2
オルハに凄まれ、教室に逃げ帰っていた茜のファンたちは、午前中の授業までは登校していなかった茜の姿を目に留めて、黄色い歓声を上げながら近づいて行った。
「やだぁ~アカネ、久しぶりぃ。今度のドラマ、メインに大抜擢だって? 絶対毎週チェックするから!」
「おぅ、サンキュ。ところで利駆見なかったか? 教室にいねぇみたいなんだけど」
興奮冷めやらぬ様子の女生徒たちに反し、茜の反応はごく淡泊。風船ガムをぷくぷく膨らませながら、つまらなそうに椅子をギコギコ斜めに傾がせて漕いでいる。それだけならいつもの茜の態度なので、ファンの女子たちも気にも留めなかったのだろうが、彼の利駆を気にする発言は、先ほど利駆たちと一悶着あったばかりの彼女らの癇に障った。
「ねぇ……アカネと権田さんってどういう関係?」
「んぁ? どうも何も、あいつは昔から俺んちの居候なんだよ。それがどうかしたか?」
茜はなんてことないように答える。利駆との関係について女子に聞かれるのは何もこれが初めてのことではない。その質問に対して、茜が口にするのはいつもの答え。【居候】。それ以外の何物でもない。彼自身は気付いてはいなかったのだが、その響きは、どこか自分に言い聞かせているようにもとれるようなものだった。
「なーんか最近、権田さんよく狭山と一緒にいるんだよね。今も多分狭山探しに行ってると思うよー。ここんとこ昼休みになると決まって教室いないもん」
質問したのとは別の女子が、さも「詳しいことは知りません」と言った顔で口にする。つい今しがたそのオルハと喋っていました、なんて事実は、おくびにも出さなかった。
「ねぇちょっとヤバくない? 狭山って入学早々、上級生血祭りにしたとか、色々危ない噂あるよね? 権田さんとも、関わんないようにしたほうが良いのかも」
「ゲェー、何それ! アカネも気を付けたほうがいいよー!」
「ふーん……」
女生徒たちの言うことに、思うことがない訳でもない茜であったが、その場はなんとなく濁すことにし、曖昧な返事で誤魔化すに留めたのだった。もうすぐ授業が始まる時刻。茜の目線の先にある利駆の席は、まだ空っぽなままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます