第127話 レベッカ―11
「…………」
少女は私達へ古めかしい魔銃を向け――斉射。
閃光が走ると同時に、叫ぶ。
「タチアナ、シルフィ!」
「ええっ!」「分かってますっ!」
私達は三方向へ別れ、全力での回避行動を開始。
足を止めたら……まず、間違いなく死ぬ。あの子相手に中遠距離戦を挑むのは愚か者のすることだ。
私は中央。タチアナは左。シルフィは右。
魔法障壁、『楯』は全力。王女様も短剣を抜き放った。
――上空より、禍々しい血光を放ちながら、無数の『矢』が飛来。
私が雷属性上級魔法『雷王壁』を張り巡らしながら広場を駆ける。
上級以上の防御魔法ならば、大概の攻撃は防げるものだけれど――
「貫通力が出鱈目過ぎるのよっ!!!」
上空から降り注ぐ『矢』は、私の『雷王壁』を容赦なく貫通。
辛うじて照準をずらし、直撃を避けることで精一杯。
少しでも気を抜き、一撃を喰らったら……無数の『矢』に射抜かれて死ぬ。
私は罵声を少女へ浴びせる。
「この技、最悪っ!!!」
「ですがっ――偽物ですっ!!!」
左からタチアナの戦意に満ちた反応。私に降り注ぐ『矢』の一部が『楯』によって、薙ぎ払われ、半瞬だけ隙間が生まれた――ここだっ!!!
双剣を重ね合わせ、突き出し、雷属性超級魔法『雷轟』を躊躇なく全力発動。
本物のエルミアならば、この程度の魔法でどうこう出来はしない。下手すると反射してくる。
そして言うのだ『――ん。温い。柔い。練り込みが足りない。はぁ……ハルが甘やかしたせい。そんな妹弟子を叩き直すのも姉弟子の務め。私、苦労人』。とか何とか言うのだっ、あの子はっ!
夜を凄まじい雷光が駆け抜け、白に染め上げる。遅れて轟音と突風。
――少女と視線が合った。
凄まじい悪寒。
少女の前面には、無数の『赤の楯』が形成。ちっ!!! 最悪っ!!!!!
舌打ちし、私は予備に紡いでおいた『雷轟』を瞬間発動。
跳ね返された超級魔法を相殺。
「なめるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
閃光と閃光の大激突。
周囲の『矢』が吹き飛び、魔力の余波で周囲の建物を破壊していく。
――二年前、ハルからもらった魔剣にひびが走った。
「っ!?!!」
超級魔法の連打に耐え切れず、魔剣が半ばから砕ける。
心中に凄まじい憤怒。これは、これはハルが、私に、くれたものなのにっ!!!
黒龍の剣に全力を込め、無理矢理、『雷轟』を抑え込む。
「レベッカさん、御見事ですっ!」
タチアナがその隙をついて、弾幕を突破。
地面を這うように、下方向から剣を振るい――『赤の楯』に阻まれる。
「甘いっ!!! エルミアさんは、こんなものじゃありませんっ!!!」
裂帛の気合と共に剣が『赤の楯』を切断。
『楯』が形を変え、光の巨大な刃へ。
少女は此処で初めて後退。長銃をタチアナへ向け
「私もいますっ!!!」
右から、シルフィが短剣を逆手に持ち構えている。
そこには『光弓』が顕現。
引き絞り、無数の白き矢が放たれる。
瞬きする間もなく、少女に着弾。そこへタチアナの『楯』が振り下ろされた。
地面が大きくひび割れ、後方の建物が倒壊していく。土煙が視界を閉ざす。折れた魔剣を鞘へ納める。
私達は油断せず、無数の魔法を紡ぎながら、引き攣った声で軽口。
「……今のは積年の恨み、ってやつなの? タチアナ」
「……うふふ。レベッカさん、いきなり『雷轟』の二連発動だなんて。エルミアさんが聞いたら、折檻されちゃいますよ?」
「さっきからそうですけど、御二人ともエルミア姫を御存知なのですか? しかも、親し気な御様子……今すぐ、説明が欲しいのですが……」
「後でね」「後ですね」
シルフィのぼやきに私達は素っ気なく応じる。
――前方から歩いてくる足音。
私達の全力攻撃を受けてなお、白髪、軍服姿の少女は無傷だった。
私は冷静に戦力分析。
「……エルミアじゃないわ。エルミアだったら、私達はもう死んでいる」
「ですが、あの攻撃を凌ぎきる。……強いです」
「技は『千射』。『楯』への変化も確認。けれど、私達でも辛うじて対応出来る水準。――エルミア姫の良く出来た偽物です。しかも、伝承が確かならば、あの軍服『華国』のそれ。つまり」
シルフィが話し終える前に、少女は銃床を地面へ、ドン、と付けた。そして、肩膝をつき、祈りの姿勢。
――凄まじい魔力が湧き上がってくる。
私は黒龍の剣を両手持ちへ。タチアナも余裕の色はなく、シルフィは既に弓を引き絞っている。
少女が呟く、
「……三神よ。我が国、我が民、我が身を害する者を滅する力を、我に与えたまえ……」
「「「っ!?!!!」」」
瞳を閉じ、言葉を呟いた少女の背中に四枚の羽が生まれた。まるで、妖精のように透けている。
ふわっ、と浮かび上がった少女はゆっくり、と瞳を開けた。
――血の如き深紅。
長銃を右手で構え、その先端には長大な刃が形成される。槍にもなる、と。
左手にも血色の剣身を持つ魔剣が顕現。
少女は私達を睥睨する。
私は呻く。
「これは……ちょっと洒落にならないわね」
「シルフィさん、先程の続きは?」
「おそらくですが」
王女様の頬に冷や汗が伝っていく。
私とタチアナもこの子が何を言うのかは分かっている。……出来れば違っていて欲しいんだけど。
「――この少女は『過去』のエルミア姫を模したもの。あの方が『千射』と謳われる前、『華国』の姫だった時代の」
「…………対抗策は」
一縷の望みで、聞いてみる。
……これもまた、答えは分かっている。
シルフィは微かに首を振った。
「ありません。その当時ですら、エルミア姫は私達の時代で言うところの『十傑』に入っていたそうです。あ、一つだけ希望があります」
「「何?」」
「全盛期の『千射』様よりは……数段弱いと思いますっ! 多分、きっと、おそらくはっ!!」
辺境都市の育成者 七野りく @yukinagi
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