第26話 お姉ちゃんの傷心旅行
「食堂にお集まりの皆様にお知らせいたします!」
私はキッチンを背にして、食堂全体に響き渡るように言い放った。
時刻は深夜二時を過ぎた頃で、さすがに住人たちの多くは眠りについている。だけど、未だに私たちを除いても五人ほどの少女が食堂に居残っていた。
これから、彼女たちが観客になるのである。今日に限って、いつもより多いような気がしないでもない。
住人仲間たちの視線が集まる。
彼女たちからしてみれば、私の行動はとても奇妙に思えたことだろう。
真夜中なのに制服のままであり、左手にはミスタードーナッツのフレンチクルーラーが握られている。そんな『へんてこ』なシチュエーションで、果たして何をするのか想像もつかないに違いない。
傍らの妹・松沢六実が「ナナちゃん、がんばって!」と、ボクシングのセコンドよろしく声援を送ってくる。
高鳴る心臓に押しつぶされそうになりながら、私は再び声を張り上げたのだった。
「不詳、松沢七穂……ドーナッツを食べながら一人えっちをさせていただきます!」
×
始まりは二ヶ月ほど前のことである。
私、松沢六実は妹の堕落に耐えられなくなっていた。
六実は学校を好き放題に休み、住人たちと不健全な遊びに耽り、お菓子を主食にするという有様だった。
私も彼女を教育するため、仕方なく学校を休まなくてはいけなかった。私が留年しそうなくらいに学校を休んでいるのは仕方ないことだった、うん。
六実に健全な生活を送らせるため、私は彼女と『勝負』をすることになった。私が甘いものを一ヶ月我慢できたら、六実は私の言うとおりに更正する――というものである。
勝負は最終日までもつれ込み、結局は私の敗北で終わった。そのときに与えられた罰ゲームが『甘いものを食べながら、みんなの前で一人えっちする』という正気を疑うようなものである。
私はそれをやりきった。
恥ずかしさのあまり、最後は泣きながらやった。フレンチクルーラーが全然のどを通らなかった。
最後までやりきったとき、食堂にいた少女たちから惜しみない拍手が送られた。100キロのマラソンを走りきって、テレビ局に帰ってきたような賛辞の嵐だった。
そして、私の心はふかーくふかーく傷ついた。
それが一ヶ月前。
私は持てる『お姉ちゃんパワー』の全てを使い尽くして、もはや六実にとやかく言うことはなくなっていた。
それで六実が堕落しきったのかと思えば、彼女は最近よく学校に行くようになったのである。
実に皮肉な話だ。私がかつて無理やり練習させれたドラムも、今はすっかり六実専用となっている。趣味に打ち込むのは良いことだ。
その一方、私はまるで仙人のような一ヶ月を送っていた。六実は本気になるとしっかりできるのに、姉である私はこのザマである。心ここにあらず、という日が続いた。
通りかかった虎谷さんが「生きてる? おーい、おーい!」と、私の目前で手を振った。彼女の問いかけに対して、YESと答えられなかった自分が恐ろしい。
そして、私は『心を癒す必要がある』という事実に気が付いた。
ならば、どうすればいいのか?
