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全身鎧に装備を換装したフェリアに続いて扉をくぐると『ロッジ』の外には、【ストーンフロア】の床が残っていた。
甲冑姿のルート・ドライアードが外に出たのを確認してから、『ロッジ』の扉を『アイテムストレージ』に戻す。
【インビジブル】
拠点に近づいたときにオークに見つからないよう【インビジブル】を掛けておく。
「【ハイ・マニューバ】で一気に移動しようと思うんだけど大丈夫?」
「問題ございません」
「御意のままに……」
「じゃあ、行くよ」
「ハッ!」
「御意!」
【ハイ・マニューバ】
僕は、【マップ】を見ながら新しく発見されたオークの拠点へ向け飛び立った――。
◇ ◇ ◇
【ハイ・マニューバ】で高速飛行したため、5分とかからずにオークの拠点に着いた。
拠点近くの上空で待機していた5人のニンフ達と合流する。
新しく発見されたオークの拠点は遺跡風の外観で、どちらかといえば『オークの神殿』より『オークの
入り口には、見張りのオークが2体居る。
いつもなら、【ストーンウォール】をV字型に設置して戦うところだが、今回は【ストーンフロア】を空中に設置して上から魔法攻撃で倒すことにしよう。
【ストーンフロア】
入り口から100メートルくらい離れた場所の高さ10メートルくらいの位置に【ストーンフロア】を展開した。
突然、空中に石の板が現れたのを見て、オーク達が騒ぎ出す。
中からオークが次々に出てきた。
僕は、【ストーンフロア】に降りて上からオークを眺める。MP消費の高い【ハイ・マニューバ】をオフにした。会話ができるように【エアプロテクション】も同時にオフにする。
【ウインドバリア】
【ウインドバリア】を展開してから【インビジブル】を解除した。
僕の姿を確認して、オーク・アーチャーが僕に向けて弓を射てきた。
「【ブリザード】を使って倒そう」
「ハッ!」
「御意!」
「「分かったわ」」
フェリアとルート・ドライアードがメイド服姿となった。
【ブリザード】
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
――ヒューーッザザザザザッーーー!!
僕たち8人の放った【ブリザード】が地表で荒れ狂った。
白く凍りついた地面の上にオークの姿は見あたらない。
【ワイド・レーダー】
索敵してみたが、【ワイド・レーダー】の探知範囲内に赤い光点は存在しない。
ゾンビも含め、周辺にモンスターは居ないようだ。
【フライ】
僕は、【フライ】を起動してオークの拠点の入り口に向かった。
そのまま、中に入る。
【ナイトサイト】を起動しようかとも思ったのだが、【ウィル・オー・ウィスプ】を使ったことがないことを思い出して、使ってみることにした。
【ウィル・オー・ウィスプ】
スペルを唱えると何処に光の玉を召喚するかのガイドが表示された。召喚魔法の召喚時に似ている。
右前方の空中を指定して【ウィル・オー・ウィスプ】を召喚する。青白い光の玉がイメージした通りの場所に出現した。
使い魔の場合は、基本的に地に足が着く状態で召喚するのが普通だが、【ウィル・オー・ウィスプ】は浮遊する光源なので空中に召喚しても落下しないようだ。
部屋の奥に移動するよう念じると、【ウィル・オー・ウィスプ】は奥に向かって飛んでいく。
【フライ】の操作に似ているが、【フライ】は自分視点で動かすので三次元的な操作になるが、【ウィル・オー・ウィスプ】は第三者視点で操作するため二次元的に感じる。ゲームに例えると、【フライ】はフライトシム的で【ウィル・オー・ウィスプ】は見下ろし型シューティングという感覚だ。実際には、【ウィル・オー・ウィスプ】も三次元空間で移動させるわけだが、高さを変更せずに移動させた為か、そんな感じの操作感覚だった。
見たところ屋内には特に何もないようだ。
『オークの神殿』に入ったときのような吐きそうな腐敗臭もしない。
ただ、少しイカのような生臭さが空気に混じっているように感じる。
普通の人間だった頃には、こんな微かな匂いは感じなかっただろう。
屋内は、30メートル四方くらいの広さで『オークの砦』と同じようなサイズだ。天井の高さも20メートルくらいあるように見える。部屋の右奥には、下の階へ降りる階段があった。
僕は、階段のところまで移動した。右奥の隅から壁際に手前に向かって降りる階段がある。
【ウィル・オー・ウィスプ】は、僕の頭の上をついてくるように念じてあるので、僕の頭上で浮遊している。
階段を降りると生臭い臭いが強くなった。
階段を降りた突き当たりを右に曲がると左右に鉄格子がある通路に出た。
『オークの砦』で見た地下牢によく似ている。
前方に回復系魔術の【ライト】によるものと思われる明かりが見える。
【フライ】で飛行して、その明かりのある牢屋へ向かう。
「――――!?」
べっとりとした白い液体が牢屋の中に大量に撒き散らされている。周囲は、凄く生臭い。
その液体の中に裸の女性が寝ていた。全身に白い液体が付着している。
女性は、ピクリとも動かない。
【グレーターヒール】
回復系魔術のエフェクトで女性の身体が光る。
とりあえず、回復魔法を掛けてみた。回復系魔術が使えたので刻印を刻んだ人間だということがわかる。
しかし、それでも反応がない。
「あの、大丈夫ですか?」
声を掛けてみると、女性がゆっくりと身体を起こした。
白い液体でべとべとの顔をぬぐってこちらを見た。
「んんっ……」
「僕たちは、『エドの街』から来た冒険者です」
「ああぁーっ……」
女性が感極まったような声を上げた。
『まさか、気が触れているのだろうか?』
フェリアの話では、刻印を刻んだ身体は、精神に異常をきたすことはないという話だ。おそらく、人間のように神経細胞が変質するようなことがないからだと思う。刻印を刻んだ身体は機械チックなのだ。
「大丈夫ですか?」
「ええ、申し訳ございません。ここから出られると思ったら嬉しくて……」
「今、牢屋の鉄格子を斬りますので、少しお待ち下さい」
鉄格子には鍵が掛かっていて、対応するマジックアイテムの鍵を使わないと開かないようだ。
『オークの神殿』のときと同じように、ダメージを与えると鉄格子は消滅すると思う。
女性にダメージが入らないように注意して、鉄格子の上部を刀で斬る。
本気で刀を振るとソニックブームが発生するため軽く振ったのだが、鉄格子は音もなく白く光って消え去った。
「あの、水を掛けてもいいですか?」
「ええ……」
【ウォーター】
僕は、女性の上に【ウォーター】の魔術を発動して水を掛けた。
【ウォーター】は、自己強化型魔術のため、【魔術刻印】を起動している間、指定した空間から水が出続ける。
しかし、水の勢いは大したことがないので、シャワーを浴びるような感覚で使うには水量が足りない。
コップに水を注ぐときに蛇口から出すくらいの水流しか想定していないのだ。
女性は、その少ない水を両手に溜めて顔を洗ったり、手で身体から体液を落としている。
時間が掛かりそうなので、僕は他の牢屋を確認してみることにした。
一つ一つ牢屋を確認してみたが、他の牢屋には何も無かった。
『オークの砦』にあったような骨も見つからなかった。
このオークの拠点は、かなり僻地にあるので女性が
戻ると女性は髪を洗っていた。
キリがないので、フェリアの『倉庫』の自動清掃機能を使うことにした。
僕は、【ウォーター】の魔術をオフにする。
「あ……」
水が止まったので女性が僕のほうを見た。
「フェリア、『倉庫』を出して」
「ハッ!」
通路にフェリアの『倉庫』の扉が出現する。
「さぁ、ここに入ってください」
「……はい」
女性は不安そうだ。
僕は、
『魔布の隠密クローク+10』は、フードを下げていると顔が見えないので得体が知れないと思われているかもしれないからだ。
彼女は僕の顔を見て、明らかにほっとした表情を見せた。
僕は同世代の中でも童顔なので子供のように見えたのだろう。12月の誕生日が来たら17歳になっていたはずなのだが、僕はフェリアに刻印を刻んでもらったため、一生この子供っぽい容姿のままだ。
『フェリアも僕を男として見ていないだろうな……』
だから警戒されずに家に入れてもらえたのかもしれないが……。
子供っぽい容姿は、僕のコンプレックスにもなっているが、メリットもあるのだ。
フェリアが『倉庫』の扉を開けると女性が中に入った。
「フェリア、扉を帰還させて」
「ハッ!」
『倉庫』の扉が消えた。
「じゃあ、外に出よう」
「ハッ!」
「御意!」
「「分かったわ」」
僕たちは、女性が囚われていたオークの拠点の外に出た――。
◇ ◇ ◇
外はまだ明るかった。
僕は、ニンフたちに指示を出す。
「ニンフたちは、引き続きゾンビ討伐の任務を続行して」
「「分かったわ、旦那さま」」
ニンフたちが空中に舞い上がる。
――ガサッ
右手の森の中で音がした。
そちらのほうを見ると茂みの向こうに熊が居て、僕と目が合った。
【フライ】は掛かったままだったので、近くで見ようと飛行して接近してみた。
すると熊は、僕を警戒したのか立ち上がった。首のところに白い三日月の
――ガアァアアッ……
熊は、僕を前足で攻撃してきた。
避けるまでもないだろうが、熊のほうが怪我をするといけないので、後ろに下がって回避した。
フェリアたちも危険はないと思っているのだろう、いつものように僕の盾になろうともしなかった。
モンスターではない野生の生物は、熊と言えども脅威にならないのだ。
「脅かしてごめんね」
僕はそう言って、熊から離れた。
「僕たちも『ナゴヤの街』に戻ろう」
「ハッ!」
「御意!」
【ハイ・マニューバ】
僕たちは、『ナゴヤの街』に向けて飛び立った――。
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