第18話 司書とイアラと

 司書のメイアは、久々に寺院へと向かっていた。以前は月に数回程、司祭が喜びそうな本をいくつかまとめて届けていた。

 軍のパレードが寺院に入り込んだ後は、寺院の警備も厳しくなった。ルナス正教の信者以外は、あの橋の上の検問所をなかなか通してもらえなかったのだ。


 しかし、内乱が静まりかけている今は、以前ほどの厳しさはない。


「司祭様に本をお届けに」


 そう告げて身分証を見せれば、新都心に住むジュルジール神教の信者であるメイアでも中に通してもらえるようになっていた。


 寺院の中庭は相変わらず良く手入れされており、サキアラの白く小さな花が満開になっていた。甘く爽やかな香りを胸いっぱいに吸い込んで、メイアはようやくこの美しい寺院を訪問できるようになったことを改めて喜ぶのだった。


***


「こんにちは。お邪魔します」


 メイアは礼拝堂の掃除をしていたイアラに声をかける。


「あら、メイアさんお久しぶりです」


 イアラは袖で額の汗を拭って、モップを椅子に立てかけると、メイアの元へ駆け寄った。随分と大人っぽくなった、とメイアは驚く。

 初めて会ったときには、しっかり者ではあったがまだまだ幼さが残っていた。しかし今は女性らしさが漂い、大人の落ち着きが見られた。


「こんな風に言うのは失礼かもしれないけど、大人っぽくなったわねえ。今、いくつ?」


 イアラは嫌な顔もせず笑顔を見せた。


「もうすぐ16歳になります。もう立派な大人ですよ」


 くすりと笑って軽く肩を竦めた。

 16歳と言えばもう家庭を持つこともできる年だ。それは落ち着きが出るはずだ、とメイアは一人納得する。


「司祭様に御用なんでしょう? また本を持ってきてくれたのかしら」


 よく聞けばその声も少し落ち着いて低くなっているように感じられた。


「鳥の写真集と、画集と、あとお勧めの小説をいくつかね」

「有り難うございます。司祭様のお心が少しでも和らぐといいんですけど。中尉さんがいなくなってから、すっかり元気がなくなられて……」


 イアラが暗い表情で呟くと、メイアは小さく何度も頷く。


「本気で気にかけてくれていた人を亡くしたんですものね。司祭様にとってはお辛い事でしょう」


 そう語るメイアは、割とさっぱりとした顔をしていた。リシュアという男は自分の望んだように好きに生きてきた。何故前線に志願したのかは聞くことができなかったが、本人が望んで行ったに違いない。ならばその生き様を受け入れるのが遺された者の勤めではないか。

それがメイアの考えだった。


「司祭様、さっき塔の方へ行かれるのを見かけたわ。行ってみましょう」


 メイアはイアラについて塔の方へと歩を進めた。

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