4-6 キオクの裏側 -伸尋1-

「叶依、叶依、叶依ー!」

「……んぅぅ……ん?」

「やっと起きたぁ。美瑛着いたで。早く行こー」

 叶依の目の前に立っているのは、史ではなく珠里亜だった。

「え……私……美瑛?」

 修学旅行は二日目。朝、バスに乗ったことはなんとなく覚えているけれど、記憶がはっきりしない。札幌で自由行動をしたことも、全く覚えていない。海帆によると、叶依はずっと、ぼーっとしていたらしい。

(あれ? 今の……何やったんやろ? 海輝と冬樹……の、記憶? でも、なんで? これも……あれなんかな……)

 空港でバスに乗った時から叶依が見ていたのは、自分が知っていることの裏側だった。

(こんなん見せられたら、海輝に会われへん……というか───自分が嫌───)

「伸尋は? 伸尋どこ? 伸尋……」

 叶依は急に立ち上がって、伸尋を探した。

「伸尋なら、史とかと先に行って」

 海帆が言うのを聞いた瞬間、通路に立っていた珠里亜と海帆を押しのけて、叶依は荷物を持たずに外へ飛び出した。

「ちょっと叶依!」

 珠里亜と海帆も叶依の荷物を持って、叶依を追ってバスから降りた。けれど、近くにいた史に、足を止められた。

「行くな。そっとしとこ」

 海帆と珠里亜が見た叶依は、伸尋と手を繋いで楽しそうにしていた。


   ☆


「俺はいいからさ。ホントに。叶依とは───ちゃんとしてきたから」

 叶依と別れたことを告げるべく、海輝は伸尋の部屋で文化祭の日の夕方の出来事を話していた。

「でも叶依は俺なんかより……俺と叶依は目指してる方向全然違うし……同じ方向目指してる者同士の方が良いんじゃないん?」

 海輝が叶依と別れたことは伸尋には吉報だったけれど、なぜか素直に受け入れられなかった。自分が優位になったのが嬉しかった反面、叶依から自由を奪ってしまったような気がしていた。

 叶依は自分のものになると、勝手に決めつけていた。

 しかし、海輝はそのことを否定した。

 叶依の自由を奪ったのはこの俺だ、と。

「覚えてない? 叶依の『フィールド』のサブタイトル。あれ伸尋でしょ? あの曲が出来たのは七月。北海道に行く前だよ。伸尋のバスケしてる姿とか見て思いついた曲だと思うよ、俺は。伸尋が好きで、あの曲作って、これからだってときに俺が余計なことしたんだ」

 伸尋は『フィールド』の歌詞を思い出していた。

 コンサートの時に聞いたものとは違って、ボールやコートなどの言葉はどこにもなかったけれど。

(これ……俺のことか?)

 海輝が帰ったあと、伸尋は叶依のCDを片っ端から聴きあさった。タイトルや歌詞にそのまま表現されているものはないけれど、よく聴けばどの曲も、伸尋宛に書かれたものだった。

 もっと早く気付くべきだった。

 今日こそは叶依と話をしよう、と意気込んで登校した翌日、あいにく叶依は、大学の学園祭出演のため欠席になっていた。次の日も、また次の日も、伸尋が叶依を見かけたのは朝の一瞬だけで、話をしようと思ったときにはもう、仕事に向かってしまっていた。

「電話したら? そのほうが早いやん」

 史はそう提案したけれど、伸尋は直接、会って話がしたかった。

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