3―11

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 僕は、フェリアのメイド服姿に見蕩みとれていた。

 フェリアにメイド服の組合せは、凄く似合っていた。美人で背が高くスタイルも良い、長い黒髪のメイド。

 心の中で『ストライク!』という叫び声が聞こえたような気がした。


「……す、凄く似合ってるよ」

「ありがとうございます」


 あまりジロジロ見るのも失礼なので、目を逸らして時間を確認してみる。


『現在時刻』


 右下に【19:07】と表示された。夕方の7時を回ったくらいのようだ。


「あの、もしよろしければ、お夕飯に何かお作りいたしましょうか?」

「じゃあ、何か適当に頼むよ」

「では、お肉料理などは、いかがでしょう?」

「いいね」

「少々、お待ちくださいませ」


 と言いつつ、あっという間に準備が終わってしまったので失笑してしまう。

 料理は、肉のステーキとコーンスープ、パンとサラダの4品だった。肉は、牛ヒレ肉だろう。ステーキは、一口サイズにカットしてある。


『パンじゃなくてライスなら最高だったんだけどな』


「美味しそうだ」

「では、お召し上がりください」


 そう言って、フェリアは、自分の分は用意せずに僕の斜め後ろに控える。


「フェリアは食べないの?」

わたくしは結構でございます」

「あの、別に給仕とかしてもらわなくてもいいんだけど……」

「ご主人様、これはわたくしの仕事でございます」


 どうやら、フェリアは一緒に食事を摂るよりも僕に給仕をすることにプロ意識のようなものを感じているらしい。

 僕としては、落ち着かないので、向かいに座って一緒に食べて欲しいのだが……。


「……じゃあ、いただきまーす」


 僕は、肉を一切れフォークで刺して口に運ぶ。僕が知っているステーキの味に比べると上品な薄味だけど、ご飯と一緒に食べないなら、これくらいのほうが食べやすい。普段は、あまり食欲がないのだが、食べ始めると結構食べてしまう。料理が美味しかったこともあり、夢中で平らげてしまった。その間、フェリアは、空いたお皿を片付けたり、お代わりをしないか聞いてきたり、本物のメイドのように給仕をしてくれた。いや、本物を体験したことはないので、これは想像だが。


「僕は、刻印を刻んでから、あまり食欲がなくなったんだけど、これは個人差があるのかな?」

「【エルフの刻印】は、あまり食欲が強くなく、【冒険者の刻印】は、食欲が強いと聞いたことがございます」


 人間が刻むことが多い【冒険者の刻印】だと、もっとお腹が空くみたいだ。そのほうが、ご飯が美味しく食べられるのかもしれないが、定期的に食事をしないといけない。街にとっては、冒険者が食事をするときに落とすお金が回るのでいいのだろう。


 使い魔のことで気になったことを尋ねてみる。


「フェリアが今日のゴブリン狩りでレベルアップしたのは間違いないよね? それまでは、着られなかったそのメイド服を装備できるようになったわけだし」

「はい」

「『レベルアップ』の意味は分かる?」

「はい、『成長する』ことを指す冒険者が使う言葉です」

「なるほど。とにかく、どういう仕組みか分からないけど、少なくともフェリアはゴブリン狩りで筋力が上がった」

「はい」

「つまり、使い魔も成長するということだよね? それをフェリアは知ってたみたいだけど、何処で聞いたの?」

わたくしがそのことに気付いたのは、アーシュが成長したからです」

「アーシュも強くなったの?」

「いえ、戦闘はさせていませんが、アーシュを後ろに出したまま戦うことも多かったので、それによってアーシュが成長したことに気付きました」

「どういうこと?」

「はい、成長したアーシュは、それまでよりも走る速度が速くなったのです」

「それは間違いない?」

「はい、毎日のようにアーシュに乗っていましたので、最初は変化に気付かなかったのですが、家からある場所までの走る時間が明らかに短くなっていることに気付きました」

「ある場所というのは?」

「ご主人様と出会った場所の近くにある丘です。毎日のようにその丘までアーシュを走らせていましたから」

「そのおかげで僕は助かったんだね」

「本当にご主人様と出会えて幸運でしたわ」


 次の疑問を訊いてみる。


「モンスターも召喚魔法のような原理で呼び出されると言ってたよね? ということは、モンスターも成長すると思う?」

「いいえ、それはないと思います」

「どうして?」

「もし、モンスターが成長するなら、モンスター達は昔に比べてずっと強くなっているはずです」

「なるほど、百年前と比べてコボルトやゴブリンの強さは変わっていないんだね?」

「はい、むしろわたくしが成長したことで相対的に弱くなっているように感じます」

「ちょっと君を帰還させてもいいかな?」

「勿論でございます」


『フェリア帰還』


 と念じるとフェリアの姿が白く光って消失する。


【商取引】


 僕は、自分の装備も少し見直すことにした。今現在の所持金は、約18万ゴールドになっているので、性能が低くても問題がない普段着を中心に【商取引】で購入することにした。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・コットンパンツ【装備】 …… 15.56ゴールド

 ・浴衣【装備】 ………………… 18.98ゴールド

 ・下駄【装備】 ………………… 23.78ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


 以上、3点を購入する。無駄だろうと思いつつ検索してみた『下駄』がヒットしたのを見たときには笑ってしまった。

 そして、『装備6』と『装備7』を変更する。『装備6』が部屋着で、『装備7』は寝間着のつもりだ。


『装備6』


―――――――――――――――――――――――――――――


 上着:コットンシャツ

 脚:コットンパンツ

 足:革のブーツ

 下着:魔布のトランクス


―――――――――――――――――――――――――――――


『装備7』


―――――――――――――――――――――――――――――


 服:浴衣

 足:下駄

 下着:魔布のトランクス


―――――――――――――――――――――――――――――


『装備6換装』と念じて『装備6』へ着替える。『装備2』とあまり変わらないのだが、『革のズボン』は分厚い素材なので、戦闘時以外は着なくてもいいだろうという判断だ。お金に余裕ができたら、戦闘用装備も一式新調したほうがいいだろう。フェリアが言っていたように、少しでも生存確率の上がる装備を使ったほうがいい。ちなみに刻印を施した身体は、汗をかかないため、分厚い『革のズボン』を着ていても蒸れて不快になったりすることはないのだが。


『フェリア召喚』


 と念じて、フェリアを召喚する。出現先は、先ほどとほぼ同じ場所を指定する。

 すると、白い光に包まれてフェリアが現れる。服装は、帰還させたときと同じメイド服のままだ。


「フェリア、君は僕が帰還させて5分くらいこの世界から消えていたわけだけど、その間はどんな状態なの?」

「睡眠時と同じような状態です」


 刻印を持つ者の睡眠は、真っ暗になったと思ったらタイムスリップしたように時間が経過しているというものなので、彼女は一瞬眠ったら数分経っていたという感覚なのだろう。


「当然、帰還させる前の記憶も持っているよね?」

「はい、このメイド服を戴きました」

「死んだモンスターも記憶を継続しているのかな?」

「それはわたくしにも分かりません。ですが、可能性としては、記憶を継続していないほうが高いと思われます」

「モンスターが成長しないからだね?」

「はい」


 システム的なアシストによりレベルアップをしなくても数多くの戦闘経験を積めば強くなるだろう。昨日今日、剣道を始めたばかりの人間と何十年も剣道をやってきた人間ではその強さが違うのと同じ事だ。


 ――使い魔の装備を変更することはできるのだろうか?


『フェリアの装備8換装』


 試しにそう念じてみる。


 一瞬白い光に包まれた後、裸のフェリアが現れる。


「わっ、ごめん」

「ふふっ……」


『フェリアの装備6換装』


 僕は、慌ててフェリアの装備をメイド服に戻した。


「使い魔の装備を強制的に変更することもできるんだ……」

「ええ、そうですわ」


 考えてみれば、装備をいじれるのだから当たり前の話かもしれない。

 次いで『フェリアのアイテム確認』と念じたら、フェリアの持ち物のリストが表示された。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・ミスリルの打刀+5【装備】

 ・ミスリルのショートソード+5【装備】

 ・ミスリルの弓+5【装備】

 ・アダマンタイトのナイフ+2【装備】

 ・アダマンタイトのヒーターシールド+3【装備】

 ・アダマンタイトの矢+1【装備】 ×8

 ・メイドカチューシャ【装備】

 ・黒のチョーカー【装備】

 ・ミスリルの胸当て+5【装備】

 ・竜革の胸当て+5【装備】

 ・魔布のボディスーツ+5【装備】

 ・魔布のローブ+5【装備】

 ・浴衣【装備】

 ・フェリアのメイド服【装備】

 ・魔布のスカート+5【装備】

 ・魔布のミニスカート+5【装備】

 ・竜革の篭手+5【装備】

 ・フェリアの腕輪【装備】

 ・魔布のニーソックス+5【装備】

 ・黒のストッキング&ガーターベルト【装備】

 ・竜革のブーツ+5【装備】

 ・草履【装備】

 ・竜革のマント+5【装備】

 ・黒のブラジャー【装備】

 ・黒のパンティー【装備】

 ・白のブラジャー【装備】

 ・白のパンティー【装備】

 ・赤のブラジャー【装備】

 ・赤のパンティー【装備】

 ・青のブラジャー【装備】

 ・青のパンティー【装備】

 ・プラチナ【素材】 ×10

 ・ミスリル【素材】 ×22

 ・アダマンタイト【素材】 ×8

 ・ソフトレザー【素材】 ×14

 ・ハードレザー【素材】 ×16

 ・ドラゴンスキン【素材】 ×28

 ・コットン【素材】 ×19

 ・シルク【素材】 ×15

 ・マジックリンネル【素材】 ×17

 ・魔法石【素材】 ×12

 ・女神の秘薬【ポーション】 ×9

 ・体力回復薬【ポーション】 ×18

 ・魔力回復薬【ポーション】 ×16

 ・倉庫【マジックアイテム】

 ・毛布【マジックアイテム】 ×8

 ・革袋(中)【アイテム】 ×4

 ・革袋(小)【アイテム】 ×5


―――――――――――――――――――――――――――――


 所持金……2835949.68ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


 百年以上生きてきた割に持ち物の数が少ない印象だ。僕だったら、ゴミのような装備が山ほどストックされていただろう。所持金は、280万ゴールドといったところで、これも意外と少なく感じる。先ほどの話では、フェリアは僕に比べてモンスターを倒したときに得られる金額が少ないようなので、それも関係しているのだろうか。


