i-5 越えられない壁

「あれ? 叶依は?」

 史たち三人が戻ったとき、そこに叶依はいなかった。

「……さっき戻った」

「えー何よもー、せっかく買ってきたのに!」

 珠里亜は何故か怒っていた。

「何かあったんか?」

 買ってきたものを伸尋に渡しながら史が聞いた。

「いや……なんか……あいつから戻るって言い出したし……」

「そうなんや……これどうしようかな……伸尋持って行く?」

 伸尋は首を横に振った。

「しばらく会わん方が良い」

「なんで? やっぱ何かあったんか?」

「───こないだおじいちゃんに『叶依が兄貴のとこ行くのは俺がしっかりしてないからや』って言われて……その話したら叶依にもその通りやって言われて……俺は頼りにならんねんて」

「確かにおまえ、しっかりしてないよな」

 伸尋は何も言えなかった。

「叶依があいつのところ行くのも当然か」

 みんなに同じことを言われ、伸尋は正直、凹んでいた。

 けれど、泣いてはいなかった。

「でもあいつは……何があっても……戻って来る」

「何を根拠にそんな───」

「あいつ戻る時……笑って……泣いてたから」

 叶依が伸尋に手を振って去って行く時、目に涙が溜まっているのが見えた。

 どうして伸尋はこんなに頼りないのか、その涙だろう。これから何があっても叶依は必ず、伸尋のもとに戻って来る。

「でも伸尋が強くならん限り叶依は戻らんのやろ?」

 叶依がいま必要としているものは何なのか。

 ただ強くなって欲しいと思っているだけではないはずだ。

 その答えを見つけた時、伸尋は前にもぶつかった事のある壁に直面した。前はどうしても越えることが出来なかったけれど、今度は出来るだろうか。

「あのさぁ……これ今から叶依に持って行ってくるわ」

 ワゴン車で買ってきたものを指して珠里亜が言った。

「ついでに冬樹っちゃんと話してきても良い?」

「ああ。良いよ。ここで待ってるわ」

「じゃ、ちょっと……行って来る」

 珠里亜が叶依のいる時計台へ向かう一方で、残った三人は伸尋がちょっとでも変われるようにいろんな案を考えていた。

 さまざまな案が出されたけれど、伸尋が自分の見つけた答えを言うことはなかった。

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