第64話 レズ風俗に行ったらクラスメイトのうるさい委員長が出てきた話

 今の時代は本当にすごいものでレズ風俗レポ漫画なるものが簡単に読める。

 ネットで読めるどころか本屋にも漫画が並んでいる。


 レズ風俗の存在自体に驚きであるが、そこに行った体験をそのまま漫画にしてくれるのだから漫画家さんたちの勇気には頭が下がる。それからレズ風俗アンソロジーなんてのもあり、これはリアルな体験からは外れてしまうけど、可愛い女の子やら特殊なプレイやら(もちろん共感できる悩みやらも)が目白押しなので純粋に興奮できる。


 運命の相手と結ばれて素敵な初夜を過ごしたい……なんて初心ことは言わない。大人になったらレズ風俗に行って、きっと腰が抜けるようなエロい思いをしてやるのだ。いつも性欲があふれそうになっているのにロマンチックな夢になんて浸っていられない。


「……九条さんっ!」


 いきなり呼びつけられて、私は机に伏せていた顔を上げる。

 いつの間にか授業は終わっていて、教室の時計は午後四時を指していた。クラスメイトたちは教室から出て行くところで、自分の机でのんびりしているのは私だけだった。部活にバイトに勉強に……みなさん精が出ますね。


 私を呼んだのはクラス委員長の加々美紫音(かがみ しおん)だった。

 野暮ったい黒縁眼鏡をかけて、これまた時代遅れな三つ編みをしたザ・優等生である。スカートなんかきっちり膝が隠れる長さで、隙もなければ可愛げの欠片もない。クラスメイトの些細な違反を教師に告げ口して、内申点を稼ぐのを日課にしている本当にイヤなやつだ。


「ホームルームの間もずっと起きなかったから先生が呆れてたわ」

「それをなんで委員長が注意してくるんだよ。ほっとけよ」

「先生が見放して、私まで見放しちゃったら、誰があなたのことを更生させるのよ」

「大きなお世話だ」


 委員長はとにかく口うるさく私を注意してくる。

 髪にメッシュを入れるなとか、化粧も濃すぎるとか、ブラウスから見えている胸のタトゥーを隠せとか、ネイルが派手すぎるとか、容姿を注意されたことだけでもきりがない。どうせルールに縛られない不良たちを本当はうらやんでいるのだろう。彼女にはルールを破る度胸なんてないのだから。


「大きなお世話だろうと言わせてもらうわ」


 委員長が私の机をドンと叩いた。


「九条さん、そもそも午前の授業をサボったでしょ? 午前の授業をサボっておいて、午後の授業は居眠りだなんて何を考えてるの? こんなことばっかりしてたら留年……いいえ、退学だってありえるわ」

「家の用事で仕方なかったんだよ」

「そんなこと言って、いつもどんな用事なのか説明しないじゃない!」

「うざっ……」


 私はため息をつきながら立ち上がり、おもむろに委員長のスカートに手を突っ込む。

 流石の委員長もびっくりしたらしく、飛び退いた彼女の尻が別の机にぶつかった。

 がしゃんと大きな音がして、帰ろうとしていたクラスメイトたちが振り返る。

 委員長と言い争いになるといつもこう注目を集めてしまう。


「く、く、九条さん……な、なにを……」

「あんまりうるさいとさぁ……委員長のこと犯しちゃうよ?」

「おおお、おかっ!?」


 動転している委員長を尻目に私はさっさと教室を出る。

 教室の戸にはめられた窓ガラスには、床にへたりこんだ委員長の姿が映っていた。

 案の定ねちねち言ってくる割に気が弱いらしい。

 たとえ女の子と付き合えても、委員長みたいな女は願い下げだな……。

 私は発散しようのない苛立ちと性欲の高まりを覚えていた。


 ×


 少女九龍城には特別なレズ風俗があるらしい。

 そんな噂を聞きつけて、私――九条円香(くじょう まどか)は休日を利用して『少女九龍城のヨハネスブルグ』と呼ばれる場所を訪れていた。


 少女九龍城はまさしく名前の通り、建て増しによって巨大化した女子寮である。といっても高層ビルのように大きいわけでもなければ、遊園地のように広いわけでもない。しかし、それは外から見た建物のサイズの話であり、ひとたび不用意に足を踏み入れると住人以外は広大な迷路に惑わされて遭難確定であるとか……。

 そんな少女九龍城の中はいくつもの区画に別れており、その中でも少女九龍城のヨハネスブルグには不法入居者が多く集まっているらしい。ちゃんとした家賃を払えないものや、いくらフリーダムな少女九龍城でも許されないレベルのことをしたい少女たちばかりといるという話であるが、完全な部外者である私は噂話でしか内情を知らない。


 で、そんな噂話からレズ風俗の存在を知った。在籍しているのは未成年の少女ばかりで、そして客も同じく未成年の少女でなくてはいけないという。女子寮の中で生まれた風俗であるが故に住人適性のある人間しか利用できないのだろう……いや、その理屈もどうなの? というか、客も女の子ってちゃんと稼げてるの?


