「なんかまた、特別不思議な子たちを連れてきたわねぇ、咲ちゃんてば」

 弦くんたちを前にして、紅さんはやれやれといった体で呟いた。竜蹄の牢屋に捕まっていたわたしと女の子――讖箴(しんしん)ちゃんというらしい――は、偶然通りかかった弦くんに助けられ、なんとか紅さんの船まで辿り着くことができていた。だけど素性の怪しい弦くんのこと。今は金糸雀姉弟に尋問されている、といったところだ。

「お前たちは、金糸雀人か?」

「いいや。少なくともぼくは違うよ。このお嬢さんはどうだか知らないけど」

「! では竜蹄の……?」

 敵国の民である可能性を疑って、レンは思わず腰に佩く剣に腕を伸ばしかける。……なんだかいつぞや見かけた光景だ。

 そんなレンとは対照的に、弦くんはなんとものんびりとした調子で、「まぁまぁ落ち着いて」とでも言わんばかりに、ひらひらと両手を顔の横で振る。

「それも違うよ」

「……は?」

「ぼくはどちらにも属さない。ただの中立の立場として、金糸雀と竜蹄を結ぶ、しがない手紙屋をやってるのさ」

「手紙屋……?」

 レンが訝しげにしている様子から、どうやらこの世界でも【手紙屋】と呼ばれる職業が一般的でないことが見て取れた。紅さんも不思議そうに小首を傾げ、指を顎にかけている。

「とりあえず君たちに危害を加えるつもりはないよ。じゃなきゃ咲さん助けたりしないし」

「それはまぁ……確かにそうだが。その点は感謝している。礼を言おう」

「まぁこっちにも色々と事情があるって訳。それはそっちも同じなんじゃないの? 皇子サマとお姫サマ」

「! 何故それを……」

 レンは再び警戒して、思わず腰に手をやった。なんだか弦くん、わざとレンたちを煽ってるみたいに見える。

「何故って言われてもねぇ。君たちの絵姿って配布されてるじゃない。国民みんなが顔を知ってる訳でしょ? それが敵にも渡ってるとか考えないの? まぁぼくは敵でも味方でもない立場だけど、ぼくが知ってても不思議じゃない状況にはありますよね」

「……」

 まだ渋い顔で睨んではいたけど、思うところはあったらしい。レンは渋々といった体で腰から手を離した。

「貴女は? 讖箴ちゃん。貴女も根無し草なの?」

 紅さんが優しく問う。応える讖箴ちゃんの声は、消え入りそうな音量だった。

「いえ、私は……金糸雀人です。ですが……金糸雀出身、ということ以外は……ひどく……曖昧で……」

 讖箴ちゃんは済まなさそうにそう返す。どうもぼんやりしている様子だけれど、それは生来の気質というだけではないのかもしれない。

「そう……嫌な話だけれど、捕まった時に何かされてるのかもしれないわね。それだけのことをする価値が貴女にもあるということなのだろうけれど、それにも心当たりはないのよね?」

「はい……申し訳、ありません……」

「あぁ謝らないで。責めてる訳じゃないから」

 紅さんは慌てて両手を振る。讖箴ちゃんも捕まっていたという身の上から、弦くんほどキツくあたれないらしかった。

「まぁとりあえず、二人ともここに置いてあげましょうよ。一応咲ちゃんの恩人なんだし。何かあったらレン、貴方きちんと対処してくれるでしょ?」

「それはまぁ、もちろんですが……」

 レンは納得しきれていない様子だったけれど、お姉さんには逆らえないみたいで、はっきりと異は唱えなかった。

 遠巻きに彼らのやりとりを窺っていたわたしはひとまず安堵し、詰めていた息をホッと吐き出した。仮にも命の恩人だ。放り出されるのは可哀想だった。だけどわたしが口出ししていい場面でもなかったから、紅さんとレンに完全に委ねていた。いつもは出しゃばりがちな棘縉さんも、この時ばかりは大人しく口を噤んでいたのだった。

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