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利駆の血を飲んだオルハに、アレルギー反応は起こらなかった。症状も収まったが、念のため偶見に連絡を取って迎えに来てもらうと、
「全く、年寄りを足に使うんじゃないよ」
と文句を言いつつも、すぐに車を回してくれた。狭山の家に着き、偶見に事情を説明すると、まずは利駆の血液検査をしてみようということになった。今、利駆はいつぞやと同じように、偶見の入れてくれたコーヒーを飲みながら検査結果を待っているところだ。以前と違うのは、此度はオルハが利駆の隣の椅子に座って一緒に待ってくれているという点だった。
「う~ん」
偶見が頭を掻きながら、シャッと間仕切りのカーテンを開いてこちら側へ移動してくる。手にしたボードに挟んである検査結果と思しき紙を、不可解そうに見つめている。
「どっ、どうでしたか?」
ギッと椅子を下げて立ち上がると、利駆は待ちきれないようにそう尋ねる。だが返ってきた偶見の言葉は、利駆の予想とは違うものだった。
「お嬢ちゃんはO型のRHプラスだ。まず間違いない」
「えっ」
これには、座ったままのオルハも眉をひそめた。利駆と違って声こそ上げなかったものの、内心の驚きを隠し通せていない。偶見はボードを掴んでいるのとは反対側の手を顎に置き、再び「う~ん」と唸り出す。
「O型の血もこれまでの検査ではアレルギー反応が出ているんだよ。なのに今回はそうじゃなかった。そうだね?」
「あぁ。この通り、ピンピンしてらぁ」
オルハが肩を竦める。しかし、偶見は追究の手を緩めない。
「飲んだのは間違いないのかい?」
「そこの大穴見ただろ?」
オルハに指を差され、立ち尽くしていた利駆は咄嗟に噛み痕があるほうの腕を擦る。偶見には採血してもらう際にこちらの腕を出しているので、彼女も確認済みであるはずだ。
「う~んんんんん」
三度唸り出した偶見は、暫くそのままの姿勢を続けるも、やがてパッと降参の手を上げると、「やめたやめた」と言い出した。
「今日はこのまま考えてても答えは出ないよ。もう良い時間だ、嬢ちゃんは帰りな」
見ると、窓の外は既に真っ暗だった。夕飯の時間には間に合うが、段々と日の入りが早くなってくる季節。流石に蝶野の家の人たちも、部活に入っておらず、アルバイトの出勤日でもない利駆がこんなに暗くなるまで帰ってこないとなると、多少は心配するかもしれない。
てっきり今日の内に結論が出るものだと期待していた利駆は、がっかりした気持ちを隠せないでいたが、これまで偶見が研究し続けても解明できていない謎なのだ、時間がかかって当然なのかもしれないと思い直す。
「わかりました、今日はこれで失礼致します。遅い時間にすみませんでした」
「こっちこそ、バカが世話になって申し訳ないね。そらアンタ、元気になったんなら送ってきな」
言われなくとも、と言わんばかりに、オルハは率先して玄関に向かう。春先に利駆を保健室に置いて出て行ってしまった時とは大違いだった。とても同じ人とは思えないオルハのその態度の変化に、利駆はクスリと笑いをこぼした。
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