2-11 スペシャルゲスト

「あかん。俺、今日クラブするつもりでこれ持ってきたけど、やるわ」

 伸尋は持っていたコンビニの袋を叶依の机に置いた。

「……伸尋は? クラブ」

「田礼が、今度のことで話あるから放課後に職員室に来いって。いつ終わるかわからんから、クラブ行くのやめる。叶依にも伝えとけ、って言ってたわ」

「今度って───もう会ったん?」

「うん。いつ帰れるかわからんから食べろよ。───なに?」

 伸尋が叶依に話す間、叶依はじっと伸尋を見つめていた。顔───ではないけれど。

「ご飯粒付いてんで」

「え? どこ?」

 伸尋はあちこち探したけれど、どこにも見当たらない。

 それでも探し続ける伸尋を見て、叶依は立ちあがった。そして構わず、伸尋の首元に手を伸ばし───。

「ネクタイに付いてんねん。このまま外出たら恥ずかしいで」

 笑いながら自分のほうへ引いた叶依の手には、ご飯粒が一つ付いていた。

「あ───ありがとう……じゃ、食べろよ」

 照れながら自分の席に戻る伸尋を見送って叶依は着席し、指に付いたご飯粒を眺めてからそれをコンビニの袋にくっつけた。

「叶依っていろいろ場慣れしてんでなぁ」

「そう? まぁ……そやな……」

「文化祭の時も普通に標準語喋ってたし」

「司会のほうがすごかったんちゃう? あの人、苦手やわ……」

「あっ!」

 突然、叫び声をあげたのは時織だった。

「なぁ叶依、あのー、オルゴールの話って何なん? めっちゃ気になっててんけど。洋さんとか。どこ行ったん?」

「それは───ラジオ聴いたらわかるって。多分言うと思うし。で、洋さんなぁ、実はどこも行ってないねん。もし今度会ったらどっか行こうってこと、って海輝が言ってた」

「ふーん。じゃ、スペシャルゲストって誰なん?」

「……さっき来た人」

「え? 伸尋?」

 海帆は焦っていた。

「ちょっと待って、それって、危なくない?」

「なんで?」

「だって、叶依さぁ、海輝と……え? ……伸尋……今……どうなってんの?」

 海帆は混乱しまくっている。

 叶依以外の四人の中で、海輝とのことを知っているのは海帆だけだ。

「うちも、さっき伸尋来たときめっちゃびっくりしてん。昨日までほとんど顔も合わてなかったし。だからそれを……? ま、ラジオ聴いてくれたらはっきりするんちゃう?」

 伸尋は何の話なのかはっきり言わなかったけれど、ラジオ関係に違いない。叶依の前に現れたのも、海輝と話がついたからだと叶依はほぼ確信していた。

「何かあったん? 叶依最近なんか変やで」

 珠里亜が聞くのには適当に「ラジオ聴いて」とだけ答え、叶依はコンビニの袋を開けた。

 伸尋はクラブの前に食べる予定だったのか、叶依には少し重めのチョイスだったけれど。ありがたく頂いて、お礼をしようと決めた。それから昼休みの間に彼から届いたLINEに、ひとりで頬を緩めた。

 ───兄貴が、明日の朝、新幹線で東京来いって。チケットは学校に送ったらしくて田礼が持ってる。あと、俺も、話あるから……。じゃ、放課後、職員室前で───


 放課後、二人は友人がクラブへ行くのを見送ってから、別々に職員室へ向かった。到着したのはほぼ同時で、田礼も既に自分の席にいた。ラジオ収録による欠席の期間の確認と抜けた授業をどうするかなどを相談し、その後、二人でピロティで話をしてから伸尋は帰宅した。

 話がいつ終わるかわからない、と伸尋は言っていたけれど。

(田礼の話は短かったから……伸尋がクラブ行く気になってないだけ?)

 伸尋が帰宅した一方、叶依は重大発表をするためにクラブへと向かった。まだ誰にも言っていないことを言いたくて向かった先が、なぜか音楽室だった。

 今ここで話していいのかはわからない。

 けれど、言って害になることでもない。

 どうせあの時には───。

 叶依からの重大発表を聞いて、クラブのメンバーはもちろん驚いた。けれどその場にいた全員が誰にも言わないと約束し、すぐに練習に戻っていた。

 別の何かが動き出そうとしていた。

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