 ともあれ、私は少女九龍城のヨハネスブルグに足を踏み入れた。


 レズ風俗『箱入り娘』は少女九龍城の建物に入り、地下へと続く階段を下りていった先にあった。階段にはピンク色のライトが灯されていて、わざとらしいくらいにいかがわしい雰囲気を出している。初めてレズ風俗を利用する女の子にも入りやすい佇まいに……なんていう気遣いは存在しないらしい。

 階段を下りた先には防火扉かと思うようなドアがあって、そこを抜けると受付と待合室になっていた。受付では黒パーカーと黒マスクで顔を隠した少女がスマホを眺めながら店番をしている。待合室のソファに客の姿はない。たとえ見知らぬ人間だとしても、ソファに並んで気まずい思いをすることにならなくてホッとした。


 来客に気づいた黒ずくめの少女はやたらと低いテンションで説明を始めた。


「個室の利用料を最初に払ってもらいます。個室で女の子に会ったら、先払いでお金を払ってあげてください。金払いを渋ってトラブったりしたら一発でブラックリスト入り。こわーいお姉さんが飛んでくるのであしからず」

「わかった」


 ケツモチ……いや、単純に用心棒か?

 荒事専門の人間まで用意しているとは意外としっかりしている。


「こちらがキャスト一覧です」


 黒ずくめの少女からレストランのメニュー表みたいなものを手渡される。

 そこには目元や口元を隠した少女たち十数人の写真が掲載されていた。マスク効果という言葉もある通り、顔の一部分を隠した女性はやたらと美人に見える。写真の加工なんかも当然しているだろうし、ここは慎重に相手を――


「こ、この子! このムラサキさんって子にする!」


 あるキャストの写真を見た瞬間、私は自分でもびっくりするくらい即断即決していた。

 目元を隠しているためサラサラの黒髪くらいしか特徴がない。

 しかし、よく分からないけど妙に性欲をくすぐられた。


「お時間はいくらで?」

「ろ、六十……いや、九十分で!」

「じゃあ、私にはこれだけお願いします」


 黒ずくめの少女が右手の指を立てる。

 彼女に数枚の千円札を渡したあと、私はようやくプレイルームに通された。

 プレイルームは風呂場と寝室をくっつけたような奇妙な空間だった。ベッドの置かれている場所から、タイル貼りの風呂場が丸見えになっている。風呂場の壁にはイカダ型の浮き輪みたいなマットが立てかけられていた。それから股の間がくりぬかれたお風呂用の椅子も置かれている。まさにレポ漫画で見た通りの光景だ。


 私はガチガチになりながらベッドに腰を下ろす。

 枕元にはピンク色をした可愛らしいデザインのコンドームが置かれていた。

 ここは本当にそういうことをするためだけの場所なんだな……。

 何日も前から覚悟していたはずなのに緊張してくる。ちゃんと歯は磨いてきたし、ちゃんと爪も切ってきた。最初に体を洗うのは分かっていたけど、出かける前にしっかりシャワーも浴びてきた。何も問題はないはずだ。

 十分くらい待っていただろうか、不意に部屋のドアを誰かがノックした。


「ど、どうぞ!」


 私は反射的に返事してから、震える手で自分の顔をぴしゃりと叩いた。

 女の子とセックスするくらいなんだ! 命を取られるわけじゃない!

 ドアを押し開けて、いよいよキャストの少女が入室してきた。


「失礼します。ムラサキで――」


 がっついていると思われないようにゆっくりと振り返る。

 キャストの女の子と目が合った……その瞬間だった。


「「あっ……」」


 私たちは同時に間の抜けた声を漏らした。


「……く、九条さん?」

「……い、委員長っ!?」


 ベビードールに身を包んだ黒髪の少女。

 彼女は見紛う事なき、クラス委員長の加々美紫音だった。

 いつもの黒縁眼鏡を外して、野暮ったかった三つ編みも解いている。身につけているベビードールは大人びた黒で、レースがふんだんにあしらわれていて姫感を演出しつつも、大切なところはしっかり透けているという代物だった。胸の頂点にうっすらとピンク色が透けているのを目にしただけで、こんな緊急事態なのに私は鼻血を吹き出しそうになっていた。


 どうして委員長がレズ風俗なんかに……。

 いや、私がレズ風俗に来ている事実を知られてしまったのもまずい!

 そんな風に内心パニックを起こしかけていると、


「九条さん、お願いっ! ここで私が働いてること、誰にも言わないでっ!」


 委員長が私の足下でいきなり土下座をキメた。

 彼女のくるんとしたつむじと背骨のラインが丸見えになる。

 小さく震えている肩を目の当たりにして、私はこれまでにない衝撃を感じた。

 あのネチネチ絡んでくる委員長が、しおらしくなって私にひれ伏してるっ!?

 こんなの日頃の恨みを晴らすチャンスでしかない。委員長にもレズ風俗で働いている深い事情があるのかもしれないけど、それはそれとしてこの機を逃す理由はない。別に脅迫するつもりはないけど、ちょっと脅かすくらいはしてもいいだろう。


「さーて、どうしようかな~?」


 私は白々しく考える振りをしてみる。

 これは流石にわざとらしすぎたかな?

 しばらく様子を見ていたら、委員長が顔を上げるなり私の足にすがりついてきた。


「今日はお金もいらない! いっぱいサービスするから!」

「うぇっ!? お、お金はちゃんとあるけどっ!?」

「九条さんのこと、きっと満足させるから! そのために来たんでしょう、ね?」

「そ、そりゃあ、それ以外に来る理由ないし……」


 まあ、1回だけタダになったのをラッキーと思っておけばいいかな?

 私は真面目な顔を作りつつ委員長の肩を軽く叩いた。


「分かった。いっぱいサービスしてくれるなら誰にも言わない」

「本当!? よかったぁ……」


 今にも泣きそうだった委員長の表情が柔らかくなる。

 私はそれを目にしてちょっぴりドキッとしてしまった。

 なにしろ委員長は常に怒っている。ピンチを切り抜けてホッとしているだけとはいえ、彼女の笑顔を見たのは初めてだ。同じクラスになって半年以上経つのに笑顔の一つも見たことないのは、冷静に考えてみるとちょっと異常かもしれない。

 委員長が立ち上がるなり、ベビードールのすそに手をかけた。


「うわっ!?」

「うわっ……どうしたの、九条さん?」

「いや、いきなり脱ぎ始めるから心の準備ができてなくて……」

「ふふっ、おかしな九条さん。このために来たんでしょ?」


 ベッドに座ったままの私の眼前で委員長がベビードールを脱ぎ捨てる。

 彼女の肌からは桃のような甘い香りがほんのりと立ち上っていた。

 目線のやや上くらいの高さに委員長の乳房が当たり前のように存在している。張りのあるそれは綺麗なお椀型をしており、南半球にくっきりと影ができていた。頂点のふくらみは慎ましやかなもので、それこそまるで桃のような淡いピンク色をしている。女の子の裸を生で見たことなんて修学旅行や臨海学校くらいしかないけど、ハッキリ言って委員長のおっぱいは今まで見てきたおっぱいのなかで一番綺麗だった。


「そ、そんなに見られたらちょっと恥ずかしいわ……」


 委員長がうっすらと顔を赤らめて両胸を手で隠す。

 胸よりもっと隠さなくちゃいけないものが見えてるよね!?


「それじゃあ、九条さんも脱ぎましょう」

「う……はい……」


 返事をするや否や、委員長が私の服のボタンに手をかけた。

 誰かに着替えを手伝ってもらうなんて、小学生の夏祭りで浴衣を着たとき以来である。わざわざ他人に服を脱がされるだけでも恥ずかしいのに相手は素っ裸のクラスメイトだ。しかも、ボタンを外すところから靴下を脱がすところまで全部やってくれる。ついにはブラジャーのホックを外されて、するりとショーツも下ろされてしまった。同性と裸同士になるなんて温泉と変わりないのにもう顔が真っ赤になっている。


「九条さんの体、すっごく綺麗……見とれちゃうわ」

「そんなこと、ないと思うけど……」

「ううん、自信を持って!」


 長く伸ばした黒髪をシュシュでまとめると、委員長は私の手を握ってきた。


「お風呂場は滑りやすいから気をつけてね」

「う、うん……」


 委員長に連れられてひんやりしたタイル床に足を踏み入れて、彼女に導かれるまま股の間がくりぬかれた椅子に……いわゆるスケベ椅子に腰を下ろす。足を閉じていると尻の収まりが悪くて、どうしても股を開いてしまった。


 委員長が洗面器にお湯をためて、その中に透明なローションのボトルを入れる。あとで使うことを見越して、あらかじめローションを温めているらしい。マニュアル化されているのだろうけど、スムーズな手際にはちょっと感心してしまう。

 それから、委員長はスポンジを使ってたっぷりの石鹸の泡を作った。ボディソープのCMに出てくるようなホイップクリームの如きあわあわで、彼女はそれを両手ですくい上げると私の胸元に塗りたくった。


「ひゃっ!?」

「もしかして冷たかった?」

「い、いや……なんか未知の感覚で……」

「それじゃあ、洗っていくわね」


 委員長がいよいよ私の体を洗い始める。

 女の子に体を洗ってもらうのはくすぐったいけど気持ちいい……これは私にとって世紀の発見と断言してよかった。だって、どこを触られても気持ちよすぎるのだ。背中に首筋、脇の下に脇腹、太ももに足の指の間……委員長のほっそりとした指先でなで回されると、それだけで背筋がぞくぞくっとしてしまう。私は気づいたら下唇を噛みしめて、必死に声が漏れてしまうのを我慢していた。


「九条さんって攻められたいタイプ?」

「わ、わかんない……」


 そう誤魔化しつつも、私自身はとっくに自覚していた。

 エッチな妄想をするといつも私は攻められる側になってしまう。基本的に他人からいじられるのは大嫌いで、からかってくる相手には反抗せずにいられない……そんな生き方をしていたつもりなのにどうしてこうなった?


「声、我慢しなくていいからね?」

「んぁああああ……」


 委員長の手が私の胸を包み込むようにマッサージし始める。その手つきは極めて丁寧で、私の性感はあっという間に高まっていった。胸の奥がうずうずして仕方ない。もっとめちゃくちゃにして、と喉まで出かかった。


「んッ!?」


 委員長が私の乳首を軽くピンと指先で弾いた。

 甘いしびれが全身を駆け抜けて、私は背筋をびくんとさせてしまう。

 彼女はそれからここぞとばかりに乳首を責め立ててきた。爪でカリカリとひっかいたり、指先で摘まんで軽く引っ張ったり、かと思えばそっと乳輪の周りを撫でて焦らしたり、どうしてこんなに上手なのか……いや、この仕事をしてれば上手くなるのも必然なんだろうけど、同い年の女の子のテクニックとは到底思えない。


「それじゃあ、足の間も洗うわね」

「あっ! ま、ま、待って……ひゃんっ!?」


 泡まみれの委員長の右手がにゅるんとスケベ椅子の隙間に入ってきた。彼女の繊細な指先が不浄の穴をくりくりと刺激する。穴の周りの細かいひだの一本一本まで、丁寧に洗われているのがよく分かった。


「あぁああぁ……そ、そんなとこまで……」

「九条さん、シャワー浴びてきてくれたでしょ? でも、決まり事だから一応ね」


 委員長の指先がついに亀裂をなぞり上げる。

 私はあられもない声を上げながら、反射的に彼女の肩にしがみついた。

 膝がガクガクしてしまって、まともにスケベ椅子に座っていられない。


 乳首をいじっていたときと同じように……否、そのときよりもさらにいやらしく、委員長の指先は私のもっとも敏感な部分を責め立てた。硬くなって包皮から顔を出したピンクのそれを彼女は自由自在に弄ぶ。私は手綱を握られたお馬さんだ。委員長の思うがままにあえぎ、全身を大きく震わせ、口の端からはよだれまで垂らしていた。死ぬほど情けない。でも、死ぬほど気持ちよくてなんの抵抗もできない。


「ああっ……むりっ……もうむりっ……」

「何が無理なの、九条さん?」

「やめ……あんっ……いゃああああんっ♥」


 私の意識が一瞬真っ白になる。

 膝どころか全身に力が入らなくなり、ぐったりと委員長にもたれかかってしまった。


「イッた? ふふ、嬉しいわ」


 委員長が耳元でそっとささやいてくる。

 私はしばらくの間、達した余韻で彼女にしがみついたままだった。

 数分してようやく立てるようになり、私たちは体についたあわあわを洗い流した。


 委員長はそれからマットプレイの準備を始めた。壁に立てかけてあったマットを風呂場の床に置いて、温かいシャワーで表面を洗い流す。それから洗面器のお湯であらかじめ温めておいたローション、そして瓶入りのハチミツを垂らして混ぜ始めた。


「ローションはそのまま使うと肌荒れの元なんだけど、ハチミツを混ぜると肌がしっとりするようになるの。それに元から口に入っても平気なローションなんだけど、ハチミツを混ぜてるとほんのり甘い味がするようになるわ」

