6―13

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 僕は入り口からすぐ左手にあるテーブルの手前側の真ん中の席に座った。

 娼婦たちには、反対側の席に着くように勧める。

 僕の方から見て、左からミチコ、ケイコ、ミスズが座った。


『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』

『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』


『サンドイッチセット』と『コーンクリームスープ』を僕も含めた4人の席に出した。


「「あっ」」


 テーブルの上に突然、食事が現れたので娼婦たちは驚いたようだ。


「良かったら、どうぞ召し上がってください」


 彼女たちは、お互いに顔を見合わせてからうなずき合った。


「「いただきます」」


 遠慮せずに食べることにしたようだ。

 元の世界でも同伴というシステムがあるくらいなので、この世界でも人気のある娼婦は食事などをおごられることがあるのではないだろうか。


「あっ、美味しい」

「本当」

「……美味しい」


『フェリア召喚』『ルート・ドライアード召喚』


 僕の左右の後ろに護衛の使い魔を召喚した。

 護衛など必要ないのだが……。


「ご主人様」

「主殿」


「「――――!?」」


 娼婦たちは驚いたようだ。


『そりゃ、いきなり甲冑を着た人間が現れたらビビるよな……』


「彼女たちは僕の護衛ですから心配ありません」


 少し怯えた目をしてケイコが尋ねてくる。


「その方達は、何処から現れたのですか?」

「そういう魔法ですよ」


 彼女は一般人なので、魔法と言ったら納得してくれたようだ。


「お気になさらず、食事を続けてください」


 僕は、そう言ってから、自分の分を食べはじめた。

 スープを飲んで、サンドイッチをつまむ。

 3人の娼婦たちとペースを合わせて食事をした。


 残りがコーヒーのみになったところで、スープの食器を戻した。

 そのタイミングでケイコが話しかけてくる。


「旦那様は、わたくしたちをどうするおつもりですか?」

「あなた方が望むなら身請けの代金を払いますよ」


 3人の顔が明るくなる。


「その後は、旦那様にお仕えすればよろしいのですか?」

「それを希望するならね。自由になりたいのでしたら、後は自由にしてもらっても結構です」

「そんな……一体、何をお考えなのですか?」

「実は、僕は『春夢亭しゅんむてい』を買収しようかと考えているんだ」

「「えっ?」」


 彼女たちが驚いた声を上げる。


「今日は、その視察に来たってわけ。年長者を選んだのも事情に詳しいと思ったからだよ」


 ミチコが聞いてきた。


「何をお知りになりたいのですか?」

「娼婦についてかな」

「娼婦の何についてですか?」

「まず、聞きたいのは、あなたたちは、幸せですか?」


 3人が暗い顔をする。


「歳を取ったら娼婦を続けられませんよね? その後は、どうやって生活していくんです?」

「グスッ……ぅううぅ……」


 ミスズが泣き始めた。どうやら、この先の人生を悲観しているようだ。


「悲観することはありませんよ。僕は、そんな娼婦たちを助けるために来たわけだし」

「助けていただけるんですか?」

「僕の使い魔になるという条件で、刻印を刻んであげます」

「「なっ!?」」

「そっ、それは本当ですか!?」

「勿論、本当です」

「あぁ……」


 3人とも涙を流している。


「じゃあ、3人とも身請けをするということでいいですか?」

「はい、よろしくお願いします」

「そのあとは、自由にならずに僕の使い魔になるということでいいんだね? その場合、引き続き娼館で働いてもらうけど大丈夫?」

「はい、刻印を戴けるのでしたら、何でもいたしますわ」

「この街から娼館が無くなれば、新たな娼館が作られてしまうだろうしね」

「確かにそうですわね。でも、わたくしたちは娼婦の仕事が嫌なわけではありませんよ。歳を取って捨てられるのが嫌なのです。この歳まで娼婦をやっておりますと、他の仕事をする自信がないのですわ」


『春夢亭』についても聞いてみた。3人の話を要約すると以下のような感じだった――。


―――――――――――――――――――――――――――――


『春夢亭』の女将は、トモコという名前で元娼婦だったが、ヤマモト・ジロウに気に入られて身請けをされ、刻印まで刻まれたらしい。そして、ヤマモト家が『春夢亭』を買収したあと、女将の座に納まったようだ。

 内部事情に詳しい者を責任者にするため、ジロウが買収する前から女将にと考えていたのかもしれない。

 ジロウは、噂通りの性豪のようで娼婦たちを漁っているようだ。毎晩のように、数名がジロウの元に派遣されるという話だ。


『春夢亭』の客は、冒険者が割と多いようだ。全体の半数近くを占めるらしい。ただ、冒険者の場合は、常連がほとんどなので、たまに冒険者の常連客が来なくなったと思っていたら、後で死んだことを知らされることがあるようだ。

 逆に一般人のほうは、何度も通ってくる常連客は少ないが、顧客数が多いので割合としては、半数を超えているようだ。一般客が恐いのは、性病を持ち込むことだ。『組合』から厳しく指導されているようで、性病の蔓延まんえんは絶対に阻止するよう通達されているとか。

 性病が発覚した場合、『女神の秘薬』を感染した娼婦に飲ませることが『組合』により義務づけられているそうだ。これは、守られているのか聞いてみたところ、かなり怪しいようだ。

 数年前に性病に感染した娼婦が行方不明になったことがあったらしい。『組合』に駆け込まれると大問題になるので、始末したのではないだろうか。また、人気の娼婦だと『女神の秘薬』を使って治療したケースもあったという話だ。

 ちなみにどんな性病なのか聞いてみたら、症状から察するに梅毒のようだ。やはり、命に関わる性病というと梅毒が筆頭に挙がるのだろう。


 歳を取った娼婦がどうなるのかといえば、幾ばくかのお金を渡されて追い出されるらしい。

 この街では、個人売春は禁止されているが、厳しく取り締まられているわけではないので、追い出された娼婦は、安く身体を売ったり、『組合』で何らかの仕事を見つけないと生きていけないようだ。中には自殺する者も居るとか。

 ミスズは、そういった将来に悲観していたようだ。おそらく、生きていくのに不器用なため、新しい人生を見つけることなどできないと思っていたのだろう。


―――――――――――――――――――――――――――――


 話を聞き終えた僕は、冷めたコーヒーをすすった。


「あの、旦那様……よろしければ、わたくしたちを朝まで好きになさってください」


 ケイコがそう言って立ち上がった。


「いや、別にいいです……」

「やはり、こんな年増女に魅力は感じませんか?」

「そういうわけじゃないよ。ただ、僕には間に合ってるというか……」

「でも、わたくしたちの気が済みません。どうか、朝までお使いくださいな」


 少し疑問に思ったので聞いてみた。


「お客さんには普通の人も居ますよね? 避妊はどうしてるのですか? 子持ちの娼婦は居ないの?」

「はい、それは『避妊薬』がありますので」

「へぇ……どんな薬?」

「『女神の秘薬』と同じような魔法のポーションですわ」

「魔法のポーションだと、高いんじゃ?」

「それが、『避妊薬』は物凄く安いのです。銀貨1枚で買えます」

「何処で売ってるの?」

「『女神教めがみきょう』の支部で販売されていますわ」


【商取引】→『アイテム購入』


『避妊薬』


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・避妊薬【ポーション】・・・0.08ゴールド [購入する]


―――――――――――――――――――――――――――――


【商取引】では、銅貨8枚で購入できるようだ。


「そういった、一般人向けの薬って他にもあるの?」

「妊婦が飲む薬もありますね」

「どんな薬?」

「元気な子供を授かれるそうです」



【商取引】→『アイテム購入』


『妊婦が飲む薬』


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・胎児安定薬【ポーション】・・・0.08ゴールド [購入する]


―――――――――――――――――――――――――――――


 検索してみたら、『胎児安定薬』という薬が見つかった。

『避妊薬』と同じ値段だ。

 名前からして胎児に作用する薬のようだ。

 もしかすると、胎児が障害児にならないよう作用するのかもしれない。


「さっき言ってた『避妊薬』だけど、どれくらい効果が続くの?」

「飲むと丸一日は効果が持続するようです」

「実際に効果は確認してるの?」

「はい、『春夢亭』には、子持ちの娼婦は居ませんから」

「確かにそれは凄い効果ですね」


 ふと、疑問に思ったので聞いてみる。


「刻印を刻んだら、子供が産めなくなるけどいいのですか?」

「はい。この歳で出産は大変です。旦那様は、刻印をお持ちですから、他に子種を授かりたいと思う相手もおりません」

「そうだ。君たちの先輩……つまり、『春夢亭』を追い出された元娼婦の行方を知ってる?」

「何人か存じ上げていますわ」

「そうなんだ?」

「はい、実は娼婦たちでカンパをしているのです」

「なるほど……じゃあ、その人たちの居場所を明日、僕の知り合いの女冒険者のパーティに伝えてあげて」

「どうされるおつもりなのですか?」

「その人達も希望するなら僕の使い魔にするよ」

「ああっ……何という素晴らしいお方……」

「本当……」

「グスッ……」


 ケイコたちは泣き出した。


「でも、普通は誰かの使い魔になるくらいなら死んだ方がマシって考えない? 僕は、酷いことをしていると思ってるんだけど……」

「そんな! 旦那様の使い魔でしたら、喜んでならせていただきますわ。姉さん達も同じだと思います」

「とりあえずは、本人たちの希望を聞いてみるよ」

「では、旦那様……いえ、ご主人様。ベッドに戻って楽しみましょう?」

「いや、それはいいけど、風呂に入ろう」


 僕は立ち上がり硬貨袋をテーブルに置いて、入り口の反対側の壁の前に移動した。


『ハーレム』


 壁の前に『ハーレム』の扉を召喚する。


「服を脱いで、こっちに来て」

「「はいっ」」


 娼婦たちが派手な着物を脱ぎ始めた。

 ケイコは、思った通りの少し垂れた巨乳でけしからん身体をしていた。

 ミチコは、痩せていて胸も小ぶりだった。といっても、ガリガリに痩せているわけではなく、スレンダーな女性という印象だ。

 ミスズは、かなりプロポーションの良い身体つきをしている。胸は大きくも小さくもないバランスの良いサイズだ。


 彼女たちが脱いだのを確認してから、僕は『ハーレム』の扉を開けて中に入った。

 フェリアとルート・ドライアードは、鎧を脱がずに僕の後をついて来る。

 大浴場の引き戸を開けて中に入る。

 フェリアとルート・ドライアードは、浴場の中へは入らず、入り口の両側に立番をする衛兵のように立った。


『装備8』


―――――――――――――――――――――――――――――


 指輪:回復の指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


 裸でも念のため『回復の指輪』を装備しておくことにした。

 娼婦たちが脅威になることはないが、今後のためにも用心しておくに越したことはないだろう。


『装備8換装』


 僕は、浴場の中で裸になって、そのまま湯船の中へ入り腰を下ろす。

 振り向くと、娼婦たちが洗い場に立っている。


「さぁ、こっちにきて」

「しかし、お湯を汚してしまいますわ」

「大丈夫、ここは自動清掃機能が付いた建物だから」

「では、失礼します」

「あぁ、お湯につかるのは久しぶりだわぁ~」

「ホントに……」


 娼婦たちも温泉を堪能しているようだ。

 僕も目を閉じて、ゆっくりとお湯を堪能する。

 周囲に気配がするので目を開けたら、3人が寄ってきて僕にピッタリとくっついた。


 3人に抱きつかれたまま、10分くらい入浴したあと『ロッジ』に戻った――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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