<第3章>

3-1 料理教室

「だから大さじ一ってのはスプーン山盛りじゃなくて……」

「何よもーっ! 砂糖大さじ一って書いてあるやん!」

「書いてあるけど……一ってのはこの……すれすれのところまで」

 珠里亜が持っていたスプーン山盛りの砂糖の余分を、冬樹は落として見せた。

「料理ってなんでこんな難しいんよーっ!」

 珠里亜が冬樹と暮らし始めて一週間が経った頃、冬樹は珠里亜に料理を教えるようになった。

 数日前に珠里亜に作ってもらった料理が、あまりにひどかった。これじゃダメだと思った冬樹は、自分の得意分野で且つ使用頻度の高そうな和食から始めた。

「和食……何が良い?」

 冬樹が聞いた時、珠里亜は肉じゃがと答えた。

「肉じゃがで良いの? あれ結構難しいよ?」

 それでも良いと言う珠里亜の希望通り、肉じゃがを作った。味付け───の前に、包丁の持ち方が怖かった。何度も注意して、冬樹が代わりに切ることもあった。

 人参は固くて切れないだとか、タマネギは目がしみるとか、肉と糸こんはヌルヌルしていて気持ち悪いとか、珠里亜はあらゆる文句を冬樹にぶつけた。珠里亜に料理を教えるのは苦労するだろう、とは叶依から聞いていたけれど、想像以上だった。

「やっと出来たぁ!」

 それらしいものが出来た時、珠里亜は大喜びしていたけれど。和食にこだわる冬樹にとって、それはとても肉じゃがとは言えなかった。肉じゃがに入れられる具を、ぐちゃぐちゃに煮込んだだけに見えた。

 それから珠里亜への料理指導は毎日続けられた。

 包丁の正しい使い方、火加減、調味料の入れる順番など、冬樹は徹底的に教え込んだ。

 あまりに冬樹が厳しくて、珠里亜が逃げ出した時もあった。けれど、上京したばかりの珠里亜は頼るあてもなく、海帆や叶依を尋ねるにしても、どこにいるのかわからない。数時間ぶらぶらして結局冬樹の家に戻り、気を取り直してはじめからやり直した。

「明日、僕仕事だけど七時くらいには帰ってくるからさ、カレー作って待っててくれる? 前やったでしょ?」

 数日前に習ったばかりのカレーは意外と簡単だったけれど、一人で料理をしたことがない珠里亜にとっては、高すぎる壁だった。

 タマネギが目にしみて、肉がヌルヌルで気持ち悪くて、泣き出しそうにもなった。

 けれど冬樹が帰った時にカレーが出来ていないと、何が起こるかわからない。出来ていなくても冬樹が怒ることはないと思うけれど。それでも冬樹に上達を認めてもらいたくて、珠里亜は一生懸命カレーを作った。

「うん……出来てるよ」

 冬樹がそう言った時、珠里亜は飛び上がって喜んだ。

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