■本編3 ENURUKINIA

<プロローグ>

p-1 最古の記憶

 思い出せる最古の記憶は今から十七年前、毎日綺麗な服を着て元気に遊ぶ三歳児の私、カーナ。

 カーナには同じ年頃の友達が一人いた。

 自分の部屋で遊んでいると、お母さんに連れられていつもその子が遊びに来た。確か名前はノーブルだったと思う。パーティーの時にいろんな大人を見たけど、子供は私とノーブルしかいなかった。何の疑問もなかった。

 歩けるようになってすぐの頃、私は初めて庭で遊んだ。草や花がいっぱいあって噴水もあった。もちろんノーブルもお母さんと一緒にそこにいた。お母さんたちも仲が良くて楽しそうだった。

 私が花を見ていた時、ノーブルにあっちに行こうと言われた。そこは庭の外れにある森の中で、他の場所とは何となく空気が違っていた。薄気味悪いところがあって、その周りには柵があった。好奇心で近づいてみたら、柵の中に置かれていた一枚の板が浮かび上がった。暗い穴が見えた。

「なに……? のーくん……こわいよ……」

「めのさっかくだよ……だいじょーぶ……」

 見なかったことにして戻ろうとしたけど、どうしても出来なかった。身体が穴の方に引っ張られている感じだった。逃げようと思えば思うほど穴の方へ引っ張られた。身体が宙に浮いて柵を飛び越えた。もうダメだと思った。どれだけ叫んでも、誰も助けに来てくれなかった。穴の中に吸い込まれて、私は意識を失った。


 気がついた時、私は若咲叶依、ギターをしながら寮で一人暮らしをしている高校生だった。学費は何故か寮母さんが納めてくれていた。どうしてなのか聞いたら、海外にいる私の両親に頼まれたからだと言われた。大人になってから返してくれれば良いと言われたからそれ以上聞かなかったけど、私は両親の顔を思い浮かべることが出来なかった。

 高校二年になった時、若崎伸尋という友達が出来た。バスケが好きで頭が良くて、おまけに格好良かった。似ているところがたくさんあって、周りから兄妹とか双子とか言われた。でも伸尋はおじいちゃん・おばあちゃんと一緒に暮らしているからそれは絶対違うと思った。

 私がギタリストとしてデビューしたのはその年の七月。学校中で有名になって、玄関にポスターが貼ってあった。そんなある日、伸尋が私を好きらしいと友達から聞いた。格好良いのは認めていたけど、私は伸尋が好きとは思っていなかった。

 夏休みに北海道へ行ったら、葉緒海輝という五歳年上の彼氏が出来た。同じ事務所からデビューしているギターデュオの一人で、超有名人だった。でも海輝とは長続きしなかった。伸尋をおいて海輝と付き合うことを、私自身が許さなかった。


 海輝と別れて数ヵ月後、私は姿のない人の声を聞くようになった。全然意味がわからなかった。時が経つに連れて聞こえる回数が増えていった。仕事を増やして忘れようとしたけど、疲れが溜まるだけだった。

 それがエスカレートして他人の記憶を観るようになったのは高三の夏。記憶を観るだけなら良かったけど、その間の自分の記憶が残らなかった。絶対おかしいと思っているうちに、私は自分が地球人じゃなくてステラ・ルークスの王女で、本当はカーナという名前だと知った。伸尋が王子でノーブルという名前だったこともわかった。十八歳の誕生日に王位を継がないといけないことも知った。でも伸尋は王家じゃなかったから、私みたいな変なことは何も起こらなかった。私がおかしくなったのは王妃になるための準備だった。

 生きる意味がわからなくなって、私は自殺しようとした。学校の屋上から飛び降りて、グラウンドの上で血を流した。でも結局死ねなかった。地球で住み続けるか惑星に戻るか考えながら、何ヵ月も病院で過ごした。

 退院してからしばらく学校には行かなかった。誰にも会いたくなかった。でもどうして良いのかわからなくて、やっぱり私は学校に戻った。大学受験が近づいていたけど、私と伸尋には関係なかった。私はギターで生活するつもりだったし、伸尋も秋頃からプロのバスケ選手になっていた。

 地球に残る方法は無いのか考えながら迎えた大晦日、部屋に伸尋が来た。王になればいつでも地球に来れるようにするから惑星に戻ろうと言われた。友達と分かれるのは寂しいけど、私は惑星に戻ることにした。


 惑星に戻って、私と伸尋は王・王妃になった。惑星のことは何も知らなかったから、前王・王妃からいろんなことを教えてもらった。でも数日後、もう地球に戻って良いと言われた。私が自殺してからいろいろ考えたってお母さんが言った。大事な用事がある時だけ惑星に戻ることを約束して、私と伸尋は地球に戻った。高校を卒業して寮を追い出された私は伸尋の家で住むことになった。毎日が楽しかった。

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