断罪

     ★☆★☆★


ひながランカーの存在にきづいた」

 きくものの臓腑ぞうふにまでひびく威圧的な声には、あきらかな断罪の響きがあった。

 入れ子の仮想現実空間ランカーの紗幕しゃまくのおくから、ラーヴァナはクンバカルナをみすえる。ざらついた声に、怯えの色がまざった。

「なんだよ、おっかねえな。予定どおりだろ? ちょっと早いかもしれねえが」

「予定どおりだ。ただ一点をのぞいては」

「……なんかあったのか?」

「それにこたえるまえに問う、クンバカルナ。いま貴様がいきていられるのはだれのお陰だ?」

「ん? どうしたんだよ、急に」

「こたえろ」

勿論もちろんアンタだよ、旦那だんな

「そうだ。表の社会でも裏の社会でも、とらえられれば死ぬしかない反社会的なクラッカーの貴様に、ラークシャサとしていきる道をあたえてやったのは、この私だ」

「感謝してるぜ、旦那には。お陰でオレは毎日こんなにおもしろおかしくいきていられる」

「ならば裏切りはゆるされない。わかるな」

「あ、ああ。もちろんオレが裏切りなんて、するは、ず……うぅっ」

 胸をおさえたクンバカルナの影はひざをおった。ラーヴァナは淡々と語りつづける。

「貴様のおろかな目論見もくろみなどとうに露見している」

「な……なんの、こ、とだか……」

「教えておいてやろう。貴様にはナノマシンを巣食わせてある。私がその気になればいつでも、貴様の心臓をとめることができる」

「――や、やめ……。オレは、な、なにも……」

「まだしらをきるのか? 貴様がひそかに保存しているランカーのログのことだ」

「……うあっ。……わ、わる、かった、わるかったよ。オレは、ただ……」

「貴様にひとつ選択させてやろう。私に永遠の忠誠をちかうか、それとも今すぐここでしぬか。どちらがいい?」

「ち、かう。ちかうから……。おねがい、ころさ……ないで……」

「ならばいますぐ、信者どものペンダントからすべてのログを消去しろ」

 責め苦からようやく解放され、地にころがったまま荒い呼吸を繰りかえす醜悪な肥満体を一瞥いちべつしたラーヴァナは、視線をインドラジットにむけた。

「インドラジットは引きつづき雛を監視しろ。状況がかわった。雛をにえにするのはもうすこしあとだ」

『了解』

 簡潔な返答に目をとおしたラーヴァナは、紗幕の奥で唇をゆがませた。

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