第八章 ―雪女―
8―1
第八章 ―雪女―
―――――――――――――――――――――――――――――
8―1
ノーランディン族の集落を出た僕たちは、「ディードレットン族」、「アハティマ族」、「ズールディン族」、「キリティア族」の集落を順番に数日ずつ滞在してエルフの使い魔を増やしていった。
ディードレットン族の集落では48人、アハティマ族の集落では88人、ズールディン族の集落では56人、キリティア族の集落では61人のエルフが使い魔となった。ノーランディン族の51人を合わせると合計304人だ。
生き残ったエルフは、308人でそのうち4人が冒険者として
ちなみにディードレットン族の集落は、ノーランディン族の集落の東に位置していた。アハティマ族の集落は、その北西方向だ。ズールディン族の集落は、その更に北西方向にあり、キリティア族の集落はそこから東に行ったところにあった。つまり、アハティマ族の集落を中心にサイコロの5の目のような形で5つの集落が数キロのエリアに配置されていた。
どの集落も【ストーンウォール】のような塀に囲まれていた。門のような出入り口は存在しないため、出入りするときには、その塀を越える必要があった。
その後、試しにフェリア、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、ニンフ1、ニンフ2をトロールの棲む富士山の
討伐が終わった後に【テレフォン】の魔術でフェリアから連絡を受けて、エルフたちに聞いてみると、【サモン】の魔術が使えなかった者も使えるようになっていた。また、全てのエルフが全系統の魔術が使えるようになっていた。
やはり、遠く離れた場所で使い魔だけが戦っても経験値が入るようだ――。
◇ ◇ ◇
「ドライアードとニンフたちを召喚して」
「御意!」
「分かった」
キリティア族の住む森に召喚魔法のエフェクトがいくつも光った。
「これから、『闇夜に閉ざされた国』へ向かう。ゾンビ討伐の続きを【マップ】に書き込んでね。暗い場所では【ナイトサイト】を使用するように」
「「畏まりました」」
「「分かったわ」」
「エルフたちは、僕たちについてきて。オーガと戦ってみよう」
「「はいっ」」
『装備1換装』
『装備2』から『装備1』に換装した。
オーガが近接戦闘でどれくらいの強さなのか確認したい。
「じゃあ、行くよ」
【マニューバ】
僕は、森の上空へ浮かび上がり、そのまま北へ向かって飛行する。
筑波山を右手に見ながら移動する。
【ワイド・レーダー】【テレスコープ】
オーガが居ないかレーダーでチェックしながらゆっくり飛行する。
上空から街道が見えた。視界を拡大して街道沿いを見ていると、馬車の残骸が見える。
おそらく、レイコたちを救出に向かった地点の近くなのだろう。【ワイド・レーダー】を見ると『オークの神殿』があった辺りに赤い光点が2つと手前の森にオークの襲撃部隊らしい32個の赤い光点が表示されていた。
念のため、2つの光点へ向かうとやはり、『オークの神殿』だった。見張りのオークが【ワイド・レーダー】に映っていたのだ。
少し東寄りに進路を変えて、速度を上げる。
帯状に分布しているように見える。
高度を落としてその光点へ向かう。
数百メートルまで接近して視界を拡大して見る。
オーガだ。
粗末な腰布を巻いただけの筋骨隆々な裸体で、手に金砕棒を持っている。まさに鬼に金棒という状態だ。
髪は黒髪でボサボサだった。角は生えていないようだ。しかし、口には牙が生えているのが見える。牙は、オークのように下顎から生えている。顔は、鬼っぽい凹凸のある顔だ。
――何をしているのだろう?
オーガ達は、不規則に並んでいる。
まるで、ここから先に行かせないように通せんぼしているようだ。
――もしかして、『闇夜に閉ざされた国』へ行かせないように何者かに配置されているのだろうか?
オーガの総数は不明だが、この周囲に居る個体は数百体程度だ。トロール数千体に比べると大したことはないだろう。
僕は、【インビジブル】をオフにして、オーガの前に降りた。
【戦闘モード】【マジカル・ブースト】【グレート・シールド】【グレート・マジックシールド】【グレート・ダメージシールド】
【戦闘モード】とバフを起動する。
「ガァアアアーッ!」
近くのオーガが金砕棒を振りかぶって襲いかかってきた。
身長は、トロールと同じくらいだが、熊のように分厚いトロールに比べるとオーガのほうが体重は軽そうだ。オーガも力がありそうだが、見た感じではトロールのほうが強そうに見える。
やはり、遅い。トロールと比較してどっちが遅いかは分からない。似たようなものに感じる。
懐に飛び込んで抜刀斬りを見舞う。
オーガは、白い光に包まれて消え去った。
続けて前方から5体が接近してきた。
僕は、【マニューバ】でダッシュして距離を詰めた。
【ライトニング・ストーム】
――ブーン、バリバリバリバリバリバリ……
前方が青白い光に包まれた瞬間に轟音が周囲に鳴り響いた。
5体のオーガは、消え去った。
僕の左隣にエルフが降り立つ。
確かディードレットン族のエレラーンだ。
「ご主人様」
「なに?」
「今の魔術は、一体何でしょう?」
「【ライトニング・ストーム】という僕が作った魔術だよ。といっても【ライトニング】を同時に100発撃ってるだけだけど」
「100発も!?」
「オーガ相手には、オーバーキルだけどね」
右隣にもエルフが降りて来た。
「凄いです!」
エレラーンと同じ部族のマイアールだ。
「何という凄まじい魔術だ」
「本当ですね」
「ああ、ご主人様……」
「はぁ……凄い……」
「何というお方なのだ」
「うむ。素晴らしいな」
『また、褒め殺しか……』
僕は居心地の悪い気分を味わう。
背後を見ると各部族の有力者たちが、【ライトニング・ストーム】を賞賛していた。
アハティマ族のイノーリアとスペローヌ、ズールディン族のメーテロペーとダフネ、キリティア族のブリュンデとシグルーナだ。刻印を刻む以前なら、こんな微妙な違いのエルフの顔を見分けるのは無理だっただろう。刻印を刻んでいても難しい。
それでも数日一緒に過ごしたので、有力者はだいたい見分けられるようになっていた。
「大して強くないから、【ブリザード】で
「ハッ!」
「畏まりました」
「「はいっ」」
僕は、空中に浮かび上がった。
【ブリザード】
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
・
・
・
瞬く間に周囲の赤い光点が【ワイド・レーダー】から消え去った。
それを確認してから、【戦闘モード】や不要な自己強化型魔術をオフにした。
そして、僕は北東方向へ飛行を開始した――。
◇ ◇ ◇
5分くらい飛行すると、まだ、昼過ぎのはずなのに段々と暗くなってきた。
いよいよ、『闇夜に閉ざされた国』へ入るのだろう。
更に5分ほど飛行すると、完全に暗闇に包まれた。しかも寒い。地上には雪が積もっているようだ。空には星が見える。
【エアプロテクション】
僕を取り巻く空気が変わった。適温の空気に包まれたのだ。風も感じない。
【ナイトサイト】
暗闇を見通すために【ナイトサイト】の魔術を起動する。
眼下は、一面雪景色だった。草木が生えているところもない。
太陽光が全く届かないので植物が育たないのだろう。
僕は、速度を落として空中で静止した。
背後を振り返ると、フェリアやルート・ドライアード、フェリス、ルート・ニンフ、ニンフ1、ニンフ2、約300人のエルフが空中に浮かんでいる。
エルフの中には、寒そうに身体を抱きかかえている者も居た。
【テレフォン】→『フェリス』
フェリスにメッセージを送る。
「フェリス、みんなに【エアプロテクション】を使うように指示して」
「分かりましたわ」
フェリスから【テレフォン】で返事が来た。
「【エアプロテクション】を使っていると普通に会話できないから、何かあったら【テレフォン】で通話して」
「畏まりましたわ」
「通信終わり」
僕は、【テレフォン】の魔術をオフにした。【エアプロテクション】を使っているので、普通に会話ができないのだ。
この魔法は、一瞬だけ発動するような使い方が多かったので問題にはならなかったが、ずっと起動したままだと、【エアプロテクション】の空気の層が音や匂いを遮断してしまうためか、音や匂いがシャットアウトされてしまうのだ。
それによるメリットもある。悪臭を嗅がなくて済んだり、金属鎧で行動しても音が外に漏れないし、嗅覚の鋭いモンスターに見つかりにくくもなるので隠密行動に向いているのだ。
僕は再び【ワイド・レーダー】を見ながら、やや東よりの北へ向かって飛行を開始する。
暫く飛行すると、赤い光点が密集したところがあった。
そこへ向かって飛行する。
その地点には、50匹くらいの白い巨大な狼がたむろしていた。ダイアウルフだろう。
サイズからするとトロールよりも強そうだが、数が少ないのでそれほど脅威ではないと思われる。
それに敵対的なモンスターとも限らない。
ペットになるなら、巨大な狼の背に乗って走ったりできるかもしれないと夢想する。
しかし、エルフの伝記では、襲われていたようなので、おそらく敵対的なのだろうけど……。
【テレフォン】→『フェリス』
「フェリス、全員に待機するように伝達して」
「分かりましたわ」
「通信終わり」
『自分を実験台にするのはフェリアに怒られそうだな……』
【テレフォン】→『フェリア』
再度【テレフォン】を起動して、フェリアにメッセージを送る。
「フェリア、【インビジブル】を解除してあの狼の群れの前に降りてみて。襲ってくるようなら戦って」
「畏まりました」
フェリアからの返信が耳元に届いた。
フェリアは、ダイアウルフの群れから100メートルほど離れた地点の雪原に降りた。
ダイアウルフ達は、最初フェリアに気付かなかったようだ。
フェリアがゆっくりと飛行して近づいていくと、一匹が気付いたようで吼えた。と言っても【エアプロテクション】を使っている僕には聞こえなかったのだが。
【エアプロテクション】をオフにする。ちょっと寒いが仕方がない。
――アオーン! ワウワウッ……ハッハッハッハッ……
ダイアウルフ達は、フェリアに殺到した。
【戦闘モード】
【ファイアストーム】
フェリアを効果範囲に入れないように【ファイアストーム】を発動する。
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
効果範囲内のダイアウルフ達は、一撃で白い光に包まれて消え去った。
動きもトロールとそんなに変わらないようだし、僕たちの敵では無さそうだ。
フェリアは、盾でダイアウルフの攻撃を
フェリアに群がっていたダイアウルフが同心円状に吹き飛ばされた。
――ギャン!
フェリアが【フォースウェーブ】の魔術を発動したのだ。
僕は、【インビジブル】をオフにしてフェリアの背後に降り立った。ルート・ドライアードも僕に続いて地表に降りてきた。
起きあがったダイアウルフがこちらに向かってきた。
『大きい……』
ダイアウルフは、近くで見ると本当に大きく感じた。
頭の高さは、2メートルを軽く超えている。全体的に馬よりも大きく胴体だけでも小型のワゴン車くらいのサイズがあった。
真っ白の硬そうな毛並みで灰色の目をしている。
正直、こんな犬のようなモンスターを殺すのは気が引けた。しかし、モンスターは、倒しても翌日には復活する。
悪いけれど、お金と経験値になってもらおう。
僕は、【マニューバ】で接近して抜刀斬りを見舞う。続けて、右前方のダイアウルフに接近して袈裟斬りに斬りつけた。更に左のほうに居たダイアウルフに接近して横薙ぎに斬る。
こうして、3体のダイアウルフを倒した。
ダイアウルフの強さはだいたい分かった。これ以上、時間をかけるのは無意味だろう。
僕は、フェリアとルート・ドライアードに手招きするようなハンドサインで付いてくるよう合図を送った。
【インビジブル】
僕は、【インビジブル】とを起動してから【マニューバ】で空中に舞い上がった。フェリアとルート・ドライアードもそれに続いて飛翔した。
【ファイアストーム】
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
【ファイアストーム】
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
【ファイアストーム】
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
空中から残りのダイアウルフを【ファイアストーム】3発で殲滅した。
【エアプロテクション】
そして再び【エアプロテクション】起動して【ワイド・レーダー】を見ながら、北へ向けて移動を開始した――。
◇ ◇ ◇
「
『闇夜に閉ざされた国』を飛行していると、突然、左の耳元でレイコの声がした。
レイコから【テレフォン】でメッセージが入ったのだ。
【テレフォン】
僕も【テレフォン】を起動してレイコと通話する。
「どうしたの?」
「ヤマモト家のジロウが死亡しました」
「――ええっ!?」
僕は、レイコの言葉に驚いた――。
―――――――――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます