さくもない。形の整った美乳だ。

 こちらの世界では、年齢は数え年なので、僕と同じくらいの歳と言ってもいいだろう。

 そう考えたら、何かクラスメイトの裸を見ているような気分になってしまい恥ずかしくなった。


 目を逸らす――。


 考えてみるとこんなに綺麗な子は、僕のクラスにも学校内にも居ないだろう。この世界の女の人は、美人が多いと思う。まるで、そういう遺伝子を持っているかのようだ。


「あーっ! ご主人様っ! どうして目を逸らすんですか!?」

「いや、目のやり場に困るっていうか……」

「かわいい~っ」


 同世代の女の子から可愛いと言われ、ちょっとヘコんだ……。


「じゃあ、次の人……」


 憮然としながら、次の娼婦希望者を促す。


「えーっ、それだけ?」


 リノは不満そうだった。


「早く座って」

「はぁーい」


 リノが湯船に腰を下ろす。

 入れ替わるように隣の女性が立ち上がった。両手を頭の後で組む。


「アミです。ご主人様、よろしくです。あっ、歳は十九です」

「はい、よろしく」


 アミは、黒髪のボブカットの髪型で身長は160センチメートルくらい。胸は小ぶりなサイズだ。

 そのため、リノよりも一つ年上だが、同じくらいか少し若く見えた。


「では、次の方どうぞ」


 アミが座り、隣の長身の女性が立ち上がる。そして両手を頭の後で組んだ。


わたくしは、サオリと申します。歳は二十八です。ご主人様、何卒なにとぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 サオリは、上品な印象の女性だ。言葉遣いも洗練された印象がある。もしかすると商家しょうかの生まれなのだろうか?

 サオリは、女性にしては長身で170センチメートル近くあるだろう。僕と同じくらいか少し高そうだ。長い黒髪で胸は美乳だ。


「サオリさんは、商家の方ですか?」

「いいえ、そうではありませんわ」

「そうなんですか? 物腰が洗練された印象だったので、商家の出身かと思いましたよ」

「ここに来る前は、料亭で女中をやっておりましたので……」

「なるほど、そうでしたか」

「料亭『涼香』のタカコさんに誘われましたの」

「タカコさんのお知り合いでしたか」

「ええ、感謝していますわ」

「女中の仕事はそのまま続けられるのですか?」

「はい、しばらく続けさせていただこうと思っておりますが、駄目でしたでしょうか?」

「いいえ、全く問題ないですよ。レイコに相談してもらえば、それに合わせたシフトを組んでくれると思います」


 レイコを見る。


「主様の仰せのままに」


 レイコは、湯船の中で膝立ちになり、頭を下げた。


『いちいち、大げさなんだよなぁ……』


 この世界の慣習なのか、使い魔の特性なのか、フェリアなども使い魔になってからは特に芝居がかった言動をするようになったと思う。


「じゃあ、次の方どうぞ」


 サオリが座り、隣の女性が立ち上がって、両手を頭の後で組んだ。


「アキと言います。歳は三十三です。よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」


 アキは、身長165センチメートルくらいで、小ぶりな胸をしている。黒髪で髪型はショートカットだ。

 刻印を刻んでいることもあって、年齢より若く見えた。


「次の方どうぞ」

「はいっ」


 僕がそう言うとアキの隣に座っていた女性が返事をして立ち上がった。


 ――ザバザバザバザバッ


 湯船を歩いて、僕の目の前まで来た。

 僕は、何事かと女性を見上げた。

 すると女性は両手を頭の後で組んだ。


「あ、あの……」


『ち、近い……』


「ふふっ、ご主人様ぁ……可愛いですわっ」

「おい、ヒトミ。自己紹介をしろ」

「ああっ、レイコ様。私、もう我慢できませんっ!」


 そう言って、ヒトミと呼ばれた女性は僕に抱きついた。


「うぷっ」

「こらっ、離れろ!」

「なんて羨ましい……」

「ヒトミさん! ズルイ! 抜け駆けよ!」

「ああっ」

「いいなぁ……」

「私もしたい……」


 僕は、彼女の腰を掴んで引きはがした。


「ああんっ」

「皆さん、【戦闘モード】を一瞬起動してください」

「あっ……」


 ヒトミは落ち着いたようだ。

 どうやら、待たされている間に興奮しすぎたのだろう。


「ご主人様、申し訳ございませんでした……」


 僕も【戦闘モード】を一瞬だけ起動した。嘘のように動悸が収まった。

 刻印を刻んだ体には心臓は無いはずなのに、何故か人間だった頃のようなドギマギする感覚がある。こういった感情を無くしてしまうと本当にロボットのようになってしまうからかもしれない。