アドバイスをくれたのは『チズちゃん』こと加納千鶴さんだった。
彼女は我らが女子寮――少女九龍城の地図を作製している。地理に詳しくなるにつれて住人仲間から頼られることも多くなり、今はみんなの相談役になっている。人当たりの良さ、面倒見の良さは少女九龍城で随一と言えるだろう。
また、チズちゃんは私の『罰ゲーム』を目撃した人間だった。
さらには、椿さんの恋人でもある。椿さんと縁が深い『堕落姉妹』の事情について、彼女から聞かされていることだろう。じっくりと腰を据えて相談するには最適の相手である。
「傷心旅行に行くのが良いと思います」
「しょーしんりょこう?」
ただ、チズちゃんから提案を受けたとき、私は思わず疑わしげに聞き返してしまった。
私は彼女の部屋に押し掛けていた。
チズちゃんの部屋には方眼紙が山積みになっており、足の踏み場はほとんどない。山が崩れたら大変なので、なるべく立ち入らないようにと言われている。
そこに無理を言って押し掛けたのに、いきなり反論する態度はいかがなものだろうとは自分でも思っていた。
「自分探しの旅――とも言えるかもしれません」
「傷心旅行よりも、さらに胡散臭くなったような気が……」
あはは、とチズちゃんはベッドの上で苦笑いをした。
「具体的な解決策じゃないですけど、自分を見つめ直すのは良いことだと思いますよ? ちょうど、おすすめの旅先を知っています。私も深く思い悩んでいたとき、その場所で答えを見つけられましたから。日帰り旅行なので学生でも安心です」
彼女は表現をぼかしていたけれど、それが恋についての悩みであることは丸分かりだった。
椿さんと大切な関係になるまで、チズちゃんは一目で分かるほど悩み抜いていた。同性同士だからという理由だけで悩んでいたのではないだろう。
無論、チズちゃんが悩んでいた本当の理由を推し量ることはできないけれど……。
×
翌朝である。
傷心旅行に出発しようとする私を待っていたのは、私よりもさらに早起きをしている六実だった。彼女はベッドに寝転がって、日曜朝の少女向けアニメを鑑賞していたのだ。ここ最近、六実は戦うヒロインたちに夢中なのである。
私は彼女の気を引かないように、何気ない感じで服を着替える。
傷心旅行は日帰りを予定しているので、これといって大層な荷物はない。食堂に立ち寄って、前もって頼んでおいたお弁当を受け取るだけだ。コンビニにでも行くような素振りで騙し通せる。
そうやって、私が自室から出ようとしたときだった。
「……ナナちゃん、どこにいくの?」
テレビから視線を外すことなく、六実が私に問いかけてきた。
双子の片割れだけあって、彼女は妙な勘の良さを見せるときがある。
「あ、あさごはんだよ?」
「ふーん、そうなんだ……」
どうやら、私の考えには気づいていないようである。
少女アニメの変身バンクが始まると、六実も一緒になってポーズを決めた。いつの間にか、動きを完璧にマスターしている。彼女がどこに向かおうとしているのか、姉であるはずの私にも全然分からなかった。
自室を脱出して食堂に向かう。そこで管理人さんと合流して、彼女の作ってくれたお弁当を受け取った。私にとっては朝ご飯兼お昼ご飯だ。それから、管理人さんの案内で彼女の部屋に向かう。
管理人さんの部屋は畳敷きになっており、その畳を外すと地下に続く縦穴が現れる。
鋼鉄のハシゴを下りていき、辿り着いた先が傷心旅行の『出発点』だ。ハシゴがあまりにも長かったので、もしかして底がないのではないかと不安になった。
「――こ、これは!?」
しばらくして梯子を下りきる。
その先に広がる光景を見て、私は思わず口が半開きになってしまった。
見上げるような巨大地下空間に、一両編成の単行電車が鎮座しているのである。地下シェルターのような場所だ。洞窟のように声が反響する。
中央に存在する一両きりの電車は、レトロなデザインをしているけれど新品のように磨かれていた。この電車のためだけに作られた、豪華な展示ルームのようにも見える。
「メンテナンスは済んでるから、すぐにでも出発できるけど?」
「よ、よろしくお願いします!」
私は管理人さんに続いて、単行列車『メトロ九龍』に乗り込んだ。
我らが女子寮――通称・少女九龍城は複雑怪奇な迷宮構造をしている。不可解な事件もたびたび起こり、少し前まではメトロ九龍の存在も噂として語られるだけだった。
まぁ、種明かしをすれば簡単な話で、管理人さんがメトロ九龍を趣味で走らせていたのである。
「出発進行!」
管理人さんがメトロ九龍を発進させる。
行く先は巨大地下空間にぽっかりと空いたトンネルだ。
チズちゃんの話によれば、トンネルは緩やかに弧を描きながら、少女九龍城の地下全体を這っているらしい。突き当たりまで一本道だから、行き帰りで同じ風景を眺めることになる。
メトロ九龍は私を乗せて、真っ暗なトンネルをゆっくりとしたスピードで走り続けた。ライトに照らされたレールが、車体の下に次々と吸い込まれていく。
車両の先頭に立つことなんて初めてで、それだけでも私にとっては新鮮な体験だった。
管理人さんは一駅ごとにメトロ九龍を停車させてくれた。
第一の駅『蓮の池』を始めとして、全ての駅に違った魅力がある。
未完成の絵画ばかりが飾られている『半端な画廊』駅。
天井から無数のツタが垂れ下がる『緑の暖簾』駅。
四角い貯水池で金魚が泳いでいる『金魚集落』駅。
自然物、人工物、そのどちらからも美しさを感じる。駅を作った後で周囲を開発したのか、景色の良い場所に駅を作ったのかは分からないけれど、どちらにせよセンスの良さを感じる。
私と管理人さんが昼食を食べたのは『向坂飯店跡地』という駅だった。ホームに隣接する形で、台所付きの小屋が建っているのである。中にあるのはカウンター席だけで、客が十人も入れば一杯になってしまう。
ただ、その向坂飯店も店主を失って、客を失って、今は錆びた看板をぶら下げているばかりだ。まぁ、私と管理人さんにとっては、ちょうど良いテーブルを提供してもらったので満足である。
昼食を終えたあと、私と管理人さんは地下鉄旅行を続けた。
チズちゃんに続いて私で二人目だからか、彼女の駅紹介はとても手慣れていた。いつ、誰が、何のために作ったのかも分からない駅について、管理人さんは彼女独自の見解を教えてくれた。
彼女が再び口を開いたのは、駅の少ない区間に突入してからだった。
「で、七穂の悩みって何なの?」
「は、はいっ!?」
運転席のすぐ隣で、私は素っ頓狂な声を上げてしまう。
管理人さんには個人的な事情を何も言っていない。単に『メトロ九龍に乗ってみたい』とだけ話しただけのはずだ。
だが、管理人さんは私の発言にむしろ驚いていた。
「あれ? チズちゃんの紹介で、私に悩みを相談しに来たってことじゃないの?」
彼女の言葉から察するに、チズちゃんも管理人さんに悩み事を聞いてもらったのだろう。
チズちゃんがメトロ九龍を旅先にオススメしたのは、神秘的な風景に癒されるからというだけでなく、管理人さんが相談に乗ってくれるからなのかもしれない。
管理人さんが赤くなった頬を手のひらで冷やそうとする。
「も、もしかして、私ってば自意識過剰だったかな、あはは……」
「いえ、ぜひ私の悩みを聞いてください! 超聞いてください!」
「……そ、そう? 私、頼りにされてないのかと思っちゃったよ、よかったー」
なんだか、管理人さんの方にも悩みがありそうだが、今は私の相談に乗ってもらう。
私は白状するように言った。
「実は、その……姉妹の関係について悩んでいまして……」
「それは、まぁ、見ていれば分かるな」
「私は姉なのに、妹の六実に振り回されてばかりです。先月も姉妹で勝負をして、私は負かされてしまいました。私は妹を更生させようと躍起になったけど、結局、それらは全て失敗に終わったんです」
「ここ最近の六実は健康的な生活をしてるようだが?」
「それは私がうるさいことを言わなくなったからです。六実には最初から、自分の力で真っ当に生きていく力があった。だというのに、姉の私はすっかり生きていく活力を失ってしまいました。姉が妹についていけないだなんて、情けない話ですよね……」
管理人さんがメトロ九龍を減速させる。
「双子で性格が全く違うということもあるさ」
「いえ、私が六実に劣っているのにはれっきとした理由があるんです」
そして、私は誰にも言ったことのない秘密を告白した。
「……本当は私が妹で、六実の方が姉なんです」
×
管理人さんは真っ直ぐに正面を見据えて黙っている。
驚いてはいるのだろう。だけど、今は口を挟んで話の腰を折りたくないのかもしれない。
私は詳しい説明を続けた。
「一週間くらい前、実家に帰ったときに聞いてしまったんです。私たち姉妹は六月三十日から七月一日にかけての深夜に生まれました。六月生まれが六実、七月生まれが七穂と名付けられました。ですが、出生届を『姉が七穂、六実が妹』という内容で提出してしまったのです。両親が訂正を怠った結果、本来は妹であるはずの私が姉になってしまいました」
本来ならば、私は七穂であるからには妹になるはずだった。
それが些細な間違いで『六月生まれの姉・七穂』になってしまった。
それから、私の『お姉ちゃん』としての人生が始まったのである。
「私が六実に振り回されてしまうことは、何も不自然なことではなかったんです。私には最初から『お姉ちゃん』をする資格なんてなかった。妹が『お姉ちゃん』の演技をして、姉に教育を施そうなんて考えが間違いだった……」
松沢七穂は妹らしく、松沢六実に従うべきだったのだろう。
それなのに、自分がお姉ちゃんであるからという理由だけで、身の丈に合わないことを十数年に渡って繰り返してきた。
これだけ失敗を繰り返しておきながら、つい先週、両親の会話を立ち聞きするまで気づかないとは……まったく間抜けにもほどがある。
「私は妹なんだから、本当は六実に――」
「――七穂の言っていることはまるっきり間違ってる」
なのに、管理人さんは私の言葉に真っ向から反対した。
私の声が消し飛びそうだったのに対して、彼女の声からは芯の強さが感じられた。
「まず最初に両親が悪い。これはハッキリと怒った方が良い」
「まぁ、確かに、そうですね……」
「次に『妹が姉に従わなくちゃいけない』ってのがおかしい。妹が姉に全て劣っているような発言も間違ってる。立派な姉を演じなくちゃいけなかったのは分かるけど、かといって妹を劣ったように見るのは偏見だ」
「ご、ごめんなさい……」
「そして最後に――」
どんな言葉でトドメを刺しに来るのだろうか。
私が構えていると、管理人さんは不意に表情を緩めた。
「松沢七穂ってのはとても立派な人間だよ」
「えっ……」
「管理人である私がよく知ってる。お前は本当に妹思いだ。六実のために走り回って、時には嫌われることも厭わず、ずっと六実のことを思って生きている。こんなに仲の良い姉妹はそうそういない。七穂のような姉を持って、間違いなく六実は幸せだと思うよ」
「そんな、だって……」
六実はいつも私に反抗してきた。
私の言うことに背いて、常に自分の好きなように行動してきた。
彼女にとって、私はいつも邪魔者だったのである。
「だけど、七穂がいなくなると寂しがっていただろう?」
その問いかけにはすぐさま答えられなかった。
どれくらい前だったか……あれは椿さんと仲良くなったばかりの頃、私と六実は大喧嘩をしてしまったのだ。
あの時、六実は私と喧嘩したことを悔やんで、夜通しで泣いていたのだと椿さんが言っていた。
「……それだけが真実なんだよ、七穂。六実の孤独を埋められるのは七穂だけ、七穂の孤独を埋められるのも六実だけだ。生き方の器用、不器用はあるかもしれない。けれど、お互いが唯一無二の相手であることは間違いないさ」
メトロ九龍が減速する。
停車した場所は駅のホームすら見えない真っ暗闇の中だった。
そこには電灯の一本すらもなく、生き物の気配もなくて、広いはずなのに声が響かない。電車の中から漏れ出る光が、見えない壁で全て遮られているようにすら見える。
管理人さんが窓の外を指さした。
「ここが終着点――世界の果てだ」
「何もなくて寂しい場所ですね……」
私の感想を聞いて、彼女はクスリと微笑んだ。
「チズちゃんも同じようなことを言ってたよ。そのあと、あいつは椿と真剣に向き合おうって決断したんだ。ここに来ると、いつもは意識していない大切な人とのつながりを思い出せる。本当は好きなときに思い出せればいいんだけどね」
真っ暗な空間を見据えて考える。
私はお姉ちゃんとして頑張ってきた。
だけど、それ以前に『姉妹』であることを忘れていたのかもしれない。
どちらが上で、どちらが下という話ではない。ただ、かけがえのない相手同士であることだけが真実なのだ。
頭に感触があって見上げると、管理人さんが私の頭をそっと撫でていた。こんな風にされるのがいつ以来なのか、それもよく思い出せなかった。
「六実も七穂に会いたがってるさ。そして、ちゃんと話し合ってみることだよ。あんたらはたった二人きり、双子の姉妹なんだからね」
×
前方に小さな光を見つけたのは、世界の果てから帰ってくる最中のことである。メトロ九龍は出発地点に近づきつつあり、あと十五分ほどの道のりを残すばかりだった。
管理人さんがメトロ九龍を停車されると、小さな光はゆらゆらと揺れながら列車に近づいてきた。
まさか、人魂や鬼火の類ではあるまいな――などと思っていると、列車の外からすすり泣く声が聞こえてきた。
「ナナちゃん! ナナちゃん、中にいるの!?」
車体によじ登って、窓ガラスを叩いてきたのは……他でもない六実だった。
管理人さんがドアを開けて、彼女をメトロ九龍の車内に迎える。
車掌室を飛び出すと、私は倒れ込んできた六実の体を抱きしめた。
電車では十五分の道のりだが、人間が歩くには遠い距離だ。歩き通しだったせいか、彼女は私の腕の中で肩を上下させている。
「六実、私のことを探しに来てくれたの?」
私が問いかけると、六実は「うん」と小さく頷いた。
「ナナちゃん、やっぱり朝から変だったし……どこか行っちゃうんじゃないかと思って、周りの人に聞いて、そうしたらチズちゃんがこの場所を教えてくれて、」
「……私には六実しかいないんだから、どこにも行くわけないよ」
「私にだってナナちゃんしかいないもん……」
一番聞きたかった言葉を彼女は言ってくれる。
私たちは唯一無二、たった二人きりの姉妹なのだ。それだけで十分だ。それが今、ハッキリと理解できた。
だって、六実の言葉で私の胸はとても熱くなっていたのだから。
「私、六実に言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「……何?」
しっかりと抱きついていた六実が顔を上げる。
私は長きにわたって秘密とされていた事実を告げた。
「お父さんとお母さんが話しているのを立ち聞きしちゃったんだけど、本当は私が七月生まれの妹で、六実が六月生まれのお姉さんなんだって」
「……ナナちゃん、知らなかったの?」
「えっ!?」
六実がスンスンと鼻をすすった。
「私、小学生のときから知ってたよ。でも、面白そうだから黙ってたんだよね。ナナちゃんが知っちゃったなら、もう妹の演技する必要もないかー。これからは私が『お姉ちゃん』で、ナナちゃんが『妹』ってことでいいよね? それが本来の関係なんだし」
「あ、いや、その……」
「あと、私はナナちゃんのことを『七穂』って呼ぶことにするね。七穂が私を呼ぶときは、やっぱり『お姉ちゃん』が妥当だよね。それから、お姉ちゃんの言うことは絶対だよ? 反抗したら、私が責任を持って七穂にお仕置きするからね!」
「ちょっと、六実ってば、」
「あっ! お姉ちゃんって呼ばなかったから、もうお仕置き確定だよ!」
「えぇえ、そんなぁあ……」
さめざめと泣いていたのが一転、六実は生き生きとして私のことを抱きしめている。
その一方、私の体からはすっかり力が抜けて、もはや管理人さんに視線で助けを求めるしかなかった。
「さ、さぁ、姉妹が出会えたことだから帰ろうかー」
管理人さん、まさかのスルー。
メトロ九龍に揺られながら、私はこれから妹として生きていく身の上を案じた。
(おしまい)
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