エピローグ

BLOOD TYPE:F

 季節は巡り巡って、利駆たちの街にも再び春の訪れが感じられるようになってきた。

 血液アレルギーによる栄養失調を克服したオルハは、救世主とも呼べる利駆のそばを離れることなくいついていた。彼を元いた場所に連れ戻そうとやってきたレンハも、理由という唯一無二の存在を得て、この世界にとどまることを決めた。サワは相変わらず、梨咲に追い回される日々が続き、辟易してはいるものの、オルハを理由に自ら積極的に故郷へ帰ろうとはしないのであった。

 こうして、この街には三人の吸血鬼が住み着くというなんとも奇妙な状況になったのだが、人々の様子は特段変わらない。利駆や理由は進級し、梨咲の活躍がちょっとだけ増える新学期が、もうそこまでやってきていた。

「ほう、そうかそうか」

 そうした中、吸血鬼研究の第一人者である偶見だけは、試験管片手に一人ほくそ笑んでいた。オルハのアレルギーについての実験に一段落つきそうだったからだ。机の上に無造作に放り出されているボードには、実に興味深い見解が記されていた。

 【本当に吸ってもらいたいという気持ちがある人間の血液でないと受け付けない身体】

 【吸われても良いという精神状況にある時のみ分泌される血液中の物質】

 【その血中物質が、免疫による過剰反応を抑える役割を果たす? 既存四種以外の新たな血液型の発見か】

 【更にその血中成分は、対象吸血鬼にとっての血液の旨みを引き出す要因と成り得る】

 そしてそれらの一番下の空白に、彼女は空いた手でこう走り書きする。

 BLOOD TYPE:F――FEELINGの頭文字をとった、F型の意だ。

「こりゃあ面白くなりそうだ。次の研究テーマはこれに決まりだね」

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