「ふ、ふーん……」


 がっついていると思われたくなくて、私はつい淡泊な反応をしてしまう。それから委員長に促されるまま、枕代わりに置かれたタオルにあごを添えるようにして、ハチミツローションの垂らされたマットの上でうつぶせになった。


 委員長は私の背中にもハチミツローションを垂らし、さらに彼女自身の体にもたっぷりと塗りたくる。とろとろのぬるぬるになった委員長の肢体は蠱惑的に輝き、頭がぼーっとするような甘ったるい匂いを立ち上らせていた。ボディソープやハチミツの匂いだけではない。彼女の放っているメスのフェロモンを私は確かに感じていた。


「重かったらごめんね?」


 委員長が覆い被さるようにして私の背中に全身をこすりつけてくる。

 未知の感覚に襲われた私は「あっあっあっ……」と情けない声を漏らした。

 ハチミツローションにまみれた柔肌が密着する感覚は、今までの人生で経験したあらゆる感覚にも例えられない。私と委員長の境目がなくなって溶け合うような心地で、それでいて彼女の胸の形や硬くなり始めた乳首の存在まで敏感に感じ取れる。直接的に性器をいじられるときのような刺激はないものの、まるでママのお腹の中にいるような多幸感だ。


 そんな風にちょっぴり和んでいたのもつかの間、委員長は流れるように新しい体位へ移行してきた。


 私の背中から離れたかと思うと、委員長は股と股を交差させるようにして、私のお腹の下に右脚を滑り込ませてくる。彼女のつま先がちょうど私の乳首に軽く引っかかり、ハチミツローションに濡れた股間同士がぶつかり合った。いわゆる貝合わせだ。委員長がリズミカルに全身を上下させると、股間と股間が重なり合うたびにぱんっぱんっと下品な音が鳴った。

 恥ずかしい場所と恥ずかしい場所が、くっついては離れてを繰り返してもどかしい。直接的に触れているのは一瞬だけど、リズミカルな衝撃はおへその下で反響して、私は子宮が甘く切なくキュンとするのを感じた。


「私まで気持ちよくなっちゃったりして……」


 委員長の肌はほんのりと上気し、額にはうっすらと汗をかいていた。

 彼女も興奮してくれているのかと思うと、それがまた無性に嬉しくなってしまう。


「今度は腰を上げてくれない?」

「ふぁい……」


 私は気の抜けた返事をしながら、枕代わりのタオルにしがみつくように腰を上げる。恥ずかしい部分を一方的に見られているというシチュエーションに直面して、今更ながら強烈な羞恥心が込み上げてきた。さながら性別を調べられている犬だ。


「九条さんのお尻、つるんとしてて可愛いわ」

「し、尻に可愛いもなにも……」

「広げるわね」

「うわあああ……」


 いつもは空気が触れないところに空気が触れちゃってる! ハチミツローションでしっとり濡れてるからなおさら敏感で、空気どころか委員長の視線すらも粘膜剥き出しの部分でひしひしと感じてしまう。


「ふーっ」

「ひゃいっ!?」


 委員長に息を吹きかけられてビクッとしてしまう。

 その直後だった。

 私の中に委員長の舌がにゅるんと侵入してきた。


「あっ、ちょっと、待って……んんんっ!」


 枕にかじりつくようにして私は快楽に耐えようとする。自分の指ともプラスチックやシリコンの玩具とも違う……自分の意思に反して動くモノに私は全ての感覚を支配されていた。犯されるってこういうことなのかと思い知らされる。舌の長さなんてたかがしれてるのに、私の中を奥の奥まで味わい尽くされているような気がした。


「すごいあふれてきてるわ、九条さん」

「い、言わないで……」


 恥ずかしいと気持ちいいが交互にやってきて頭の中がめちゃくちゃになる。でも、結局舐められているのは蜜穴のほんの入口でしかなく、硬くなった花芽はさっきからまともに触ってもらえていなくて、とてもじゃないけど達するには至らない。ひたすらもどかしい気持ちにさせられて、押しては返す快楽の波に翻弄され続けた。


「……ふう、ごちそうさま」


 委員長がやっと休憩を許してくれて、私はマットに力なくへたり込む。ぐったりしている私を眺めながら、彼女はハチミツローションでべたべたになった口元をタオルで拭っていた。そのべたべたには私の中からあふれたものも混ざっているだろう。そう思うとなおさら恥ずかしくて、私は今更ながら足をぴっちりと閉じた。


「……私のあそこ、変じゃなかった?」

「ううん、とっても綺麗だったわ。それにおけけも丁寧に整えてあったから、ぺろぺろしやすくて実はすごく助かっちゃった。九条さん、お客さまとしては100点満点よ」


 今日のために気合いを入れて綺麗にしたのに気づいてもらえて、営業トークと分かっていても嬉しくなってくる……いやいや、あの委員長のお世辞で嬉しくなってどうする! 私はこいつのことが嫌いじゃなかったのか?


「はーい、仰向けになりましょうね」


 赤ちゃんが寝返りを助けてもらうみたいに私は仰向けにされる。ハチミツローションとマットで暖まっていた胸が急に空気に晒されて、ヒヤッとして乳首が硬く反応してしまった。これから何をされるのか期待しているみたいでますます恥ずかしい。


 委員長が腰の上にまたがり、おもむろに両手の指を絡めてきた。

 それから恋人つなぎの状態でじぃっと私を見つめてくる。


「キスしてもいい?」

「おっ、おっ……お願いします」


 私が答えるや否や、委員長の唇がチュッと私の唇に触れた。

 女の子の唇のリアルな柔らかさに驚いたのもつかの間、彼女の濡れた舌がいきなり私の舌に絡みついてくる。口の中にハチミツローションが少し残っていたのか、委員長の唾液からはほんのりとした甘みが感じられた。


 生まれて初めてのディープキスに一瞬で魅了されて、私はママのおっぱいを飲む赤ちゃんみたいにがむしゃら委員長の舌を吸う。委員長も負けじと私の舌を吸い、かと思えば歯並びまで知り尽くすかのように舌を入れてきたりと、サキュバスか何かじゃないかと思うようなテクニックで私を翻弄し続けた。私たちの口元はあっという間によだれまみれだ。

 恋人つなぎで両手がふさがっているものだから胸と胸も当たっている。ハチミツローションをまとった果実の如き乳房同士……そして、その頂点で硬くなった乳首同士がぶつかり合いこすれ合った。それは初めて私から委員長に感じる場所に触れたわけであって、あれだけ一方的に私を攻めていた彼女も自然と「んっ♥ んっ♥」と嬌声を漏らしていた。


 や、やばい……委員長が可愛すぎる。

 あくまでプレイの一環と分かっているはずなのにときめいてしまう。


 委員長が不意に私と添い寝するような姿勢になる。そして引き続きキスは続けつつ、左手の指先で私の乳首をカリカリッとしながら、右手を少しずつ下へ下へと移動させていった。右手の指先は敏感な突起をひと撫でして、ついに私の中へと入り込んできた。


「むぐっ……んんっ!?」


 キスで口を塞がれているため、私はくぐもった声を漏らす。

 指を入れてちょっと曲げた辺りにとても敏感な部分がある……そういう知識はあったけど、ハッキリ言って覚悟が足らなかった。甘いしびれがおへその方に向かって突き抜けて、おしっこを漏らしてしまったんじゃないかと錯覚するくらい下腹部が熱くなる。胸をじられ、口を塞がれているから快楽の逃げ場がない。目がチカチカして頭が真っ白になりそうになる。そんな刺激が絶え間なく押し寄せてくるのだ。


「九条さんのここ、とろとろになってるわ。それにキュッと締め付けてくる」

「そ、それは委員長が上手いから……」

「そうかしら? 私は九条さんが変態だからだと思うけど?」

「へ、へんた……んぁあっ!!」


 口答えをやめさせるかのように委員長の指が敏感な場所を抉ってくる。それから、彼女は今までにない激しさで指を出し入れし始めた。入れている指もいつの間にか一本から二本になっていて、高まった異物感がさらに私の意識をいじられている場所へ向けられてしまう。私の頭の中には委員長に攻められたい……それ以外の考えはなくなっていた。

 巨大な快感の波が上ってきて、かじりつくように委員長の首筋に顔を埋める。桃のような優しい香りと甘酸っぱい汗の香り、そしてむせかえるような女のにおいを鼻の奥まで吸い込んだ瞬間、狙ったかのように委員長が耳元でささやいた。


「イッちゃえ、九条さん♥」


 悪魔のささやきに最後の理性を奪われて、


「イヤっ……あっ♥ んんっ♥ んんんんんーッ♥」


 私はあられもない嬌声を上げながら全身をびくびくと震わせた。

 委員長の体に抱きつくので精一杯になり何も考えられない。

 快楽の波が収まるまでの間、彼女は優しく私を抱きしめ続けてくれた。


「は、初めてナカでイッた……」

「ふふっ、九条さんの初めてをもらっちゃったわ」


 委員長が優しくキスをしてくれる。

 彼女とのキスに私は安らぎすら感じるようになっていた。

 大嫌いな委員長とキスしてホッとするなんて……私、本当にどうかしてる。


「少し休みましょうか?」

「う、うん……」


 私たちはそれから全身についたハチミツローションを洗い流した。委員長は丁寧にローションをタオルで拭ってくれて、あまりの至れり尽くせりっぷりに私はどこかの国のお姫さま……というか看護してもらっている入院患者のような気分になった。


