2-9 一枚の写真

 文化祭終了後、叶依は友人たちと過ごす予定にしていたけれど。

 急きょ変更して、海輝と冬樹を部屋に入れることになった。友人たちには悪いけれど、大事な話があるに違いない。もちろん二人には、他の生徒に見つからないようにしてもらった。

「冬樹さぁ、釣り行ってないやろ?」

「どうして?」

「だって、洋さん北海道やし、天気予報では今日は全国的に晴れになってたし」

「御名答。いや、今日は、こいつがさ」

 冬樹が笑うと、隣に座る海輝も笑った。

「こいつが叶依をビックリさせに行くっていうから、それなら俺も行こうかと思って。来てみたら文化祭やってるし、出てみても良いか、ってなって」

 二人別々に出てきたことは、特に意味はないらしい。

 なんでだろうねぇ、と笑いながら、海輝は「ラジオの話があって来たんだけど」と続けた。

 ラジオという言葉にハッとして、叶依は顔を上げた。

「スペシャルゲストって誰?」

「それそれ。その、ゲストは、どういう人なのかなーって調べてるうちに、大変なことがわかってきて」

「大変なこと? 呼んだらあかんの?」

「そうじゃなくて……その人の名前聞いて、何か、何処かで聞いたことがあると思って……調べてみたら、叶依の同級生で……」

 言いながら、海輝は鞄の中から一枚の写真を出して叶依に渡した。

「これ───なんで……?」

 写真に写っていたのは、校長から表彰されている伸尋の姿だった。さっきまで叶依が立っていた舞台で、部員たちと嬉しそうにしていた。

「その子、来年からプロ入りが決まったらしいよ」

 冬樹が言った。

「プロ?」

 その言葉を聞いて、叶依は始業式の日の出来事を思い出した。北海道での出来事を史に話したあと、伸尋が現れて、誘われている話を聞いた。

 けれど叶依はあの日から、伸尋とは全く話さなくなった。伸尋は史から話を聞いたあと、何も言わずに帰って行ってしまった。

 叶依はもちろん、他の友人たちとは話していたけれど、伸尋の話は全く出なかった。だから彼がどうしているのかも、試合があったことも知らなかった。

(あの頃、学校休んでたからなぁ……)

 その間に伸尋は叶依に何も知らせずに───。

 叶依のときと同じだ。

 あの時も、叶依は伸尋に何も知らせなかった。

 連絡しようと思えば、いくらでも出来たのに。

「その子の名前で叶依の曲を思い出してさ、もう一回聴いたんだ。それで───最近叶依が元気ない理由がわかったよ」

 海輝と二人で話をしていても、どこか叶依は上の空だった。

 楽しいけれど、何かが足りないような気がしていた。

「それで……さっきの話わかってたん……」

 叶依が考えていることを、海輝もわかっていた。

 もちろん嫌いになってはいないし、好きなのは変わらない。それでも二人が付き合うには、問題が多すぎる。叶依にとって海輝は兄で、家族の一員だ。

「でもさぁ、また北海道行っていい? 兄妹やし」

「もちろん」

「あ、あれやってよ。seal」

 約一ヶ月の思い出が再発することのないように、叶依はそれを心の奥に小さく畳んで封印した。

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