セーラー服



 儀式当日。

 風習では、長老爺さんとその息子である村長、そして何人かの大人達と僕等家族、そしてお姉ちゃんが列をなして山へ入り、その途中まで行って儀式をしてから、お姉ちゃん一人でその先にある雪妖精様の祭られた祠まで行く。

 その後はどうなるかわからない。今まで嫁入りした女子達は誰一人帰ってきてないからだ。

 白無垢に身を包んだお姉ちゃんは、腹立たしい位に今まで見たどのお姉ちゃんより綺麗だった。

 その姿に父さんが俯き、母さんが涙を少しだけ零した。

 僕は右のポケットにお姉ちゃんから言われた通り、桜の花弁の栞を入れてから列に加わった。

 遠く、遠く、どこまでも白い山肌。

 いつもなら動物の鳴き声が聞こえる山なのに、今日はずっと静寂が続いていた。

 僕等の歩く足音ですら雪が音を飲み込む様に響かず、何も聞こえない空間ばかり。

 先日から降り続いている雪は、今もまだ降り続き地面を白く染めていく。

 まるでお姉ちゃんの様に。


「…此処か」

「ああ。此処からは、嫁一人だけの聖域じゃ」


 先頭を歩いていた長老爺さんが立ち止まり、振り返ってお姉ちゃんを見る。

 そのまま列を割って真ん中にお姉ちゃんだけを残してから、長老爺さんはその曲がった腰をすっと伸ばして懐の赤い口紅をお姉ちゃんにゆっくりと、壊れ物を扱う様に優しく塗ってから横にはけていく。


「さあ、雪妖精様に選ばれたその宿命を誇りに思い、行きなさい」

「…はい、有難う御座います、長老爺様」

「……ああ。」


 お姉ちゃんが一歩踏み出して、思い出したかの様に僕を振り返った。

 僕は目から溢れ出しそうな涙を必死に零さない様耐えながらお姉ちゃんまで駆け寄ると、ポケットに入れていた桜の花弁の栞をお姉ちゃんに差し出す。

 お姉ちゃんは小さく僕に「有難う」と笑いかけてからそれを受け取ると、自分の行く道を振り返り見上げてから、ゆっくりと山道を登って行った。


「おねえちゃん!」


 その声にお姉ちゃんは立ち止まらない。

 雪に吸い込まれるように僕の声は山に響いて、すぐに消えた。






 その後の事はよく覚えていない。

 気付けば僕は下山していて、泣きながらお姉ちゃんの部屋のベッドに座り込んでいた。

 もう辺りは真っ暗になっていて、きっと夕飯の為に誰かが呼びに来たのかもしれなかったがそれすら僕には覚えがなかった。

 僕にとってお姉ちゃんが居なくなった衝撃は余りにも強くて、まるで僕の中の大切なものがすっぽりと抜け落ちてしまったかの様な気分だった。

 時間は何時になってしまったかわからない。

 泣きじゃくりすぎて熱くなった目元を擦ろうと無意識に手を目前に近付けて、あれ?と手を止めた。

 何故か僕の指先が白くなっているのだ。

 何度か服の袖でそれを擦っても落ちず、おかしいと感じた時に思い出したお姉ちゃんの奇病。

 まさか、僕もあの奇病にかかっているとしたら。

 はっと視線を上げた先に、お姉ちゃんの部屋の壁が見えた。

 そこに掛かるお姉ちゃんが着続けていたセーラー服。

 僕は迷いもせず、そのセーラー服に手をかけていた。




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