刈られる花⑦

 無料通信アプリに“友だち申請”が来ています。

 アカウント名は「長谷川泰花」。

 それが本名であれば、高校のときに同じクラスだった人です。



 青柳さんも内海さんも、彼も、私が長谷川さんにいじめられたと思っているようです。

 しかし、私は長谷川さんにいじめられたとは思いません。

 長谷川さんは、思ったことをはっきり言う人でした。

 私への当たりは、確かに強かったと思います。でも、私に対してだけではありませんでした。

 悪ふざけをする女子に腹を立てることも多かったのです。

 長谷川さんは、自分のことをあまり話そうとしませんでした。

 真面目な人でした。厳しいけれど、優しさもありました。

 もしかしたら、おうちが厳しかったのかもしれません。

 厳しくしつけられて、クラスに馴染めない私が許せなくて、クラスメイトとも上手くゆかなくて、自分を責めてふさぎ込んでしまったのではないかと思います。

 当時の私は、長谷川さんのそういった部分を考えようともしませんでした。

 皆さんの邪魔をしないよう精一杯なのを言い訳にして、クラスメイトひとりひとりを理解しようとしなかったのです。



 前置きが長くなりました。

 「長谷川泰花」さんを“友だち”に追加します。

 すると、メッセージが届きました。



『花村さん、久しぶりです。

 同じ高校だった長谷川泰花です。

 お話ししたいことがあって、内海からアカウントを教えてもらいました。』



 続いて、もう一件メッセージが。



『結音が突拍子もない行動に出るかもしれない。

 気をつけて。』



 “結音”というのは、根岸結音さんのことでしょうか。

 長谷川さんによると、根岸さんのSNSの投稿内容に危機感を抱いているのだそうです。

 



『高校生のときに、空気読まないで千羽鶴を折っていた馬鹿がいたw』

『そいつ、大きなものを家に入れられないから千羽鶴NGという人が、嫌がっているのに、千羽鶴を押しつけようとしてた』

『千羽鶴って、無駄な存在。そう思ってるのは私だけかなって思って、親戚とかに訊いてみたら、同意が多かった。やっぱりそうだよね』

『群馬で千羽鶴を折ってる人がいるって聞いたけど、もらう人のことを考えてないんじゃないかな。いい加減気づいてほしい』

『♯千羽鶴無駄』



 根岸さんは、そのような内容を最近になって投稿し始めたそうです。



『そのうち、花村さんを名指しでディスるかもしれない。

 気をつけて。』



 長谷川さんに「ありがとうございます」と伝え、ふと思いついたことも訊いてしまいました。



『根岸さんの知り合いに、多胡希(たご のぞみ)さんというかたはいらっしゃいますか?』



『うーん……聞いたことがない。ちょっと探りを入れてみるよ。』



 長谷川さんはそう返事をくれました。



 本当は、多胡さんのことを疑いたくありません。私の気の迷いです。

 多胡さんがどうであれ、私は千羽鶴を完成させるだけです。

 紺色の折鶴を折るのに夢中になっていましたら、日付が変わっていました。

 でも、100羽つくることができました。

 疲れた気がします。きっと気のせいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る