 私たちはタオルを体に巻き、ベッドに並んで腰を下ろした。

 さっきまで裸で抱き合ってたのにわざわざタオルで隠すなんて滑稽かもしれないけど、やっぱり素っ裸でいるのは恥ずかしい。行為が終わっているのならなおさらだ。そもそも、私たちは単なるクラスメイトなわけだから。


 私は委員長の弱みを握って、性欲を満たすためにあんなことを……。

 冷静に考えてクズだ。

 性欲が収まると途端に落ち込んできた。


「もしかして賢者タイムってやつ?」


 くすくすと笑う委員長。

 私は反射的にハンドバッグへ手を伸ばし、財布からありったけの万札を抜き出した。


「委員長、ごめん! 今日のことは誰にも言わない! お金もちゃんと払うから!」

「え、ええ……ちゃんと払ってもらえるなら助かるわ」


 少し動揺した様子で委員長が万札の束を受け取る。

 彼女は「これ、余計な分とおつりね」と数枚の千円札を差し出してきた。

 私は首を横に振って受け取りを拒否した。


「あのさ……もしよかったら、詳しい話を聞かせてくれない?」

「えっ?」

「もしかしたら、私でも何か役に立てるかもしれない。委員長にひどいことしちゃって、自己嫌悪がすごくて……このまま帰るに帰れないんだよ。こういうところでバイトしてるってことは、それなりに理由があるわけだろ?」

「九条さん」


 改めて名前を呼ばれて、私は初めて自分がうつむいていることに気づいた。

 顔を上げてみると委員長の顔には軽蔑としか言いようのない表情が貼り付いていた。


「そういうのが一番迷惑なの、分かる?」

「あ……う……」


 頭の中が真っ白になった。

 エロいことをして頭が真っ白になるのと違って全然気持ちよくない。

 端的に言って吐きそうだ。


「私を助けたいなら客として通って、ちゃんとお金を落としてほしいわ。まあ、九条さんの同情を買えそうだから言っておくけど、うちには3000万円の借金があるの。父の会社が倒産してできた借金でね……父は社員さんたちの退職金を支払うのに頑張ったんだけど、そのお金を貸してくれたのがいわゆるヤミ金融というやつだったわ。大手の金融企業の名を騙って、心身共に追い詰められていた父を騙した」

「ヤミ金……なんてところか分かる?」

「何度も家に電話されてるから嫌でも覚えるわ」


 委員長がうんざりした様子でため息をついた。


「ウエシマ金融ってところ。まあ、偽の名義かもしれないけど……」

「……なるほど」


 何がなるほどなんだか、という感じに委員長が肩をすくめる。

 かと思ったら、不意に私の顔を覗き込んできた。

 私はびっくりしてのけぞってしまう。


「うわっ! な、なにっ?」

「で、まだ三十分以上も残ってるわよ? その気がないならやめるけど?」


 問いかけてくる委員長の目から唇、さらにタオルでキュッと持ち上げられている胸の谷間へ目移りしてしまう。ハチミツローションを綺麗に洗い流しても、彼女の肌からはハチミツの甘い香りが漂っていた。私にとってそれは禁断の果実の香りにも等しくて、ほとんど無意識のうちに即答していた。


「……や、やるっ! やります!」

「そんなにがっつかなくても時間は十分にあるわ、九条さん」


 ×


 翌日。

 私は教室の机でスマホを眺めていた。

 スマホにはとあるネットニュースの記事が表示されている。


『暴力団が一晩で壊滅!! ××県警、暴力組織幹部を現行犯逮捕!!』


 ニュースの内容はこうである。

 昨日の午後10時頃、警察署に一通のタレコミがあった。タレコミ情報に従って駅前の雑居ビルに向かうと、その一室でボコボコにされたヤミ金の社員がロープに縛られていた。彼らは暴力団の一員であり、ご丁寧にも違法な貸し付けや恐喝の証拠までずらりと残っていて、しかも元締めである暴力団の親玉が参加する取り引きの情報まで存在していた。警察は取り引きの現場へ急行して親玉を緊急逮捕、暴力団は一夜にして壊滅したとのことだ。


 このニュースにはクラスメイトたちの間でも騒ぎになっていた。なにしろ最寄り駅の雑居ビルに警察が踏み込み、暴力団員を捕まえたのである。クラスメイトたちは「ビルの窓ガラスが粉々に割れてた」とか「警察官が見張ってた」と興奮気味に話していた。


「九条さん、ちょっと……」


 今し方登校してきたらしい委員長が廊下から呼びかけてきた。

 少女九龍城のレズ風俗で会ったときと違って、彼女はいつもの黒縁眼鏡と野暮ったい三つ編みの姿に戻っている。

 私は教室を出ると、彼女に連れられて屋上にやってきた。

 空は抜けるような青空で空気も実に清々しい。

 しかし、委員長の表情はなんだか不安そうに曇っていた。


「昨日、弁護士だっていう人がうちに来たの。それも夜中の1時よ」

「へえ……」

「ウエシマ金融の借金はチャラ。今まで違法に返済させたお金も返すって言って、誓約書とトランクを置いていったわ。トランクには父が社員さんの退職金を支払うために借りた分と、借金の利息として取り立てられた分がきっちり入っていた。弁護士は最後に『間違いなく精算したから、これ以上のことはやめてほしい』とも言っていたわ」

「ふーん……」

「九条さん、あなたがやったの?」


 委員長が眼鏡のレンズの奥からじぃっと私を見つめてくる。

 私は転落防止用の柵に軽く背中を預けた。


「不思議な話があるもんだな」

「九条組ってニュースとかで見たことあるわ。昨日壊滅したた暴力団よりもずっと大きな組織で、それこそ日本で一番影響力のある暴力組織かもしれないって……」

「ないない。絶対に関係ない」

「そう……」


 委員長が残念そうにうつむき、しばらくしてから顔を上げる。

 そうすると彼女は吹っ切れたような笑顔を浮かべていた。


「とにかくありがとう、九条さん。これからはちょっとだけ大目に見てあげるわね」


 私は「はいはい」と聞き流して、委員長が屋上から出ていくのを見送る。

 それから柵の手すりに肘を突いて、糸の切れた操り人形のようにうなだれた。


「終わった……何もかも……」


 委員長の父を騙していたのは暴力団。

 私の父が組長を務めている九条組も同じ暴力団。

 うちの組はチンケなヤミ金なんてやってない……はずだけど、委員長のような一般人からしたら同じようなものだろう。それにヤミ金のやつらの組を潰したのだって、結局は「自分たちのシマで勝手に商売していたから潰す」という組織的な理屈があったからこそ、私は組の若い衆を連れて殴り込むことができたのである。結局のところヤクザは金だ。


 否が応でもため息が出てしまう。

 これから私が派手なネイルとかしていても、委員長が何も言わなくなったりしちゃったらどうしよう。そんなのネチネチと注意されるより何倍も……いや、何十倍もつらすぎる。せっかく委員長の内面も少しずつ分かってきたのに……。


 ピコン♪


 不意にスマホが鳴って、私はポケットに手を伸ばした。

 スマホの画面を目にした瞬間、驚きのあまり落としてしまいそうになる。

『加々美紫音から1通のメッセージが届いています』と通知が来ていた。

 友だち付き合いのさっぱりな私でも、クラスの連絡用LINEグループには入っている。そこを経由すればクラスメイトに個別のメッセージを送ることもできるが、もちろん委員長からメッセージが送られてくるのなんて初めてだった。


『これはお礼ね』


 そんな短いメッセージのあと、スマホの画面に一枚の自撮りが送られてきた。

 委員長の目元は映っていないものの、昨日だけでも数え切れないくらいキスした唇の形はハッキリと覚えている。女子トイレの個室で撮影したものだろうか、彼女は無機質な白いパネルに囲まれた空間に立っていた。


 トイレで撮影した自撮りという時点でちょっとエロい。でも、それだけに止まらず委員長は空いた左手でスカートをたくし上げていた。ほどよくむっちりした太ももの奥からは、昨日のスケスケベビードールを思わせる黒レースのショーツが覗いている。

 隠れた目元、妖しい微笑を浮かべている口元、狭くて薄暗いトイレ、ドスケベとしか言いようのないデザインの下着……こんなの完全に悪い男に命令されて撮るタイプのエロ自撮りじゃん!! こんなエッチな写真を自発的に送ってくる女の子、この世にいる!? そんなのを生真面目な委員長がやっているというギャップが最高!!


 もしかして、これは脈ありなのでは……。

 ドキドキする胸を押さえるようにスマホを抱きしめる。

 今この瞬間、何かの始まりを告げるチャイムの音が聞こえてきた。


(おしまい)

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