e-2 新年会

 大広間は廊下の突き当たりに位置していた。

 扉が無く柱だけの空間に料理が並べられ、王宮中の人々が集まっていた。

「お帰りなさいませ」

 大広間の入り口には女性の使用人が一人立っていた。

「王子ノーブル様、及び王女カーナ様でいらっしゃいますね?」

「えっ───あ、は、はい……」

(そういえばこんな名前やったっけ……)

「中で王様がお待ちです。新年会中ですがどうぞお入りください。入ってすぐ左側のテーブルに王様はいらっしゃいます」

「あの───この格好で良いんですか?」

 伸尋が使用人に聞いた。

 王宮内の人々は皆正装だったが、自分たちはジーパンとセーターだ。

「そうですね───失礼します」

 と言って、使用人は手の中にステッキを現し、それを二人に向けてサッと振った。

 瞬間、叶依と伸尋の服装は正装になっていた。

「先ほど着られていたものは部屋に置かせていただきました。詳しいことはあとでお聞きください。どうぞ中へ」

 急に魔法の世界になって、叶依と伸尋は当然、戸惑った。

 自分たちにもこんな力があるのだろうか。

 多くの不安を抱えながら、二人は両親の元へ向かった。


「私は夢とかで見たことあるけど、伸尋って小さい頃から親に会ってないんやろ?」

「うん……でもなんか、ここ来た時に親の顔がわかるようになったみたいでな……多分わかる」

 大広間に入って左側には一番豪華なテーブルがあった。

 そこは王家に近い人々が座る席だということは容易に判断できた。

「あ───おか……あ、さん……」

 叶依は母親の姿を見つけた。

「え? どの人……?」

「あれ、一番豪華な───王様かな? お父さん……? の、隣で薄いブルーのドレス着てる人」

 二人がそんな話をしていた時、叶依の母親───王妃アルラは我が子の存在に気付いて周りの人々に知らせた。

 アルラと王のラック、それから騎士コールとその妻パフェットは、立ち上がって二人の前まで歩いてきた。

「よく戻ってきてくれました。カーナに───いえ、叶依・伸尋と呼んだほうがいいのかしらね」

 アルラは叶依に微笑んだけれど、叶依は母親から目を逸らした。

「そりゃそうよね……自分の不注意で落としちゃって……そっちの生活になれた頃に戻れだなんて……でも、私たちのあと継いでくれるって決めたから、戻ってきてくれたのよね?」

 叶依は小さく頷いた。

「伸尋。あなたにもいろいろ迷惑かけました。ごめんなさいね」

「いえ……」

「さぁさぁ、ややこしい話は後にしよう。今は新年の幕開けを祝う時だ。二人とも席について、アルラ、この子たちを席に案内して。コール、それからパフェットも、席に戻ろう」

 叶依の父親───ステラ・ルークスの王・ラックは皆を席に呼び戻した。

 叶依と伸尋は目の前にある料理を食べるように勧められたけれど、見たことのないものばかりで何を食べていいのかわからなかった。

 新年会は王の挨拶で締めくくられた。途中、今年は王の代替わりの年であり、自分たちの後には伸尋と叶依がつき、その二人は今まで地球に住んでいたことなども伝えられた。

 新年会に参加していた人々は皆、次期王・王妃が地球育ちだということを喜んでいたけれど、それとは反対に当人たちの心境はかなり複雑だった。

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