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 自分用の装備も作っておこうかと思い、念のため所持金を確認する。


『所持金』


―――――――――――――――――――――――――――――


 所持金 …………… 5456405.11ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


 約546万ゴールドだった。

 僕の装備だと、平気で100万ゴールドや200万ゴールドかかるので、拠点の整備などいくら出費がかかるか分からない現状では、これ以上、所持金を減らすべきではないと思い、装備の更新を断念した。

 元々、急いで行わないといけない話でもなかったのだ。それに僕は、あまり前に出ないほうがいいかもしれない。

 トロールよりも強力なモンスターが存在する可能性は高い。あのときのような、軽率な行動は慎むべきだろう。あのときだって、まず、フェリアに先行させていれば、トロールに囲まれたフェリアを帰還させることで楽に窮地を脱することができたはずなのだ。


『現在時刻』


 時刻を確認してみると、まだ【08:24】だった。

 10時までは、まだ1時間30分ほどある。


『何か新しい魔法でも作ろうか……』


 暇つぶしに何か新しい魔法を作ろうかと考える。


『強力な攻撃魔法はどうだろう?』


 いや、単体で強力な攻撃魔法は、それほど必要性を感じない。必要なら、ドライアードとニンフを大量に召喚して撃ちまくればいいのだ。あの圧倒的な火力なら、ドラゴンでも瞬殺できるかもしれない。


『そうなると、あると便利な魔法がいいだろう』


 といってもアイデア勝負の魔法は、なかなか思いつかない。


『う~ん……』


 ふと、【ストーンウォール】の魔術を思い浮かべる。【ストーンウォール】は、常に垂直の壁として展開する魔法だ。


『横向きで使えたら、足場になるんじゃないだろうか?』


 閃いた僕は、目を閉じて魔法の開発を始めた。


【魔術作成】→『改造』


【ストーンウォール】を改造する。

【ストーンウォール】の角度を水平にして、長方形ではなく5メートルくらいの正方形をイメージして魔法を作成する。

 ついでに、耐久力と効果時間を2倍に設定する。


[レシピ作成]


 魔法の名前は、『ストーンフロア』にした。


【商取引】


 と念じて、『素材購入』から『プラチナ鋼』と『魔法石』を買う。


【魔術作成】→『付与』


 から、『ストーンフロアの刻印石』を作成した。


 そして、


【工房】→『装備作成』


 で、『ストーンフロアの指輪』を作成した。


 早速装備してみる。


『装備2』


―――――――――――――――――――――――――――――


 武器:アダマンタイトの打刀+100

 服:魔布のローブ+100

 脚:魔布のスラックス+10

 腕輪:アダマンタイトの腕輪+10

 足:竜革のブーツ+10

 背中:魔布の隠密クローク+10

 下着:魔布のトランクス+10

 指輪:回復の指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


『ストーンフロアの指輪』を『装備2』に追加してみると、『装備する指を指定してください』と表示された。

『左手中指』と念じると、装備が以下のように変わる。


―――――――――――――――――――――――――――――


 武器:アダマンタイトの打刀+100

 服:魔布のローブ+100

 脚:魔布のスラックス+10

 腕輪:アダマンタイトの腕輪+10

 足:竜革のブーツ+10

 背中:魔布の隠密クローク+10

 下着:魔布のトランクス+10

 左手中指:ストーンフロアの指輪

 左手薬指:回復の指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


『装備2換装』


 左手には、中指と薬指にひとつずつ指輪が装備されている。

 デフォルトでは、左手薬指に装備されるが、追加するといろいろな指に装備できるようだ。

 指輪は、10個まで装備可能ということだろうか?

 この感じだと、同じ指に2つ装備しても大丈夫かもしれない。

 しかし、そんなに指輪を装備する必要性が低いわけだが。


『それでは、新呪文を試してみよう』


 僕は、目を開けた。


『ストーンフロアの指輪』


 指輪に込められた『ストーンフロア』の魔術を発動させた。

 設置する場所を示すガイドが表示される。

 右のほうを見て、部屋のすみに高さ1メートルくらいの場所を指定して設置する。


「「あっ!?」」


 突然、大きな石の板が部屋の隅に現れたので、元娼婦たちが驚いたようだ。


「暇だから新しい魔法を作ってみたんだ。だから、気にしないで」


 僕は、空中に設置された『ストーンフロア』の前へ移動する。

 手で触れてみると、石の感触がある。

 次に飛び乗ってみた。

 天井の高さは3メートルくらいあるので、『ストーンフロア』の上で軽く飛び跳ねても問題はない。


『足場が欲しいときに使えるかもしれないな……』


 僕たちは、魔法で飛行できるので、どれだけ使えるかどうかは分からないが、何かに使えるかもしれないので、刻印としても刻んでおこう。


「フェリア、ルート・ドライアード、裸になって」

「ハッ!」

「御意!」


 光に包まれた後、二人が裸になる。


「「っ!?」」


 元娼婦たちが、二人の姿を見て息を飲んだ。

 甲冑の中から緑色の髪をした女性が出てきたことに驚いたのだろう。


「なんて、綺麗な……」

「同じ女として自信を無くすわね……これじゃ、ご主人様の寵愛を受けられるか不安だわ」

「……綺麗」


 フェリアたちの美しさにも驚いているようだ。


「フェリア、新しい魔法の刻印を刻むから、背中を見せて」

「畏まりました」


 フェリアが、後ろを向いて屈んだ。


『よく考えたら、この呪文は金属装備の下では発動させられないや……』


「ごめん、フェリア。この呪文は、金属装備の下では発動できないから、立って」

「ハッ!」


 僕は、フェリアの左脚の膝裏の少し上の辺りに手を当てて刻印をした。

 スカートを装備しているときには発動できるだろう。


「はい、じゃあ交代して」

「ハッ!」

「御意!」


 ルート・ドライアードが目の前に立って向こうを向いた。

 同じ位置に刻印を刻む。


「じゃあ、フェリア。僕にも刻印を刻んで」

「ハッ!」


『装備8換装』


 裸になって立ち上がる。

 フェリアは、ひざまずいて僕の左脚の膝裏の少し上に『ストーンフロア』の魔術刻印を刻んでくれた。


「ありがとう」

「……いえ」


 フェリアは、感謝の言葉は不要と言いたかったのだろうけど、短く返事を返すだけにしたようだ。


『装備2換装』『フェリアの装備2換装』『ルート・ドライアードの装備2換装』


 裸だった僕たち3人の装備を行った。


『また、暇になってしまった……』


 他に何かすることはないだろうかと考える。

 そういえば、娼婦たちには、まだ刻印を刻んでいない。

 トイレが必要なのではないだろうか?

 今後も普通の人間と接する機会があるかもしれない。

 トイレを作っておこう。


【工房】→『アイテム作成』


 目を閉じて『公衆トイレ』をイメージする。

 女性が利用することが多いので、男性用の小便器は不要だろう。洋式便器なら男性用としても使えるので、無くても問題はないと思われる。

 室内に洋式トイレのある個室を左右片側3箇所の6箇所設置する。

 自動清掃機能を付ければ、トイレには、タンク等は不要で流す機能も必要ないだろう。

 ふたを開けて座って用を足すだけだ。蓋や座る部分は、日本で一般的な洋式便器のようなプラスチック製ではなく、木製のしっかりしたものにする。


 問題は、自動清掃機能の実行タイミングだが、個室を出る時に個室内を清掃するように設定する。つまり、個室のドアを閉めて鍵をかけた後、次に鍵を開けたときに実行されるようにした。

 洗浄ボタンを座った状態で押せる位置の壁に付けて、それを押したときにも自動清掃機能が働くようにできるか試してみると、そういったギミックも可能だったので、洗浄ボタン機能も採用する。

 そして、入り口の扉を帰還させたときには、室内全体に発動するように設定する。


 ついでに以下の条件を追加した。


―――――――――――――――――――――――――――――


 追加条件1:分解不可

 追加条件2:譲渡不可


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[作成]


 作成して、名前を『トイレ』にする。ちなみに魔法石は、8個必要だった。

 作業を終えた僕は目を開ける。


 僕は立ち上がって、『ロッジ』の左奥の壁に『トイレ』を設置した。

 元娼婦たちを呼ぶ。


「この扉は、トイレだから」

「「あぁ……」」


 3人から安堵のため息が漏れる。


『トイレが無いのは辛いよね……』


 そういえば、トイレで通じているようだ。


「トイレの意味が分かるの?」

かわやのことですわよね?」


 ミチコがそう答えた。


「そうだよ。じゃあ、試してみて」


 彼女たちは、席を立って『トイレ』に入っていく。

 僕も一緒に中へ入る。使い方を説明するためだ。おそらく、洋式トイレは珍しいはずだ。


 個室のドアは基本的に開いている。

 左側の一つ目の個室に入り、洋式便器の蓋を開けた。


「こうやって、蓋を開けてから座って用を足して。終わったら、このボタンを押すと自動清掃機能が働いて綺麗になるから。そして、蓋を閉めて個室を出るだけでいい。あと、必ず個室に入ったら鍵をかけること」

「分かりましたわ」

「ええ、分かったわ」

「……はい」

「何か分からないことがあったら、いつでも質問して」

「「はいっ」」


 僕は、『トイレ』から出て『ロッジ』に戻った――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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