2-6 ルービックキューブ

「さっ、今週も始まりました『バカバカボン』、OCEAN TREEのリーダー葉緒海輝と」

「いつからリーダーになったんだよ? 恒海冬樹です。リーダー、あ、リーダー海輝君だっけ?」

「そうですよ。しっかりしてくださーい。はい、えー……今日から七月ということで、もうすぐ始まる夏休みを楽しみにしている方───って、なにそこ一人でルービックキューブ回してんのっ。ちゃんとしてくださいよ

 海輝は元気よく喋り出したけれど、目の前で冬樹が遊んでいるのを見て原稿を読むのをやめた。

「ふ、冬樹っちゃんって言うな冬樹っちゃんって。今度言ったらこっちもって呼ぶよ」

「いいよ別に。ってそこ、なんで今アイス食べてるの!」

「え? だってさっき買ってきて……放っといたら溶けるし」

 自販機で買ったカップのアイスクリームを食べているのは叶依だった。

 けれどまだ、ラジオの向こうには叶依がいるということは伝わっていない。新聞のラジオ欄や各ホームページでも、叶依が出るということは公表されていない。

 もちろんゲストがPASTUREであることも誰も知らない。

「それ何味?」

 冬樹が聞いた。

「オレンジ」

「食べるなら食べてていいけどさぁ。もう……はい、どこまで言ったっけ?」

「まだほとんど言ってないんじゃない?」

「ほんとにもう……今日から七月になって、もうすぐ夏休みで楽しみだという人も多いかと思うんですが、今日はね、お客さんがいるんですよ」

「いるね。ずっとアイス食べてるけど」

 そう二人が言っている横で叶依は黙々とアイスを食べていた。

 どうやらラジオに参加する気はないようだ。

「お客さーん」

「なに?」

「ちょっと、食べるのやめて話そうよ」

「え……いやっ……アイス落ちた……」

 叶依は椅子から立ち上がって、転がっていくアイスを探した。カップのアイスはコロコロ転がり、冬樹の足元を通ってグルグル回ってきてから壁に当たって止まった。

「声でわかるんじゃない?」

 冬樹が笑いながら言う。

「イヤー! もうなんでこんな……溶けたの……」

 アイスはほとんど空になっていたけれど、溶けて残っていたものがカップからこぼれた。床にはオレンジ色の線がついていた。

「わかるかな? まぁ、お客さんは……叶依なんですけどね……」

「大丈夫? ティッシュある?」

「多分いける……手ベトベトや……あ、すいません……」

 ドアを開けて入ってきた夏子が叶依にウェットティッシュを渡した。

「───はい。叶依でーす」

 落としたアイスを拾ってゴミ箱に捨ててから、叶依は席に戻った。

「もう大丈夫ですか?」

「はい」

「久しぶりだね。ラジオに出るの」

「うん。ずっと休みとってたから」

「もう復活するんでしょ?」

 隣でルービックキューブを回しながら冬樹が聞いた。

「うーん。多分。そのうち」

「今日ね、なんで叶依が来てるのかって、別に深い意味はなくて。昨日だっけ? 久々に会って話してたら今日は暇だって言うから、それじゃ久々に遊ぼうかってなって」

「はーい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます