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レンハはレンハで捻くれ者だが、理由も一筋縄ではいかない性格をしていた。周りからは優しく真面目と称される。だが理由が誰かを心配する、助けたいと思う気持ちの根底には、優しさとは別の想いが流れていた。
理由は幼い頃、父親と母親との三人暮らしだった。両親は共働きの、いわゆる鍵っ子。近所で一人暮らししていた母方の祖母の家に預けられることも少なくなかった。
その日も、理由は祖母宅に預けられていた。一人っ子の理由は、一人遊びにも慣れていた。祖母に相手をしてもらわなくとも、一人で時間を潰すことなどお手の物だったのだ。だから気が付くのが遅れてしまった。祖母が急病で、倒れてしまっていたことに。
倒れた祖母を発見してからも、幼い理由には上手く対応することができなかった。救急車を呼ぼうにも、気が動転していてどんな番号にかければ良かったのか思い出せない。近所の人に助けを求めれば良かったものを、焦るばかりの理由の頭にそんな考えは浮かんでこなかった。結局祖母は、搬送された先の病院で、そのまま亡くなってしまうことになる。もう少し早く病院に運ばれれば、助かるはずだったとのことだった。
祖母と母は、仲が良かった。それだけに、祖母が亡くなった現実を、母はなかなか受け入れることができなかった。心の整理がつかない母は、祖母が亡くなったことを理由のせいにした。きちんと救急車を呼べなかった理由を責め、「お前のせいだ、お前がもっとしっかりしていれば」と詰った。血の繋がった母娘だからこそ、余計に冷静になれず、怒りは次第にエスカレートしていった。
母親のそんな様子を見かねた父は、理由を引き取っての離婚を決意する。このままではもっと深刻な虐待に繋がる、それは理由の母親にとっても本意ではないはずだ、と苦慮してのことだった。
父親や周囲の人たちは、祖母のことも、母のことも、理由のせいではないと言ってくれた。けれども理由は、最後まで母と和解できなかった責任を感じてしまっていた。そして、「もう誰も死なせない、絶対に助けてみせる」との想いから、進路も看護の道へと決めた。
祖母から譲ってもらったネックレスは、図らずも彼女の形見となってしまった。音楽の好きな祖母へと、祖父から贈られたという首飾り。形に合わせてはめられた丸い宝石は順にルビー、エメラルド、ガーネット、アメジスト、ダイアモンド。生前の祖母に教えてもらった話によると、それぞれの頭文字を並べると【REGARD】となり、【敬愛・親愛】を意味するリガードジュエリーと呼ばれるものだそうだった。
今現在、その飾りはレンハの手元にあった。片手でポーンポーンとその飾りを投げたり受け取ったりしているレンハは、何故か利駆たちの高校の旧校舎裏手にあるオルハのお気に入りの庭にいた。横には当然のようにオルハもいる。以前より授業に出るようにはなったオルハだが、吸血鬼として長年生きてきた知能では、人間の行う授業は退屈で飽きてしまう。なのでたまには、前のようにこうして裏庭で昼寝をしていることもあるのだった。そんなオルハに、レンハは問う。
「ねー、オルハくん。人間って、ある特定の物に執着したりするもの?」
「……。まぁ、そうなんじゃねぇの?」
テキトウに答えながらも、オルハは利駆の生徒手帳の中にある家族写真のことを思い出していた。二人が会話を交わすきっかけとなった代物。あれを利駆は、殊更大切にしていたはずだ、と。
「だ~よねぇ~」
返事をしながらも、レンハはどこか心ここにあらずだった。ついカッとなってむしり取ってしまったが、彼女はこの首飾りを大層大事にしていたようだった。取り上げた時に取り返そうとしてきた、必死な顔。それが、脳裏に焼き付いて離れなかったのだ。自分でも、ちょっとやり過ぎたかも、なんて、反省していないこともないのだった。
「うんっ、決ーめたっと♪」
言うなり、レンハは姿を消した。オルハは訳がわからない……と思いつつ、レンハの注意が自分たちから反れているならそれでいいか、と思い直し、無関心を決め込むのだった。
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