第14話 部下たちの時間
それから数週間後、政府と元老院の交渉の末にミサは再開されることになった。内乱の始まりから約1年が経とうとしていた。
「もう泣くなよユニー」
苛立つような声の主はアルジュだ。上司の戦死の知らせが届いてからというもの、ユニーは事あるごとにぽろぽろと涙を零している。今日もミサの警備の打ち合わせで皆が集まったのを見て、昔を思い出し泣いているようだ。
「なんだよ! お前悲しくないのかよ!」
しゃくり上げながら、ユニーが反論する。
「泣いてあの人が戻るなら僕だって大泣きするさ。そんなにべそべそ泣いてたら任務に影響するだけだろ。そんなの、彼だって喜ばないよ」
いつも通り淡々とした様子のアルジュだが、彼も泣きたい気持ちを抑えている。それを隣で我慢もせずに、ただ子供のように泣いている同僚に腹が立っているのだ。
「そうだな、あの人なら『泣いてないでさっさと見回りに行け』って言うだろうな」
ビュッカがユニーに懐中電灯を手渡しながら言うと、隣のムファがうんうんと頷いた。
「そうだな、『俺の分まで張り切って働け』って言うだろうな」
「『俺は司祭様のお茶会に行くから、お前たちは気を抜くなよ』って……」
そう言ってビュッカとムファが顔を合わせて小さく笑った。ユニーも涙を零しながらくすりと笑う。
「いざって時には便りになるけど、普段は暇さえあれば司祭様の所に入り浸ってたよね」
「『見回りしてきた』って言ってても、制服からクッキーの良い匂いがしててさ」
「僕知ってるよ。『貰った』って言ってたけど、イアラちゃんからクッキーとかケーキの作り方習って、自分で作ったのを持ってきてたんだよね」
いつの間にか皆わいわいとリシュアの思い出話に花を咲かせていた。
「──良い人だったよな」
「いい加減だったけど、部下想いだったよね」
そして急にしんみりとする。
そんな彼らの中で、一人話に混じることなく戸惑うような様子の青年がいた。ムファとほぼ同じくらいの年齢だろうか。
「俺達の上司の、カスロサ中尉だよ。──ああ、今は中佐か」
彼の様子に気付いたムファが話しかけた。
「グレッカ・ラギスを倒した英雄っていう、あの人ですか?」
「英雄か……そうだな。私達の英雄だ」
ビュッカが感慨深げに頷く。
青年の名はアギス・トゥーイ。リシュアがここを離れるにあたり、配属された新入りだ。彼が配属になり、ここの主任は軍曹に昇進したビュッカが当面の間務めることになった。
「そんなすごい人なら、お会いしてみたかったですね」
残念そうなトゥーイに、皆が口をそろえて答える。
「いや、すごくはないよね」
「あのユルさはある意味すごいけど……」
「中将に叱られてもめげないって、すごいかもしれないね」
実際にリシュアが聞いたら苦笑いしそうな会話が飛び交う。
「さあさあ、そこまでだ。打ち合わせで言ったように、週末のミサには応援が来るからな。中央警察の特務課と上手く連携して任務にあたるように。さっきみたいに言い合いなんかしていたら馬鹿にされるぞ。それこそ中尉の──カスロサ中佐の顔に泥を塗るようなものだ。いいな?」
ビュッカが厳しい顔で言い聞かせると、皆神妙な顔になり頷いた。
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