「意外と持ち物が少ないね?」

繁雑はんざつになりますので、不要な物は『分解』しております」

「あと、兜のような装備が全然ないけど、使わない主義なの?」

「はい、頭に被る装備はあまり好みません」

「弓や盾は、装備してないけど、使うことあるの?」

「滅多に使いませんから、普段は外してあります」

「でも、パンツの色違いより重要じゃない?」

「んんっ……あれはっ……ご、ご主人様に見て頂くために……変更したものですからぁ……」

「……そうなんだ」


 少しでも生存確率を上げるべきと僕に忠告した割に自分のことには頓着とんちゃくなようだ。

 まぁ、彼女から見れば、モンスターの動きなんて止まっているようなものだから、回避しやすい頭部に攻撃を受けることなんてあり得ないということだろう。


 そういえば、マジックアイテム以外を試しに作ってみようと思っていたことを思い出した。


「フェリア、僕が元の世界で着ていた服を持ってきてくれないか?」

「ハッ! 少々お待ちくださいませ」


 そう言って、フェリアは彼女の『倉庫』の扉を出現させ、中に入っていく。

 そして、僕の服と靴を入れた袋を持って出てくる。

 僕はそれを受け取り、中から服を取りだして、テーブルに並べる。服は、『保存箱』とやらの機能で綺麗になっていた。Tシャツに付いていた血痕けっこんも無くなっている。


【工房】→『アイテム作成』


『普通のアイテム』と念じて、トランクス、Tシャツ、シーパン、ベルト、靴下、ジャケット、靴などを作っていく。

 トランクスなどは、自分で手に持って広げてデザインをよく観察しながら、イメージ映像をそれに近づけていく。ジャケットなどの大きめのものは、フェリアに広げてもらい、それを見ながら作成する。ちなみに、装備品のベルトは、『革のズボン』等の脚装備の付属品となっていることが多い。分けてイメージすれば別に作れるが、その必要性が低いようだ。


 ・トランクスのレシピ

 ・Tシャツのレシピ

 ・シーパンのレシピ

 ・ベルトのレシピ

 ・靴下のレシピ

 ・ジャケットのレシピ

 ・スニーカーのレシピ


 それぞれのレシピが完成した。命名は例によって僕が適当に行った。


「【工房】で普通のアイテムのレシピを作ったんだけど、どうやって実体化させるの?」

「はい、【工房】の『アイテム作成』で『レシピから作成』と念じればアイテム化されます」


 その通りにやってみると、


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・トランクス【アイテム】 ……………… 0.20ゴールド

 ・Tシャツ【アイテム】 ………………… 0.50ゴールド

 ・シーパン【アイテム】 ………………… 0.40ゴールド

 ・ベルト【アイテム】 …………………… 0.30ゴールド

 ・靴下【アイテム】 ……………………… 0.10ゴールド

 ・ジャケット【アイテム】 ……………… 0.90ゴールド

 ・スニーカー【アイテム】 ……………… 0.70ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


 アイテムがそれぞれの金額で作成された。

 普通のアイテムは、素材が不要な代わりにレシピからアイテム化するときに内容に応じてお金がかかるようだ。価格は、硬貨で支払うなら銀貨○枚というアバウトな値付けだ。トランクスで比較すると、【商取引】で売られていたものより少し安い。こうやって作成してから、利益を乗せて販売しているのだろう。

 僕は、作成したアイテム一式を実体化してみる。

 よく見ると細部が違うものの、僕が元の世界で着ていた服とほぼ同じ外見の服が作れたことが分かる。手で触った感触も似ているようだ。この辺りも脳内イメージから再現されているのだろうか。材質の成分を分析してみたいところだ。

 結果に満足して、その服を元の世界の服と一緒にフェリアに仕舞うように命令する。


「フェリア、悪いけどこれらの服をまた片付けといて」

「ハッ!」


 テーブルの上で丁寧に畳んで袋に詰めていく。

 それが終わったら、扉を開けて『倉庫』へ入っていった。すぐに戻ってきたフェリアは、『倉庫』の扉を消した。


「そういえば、その『倉庫』って、『保存箱』だかの機能が付いていて、中に入れたものの汚れが取れるんだよね?」

「はい、そうですわ」

「じゃあ、普通の人間を入れたらどうなるの?」

「おそらく、その人間や着用している衣類についた汚れが除去されると思います」

「人間自体には影響はないと?」

「はい、それは大丈夫です。『保存箱』の効果で中に入った人間が死亡することはございません」

「ゴキブリのような虫はどうなるの?」

「おそらく、汚れと判定されて消失すると思われます」

「その機能が働くのは、扉を消した時?」

「はい、その通りでございます」


 僕もそのうち、『保存箱』の機能が付いた部屋を作ってみようと思った。


 ――さて、次はどうしよう?


 僕は、他に何かやっておかないといけないことが無かったか考え始める――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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