「謝らなくてもいいですよ。じゃあ、続けてください」

「はいっ。ヒトミと言います。歳は三十八です。ご主人様、末永くよろしくお願いしますわ」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」


 ヒトミは、黒髪のセミロングで身長は165センチメートルくらいだろう。大きめの形の良い胸をしている。

 38歳なので、『女神の秘薬』は飲んでいないのだろう。大人の色気が漂っている気がした。


「じゃあ、次の方」


 ヒトミが座り、小柄な女の子が立ち上がる。そして、両手を頭の後で組んだ。


「あたしは、ミホって言います。よろしくお願いします。ご主人様」

「はい、よろしく」


 ミホは、身長が155センチメートルくらいで黒髪のロングヘアだ。胸は小さい。

 そういえば、年齢を言ってなかった。見たところ十代半ばに見えるがいくつなのだろう。


「ミホさんは、おいくつなのですか?」

「十七です」

「じゃあ、僕と同じ歳ですね」

「えっ? ご主人様って見た目通りに若いんですね」

「はい。僕も数ヶ月前に刻印を刻んだばかりですから」

「うわぁ、それでこんな店を持っちゃうなんて尊敬しちゃいます……」

「いえ、僕の力というわけでもありませんから……」

「ご主人様は、どこの商家の方ですか? レイコさんと同じスズキ家とか?」

「僕は、商家の生まれではありませんよ」

「え? それでどうやって……?」

「僕は、マレビトなのです」


 ――ざわっ……


 僕がマレビトだと告白したことで、それを聞いた者たちが驚いたようだ。


「そっ、そうなんですか?」

「ええ、それで死にかけているところをフェリアに助けられたのです」

「凄い……」

「ただ、運が良かっただけなんですけどね」

「そんな……」


 この話を続けているとまたフェリアが褒め殺しをしてくると思い、話を終わらせることにした。


「では、次の方どうぞ」


 ミホが座り、胸の大きな女の人が両手を頭の後で組んで立ち上がった。娼婦希望者は、この人で最後だ。


「ナツミです。歳は三十五です。ご主人様、よろしくお願いしますね」

「はい、よろしくお願いします」


 ナツミは、大きな胸をしていた。巨乳を超えて爆乳という領域だ。身長は160センチメートルくらいだろうか。髪型は、黒髪のショートカットだ。


「では、お座りください」


 ナツミは、湯船に腰を下ろした。

 入れ替わるようにレイコが立ち上がった。何故か頭の後で両手を組んでいる。


「主様、この者たちを主様の奴隷にしてやってくだされ」

「奴隷じゃなくて使い魔ね」

「ハッ!」


 僕は立ち上がった。


 ――ザバーッ!


 その直後に使い魔たちが一斉に立ち上がった。


【フライ】


 僕は【フライ】を起動して、使い魔たちの包囲を飛び越えて洗い場に移動する。


『ラブマット』


 マットを洗い場の隅に召喚した。


『ローション』


「主様」


 振り返るとレイコと11人の娼婦希望者と4人の『春夢亭しゅんむてい』の娼婦が近くまで来ていた。

 僕は、レイコに『ローション』を渡す。


「じゃあ、レイコ。新人たちに使い方を教えてあげて」

「畏まりました」


 レイコが嬉しそうに『ローション』を受け取る。


「主様、失礼します」

「えっ?」


 レイコは、僕をお姫様だっこの体勢で抱きかかえた。


「わぁ、ちょっと……」

「お任せください」

「…………」


 僕は、レイコに抱えられてマットの上に寝かされた。


 その後、娼婦希望者や使い魔たちに奉仕されたり、母乳を吸ったりして数日を過ごした――。


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