頭を強かに打ちつけたせいで、ぶつけた場所にはコブができていた。それを紅さんに手当てしてもらっている間、わたしはウズウズしてしょうがなかった。傷が痛かったからじゃない。紅さんとわたしの二人だけがいるこの状況でしかできない質問を、一体どのタイミングで切り出せばいいかはかりかねていたからだ。

「よし。腫れてる部分に関してはこうして冷やしておけばそのうち治まるでしょ。念のため今日はあたしの部屋に泊まんなさい。あと無闇に出歩かないこと。大人しくしてるのよ?」

「はぁ……紅さんちょっと心配しすぎじゃないですか? わたしこれ以上頭悪くなりようがないから大丈夫だと思うんですけど」

「そういう問題じゃないの」

 茶化したわたしの冗談にピシャリと返され、反論できない。先送りできるのもここまでか。わたしは覚悟を決めて本題に入った。

「あの……」

「うん?」

 紅さんは治療具を棚に片付けてるから背中越しに答える。

「これ、ずっときいていいのか迷ってて、でもずっとききたいと思ってたことで……あ、別にレンの事情に立ち入ろうとかそういう意図はないんです! ただわたしに関しても同じこと言われたので気になってて……その……」

「災殃因果律?」

 紅さんはわたしの言葉の先を言い当てる。まぁそうだろう。さっき棘縉さんがそのことに言及してから、明らかにわたしの態度はおかしかったはずだ。

「貴女に言ったのっておばあさまね? 全く……気にしないほうがいいわよ? あの方、何かにつけてその言葉を口にするから。きっとお好きなのよ。悪趣味だけど」

 言いながら戸棚を閉めて、わたしが座っているベッドのほうへやってくると、紅さんはその辺の椅子を引っ張ってきて腰掛けた。わたしと対峙する形。どうやらきちんと説明してくれるつもりらしい。

「でも自分にも言われたんじゃ、知りたくもなるわよね。わかった。ただし、全部は説明できないの。国民にも発表されてない、王家の秘密みたいなのがあるからさ。別に咲ちゃんが言いふらすって疑ってる訳じゃないんだけど、これはとても慎重に扱わなければならない問題も含まれていて……そこはわかってくれる?」

「もちろんです。わたしは金糸雀だけじゃなくて、この世界にとっていわば余所者ですし。深く立ち入るつもりはないんです、さっきも言ったけど」

「ありがとう」

 紅さんは苦笑すると、訥々と語り出してくれた。

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