ブレザーを着ていた頃の自分達は (h)

 彼女は、入学式から1週間後の研修旅行に参加しなかった。

 6月の体育祭も、9月の文化祭も欠席した。

 彼女には、青柳と内海という友人はいたが、それ以外の女子からはまともな対応をされなかった。



 根岸という女子が訊く。

「花村さん、学校行事に参加しないなんて、何を考えているの?」

 彼女は俯いて「ごめんなさい」と呟く。

「謝ってほしいんじゃなくて、理由が聞きたいの」

 彼女が答える。

「祖父母の方針なの。学校には不参加を伝えている」

「あ、そう」

 根岸はあっさり引き下がった。

 しかし、すぐに別の女子が彼女に注意する。

「花村さん、注意されたのにその態度は何なの? 目を見て話すのが常識だよ」

 また別の女子も言う。

「泣きそうな顔をしない方がいいよ。不快に思う人がいるから」

 また別の女子も。

「花村さんて傲慢だよね。人のため、とか嘘つかないで」

 こんな調子で、1対1で彼女は女子から注意を受ける。

 青柳、内海、新田先生、男子などが割って入っても、女子は花村への注意をやめない。

 新田先生は何度も個人面談をしてくれた。それでも、女子の態度は変わらない。

 2年生になって、長谷川という女子が退学した。女子はそれを「花村がいじめた」と言いがかりをつけた。

 彼女は3年から、違うクラスに移った。



 10月のある放課後、俺は教室で受験勉強をしていた。

 休憩がてら食堂の自販機で飲み物を買う。

 自分のクラスに戻る途中、彼女のクラスの前を通った。

 出来心で教室をのぞくと、彼女がいた。

 俺は思わず教室のドアを開けていた。



「花村さん?」



 彼女ははじかれたように顔を上げる。

 黒目がちの大きな双眸が、こぼれんばかりに見開かれる。



「花村さん、勉強? ……じゃないね。うわ、すごく綺麗」



 彼女は千羽鶴をつくっていた。たったひとりで。

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