3-10 最後の試合

 PASTUREが学祭ライブをしていたのと同じ日、伸尋は久々にバスケの試合に行っていた。

 今回のJBLの試合は、伸尋にとって人生の節目となる試合だった。

「先輩なら大丈夫ですよ。彼女もちょうど近畿に来てるし。頑張ってください」

 史の弟の直に励まされ、伸尋はコートに立っていた。

 伸尋はこの試合の結果がどうであれ、バスケットボールの世界から抜けると決めていた。

 それをJBL会長に言った時、もちろんかなりの時間説教された。去年は母校でバスケを教えるから試合には出れないということで認めてもらったけれど、やっと試合に出てくれると思えばもうやめると聞いて激怒した。

 けれど伸尋はバスケをやめると言ってきかず、会長は伸尋をなんとかJBLに残そうと必死だった。

 もうあと一年でも良いからとにかくやめないでくれと、何度も言われた。

「でも俺は───確かにバスケは好きやけどそれだけじゃあかんから……他の場所で働きます」

「就職すんのか?」

「いえ……働きたいところがあって……言いに行ったら見習いで入れてくれたんで」

「どこに行こうとしてるのかわからんが……どこ行っても思うように稼げんぞ。バスケしてるほうがよっぽど儲かる」

「確かに金は儲かるけど、金より───」

「金より大事な物があんのか」

「───はい」

 それ以上何か言われることはないまま、数週間が過ぎた。

 会長から『バスケを辞めてもいい』と連絡が来たのは試合の前日のことだった。

 伸尋はバスケが好きだったけれど、JBLに誘った時は嬉しそうではなかった。あまりに会長がしつこかったので伸尋は渋々承諾したのだ。

 JBLを抜けることに伸尋は何の未練もなかった。

 最初で最後の試合だから勝ちたいと言う気持ちは伸尋にはあった。けれど、ほとんど身体を動かしていなかったので、動作はかなり鈍っていた。

 高校時代を思い出してボールを追いかけたけれど、そんな若さもなかった。

 結局最後まで伸尋の感覚が戻ることはなく、伸尋側のチームは敗退した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます