第116話 レベッカ―4

 脱衣場で、さっさと服を脱ぐ。

 ひらひらのレースが付いた下着が目に入る。この前、タチアナに押し付けられた代物だ。正直、あんまし。

 ……そう言えば、どうしてあの子、私のサイズを知ってたのかしら。


「わぁぁぁ!」

「……何?」


 シャロンが両手を握りしめて、私をまじまじと見てくる。

 相変わらず瞳が大きいわね。


「ほら、さっさと脱ぎなさい」

「は、はいっ!」


 おどおどしつつ、服を脱ぎ始める。下着は清楚な純白。

 ……ちょっと痩せ過ぎじゃない? 

 後ろに回り込んで、ほとんどない肉をつまむ。


「ひゃっ! あ、姉様!?」

「……シャロン、ちゃんと食事は摂ってるの? 痩せ過ぎよ」 

「た、食べてます。た、ただ」

「ただ?」

「…………すぐ、そ、その……太っちゃうので、あの」

「? 食べた分、動けばいいじゃない。成長期に食べないと、背も伸びないし、色々、育たたないわよ。……で、後から後悔するんだから」

「あ、姉様は、その……と、とってもお綺麗になられましたっ」

「そう? ありがと。さ、早く、入るわよ」

「は、はいっ」


 下着を放り投げ、タオルを持ち温泉へ。

 短い通路を抜けると見えて来た。

 屋根付きの岩風呂だ。ここまで広いのは帝都にも多くはないだろう。

 流石、タチアナ。こういう時の選択は悪くないわね。

 シャロンが、目を丸くしてその場で飛び跳ねる。


「わぁぁぁ。す、凄く広いですねっ! わ、私、こんな豪華なお風呂、見たことないです!」

「シャロン。迷惑よ」

「は、はい……ごめんなさいっ」


 湯舟にいる女性が私達を見てくる。

 髪は綺麗な長い白髪。顔は恐ろしく整っていて、尖り耳――エルフ族だ。

 軽く頭を下げると、微笑んで手を振ってくれた。気にしてない、という意思表示。いい人だ。

 ……何処かの性悪エルフにも、是非見習ってほしいわね。 

 ただまぁ――。


「あ、姉様、姉様……む、胸って、大きいと浮くって、本当だったんですね。は、初めて見ましたっ」 

「シャロン……見るなら、後でタチアナのを見なさい」


 妹をたしなめるも、若干どす黒いモノが心に浮かび上がってきたのも事実。

 美形で、いい人で、胸も大きいって……反則じゃない。

 今度、エルミアをからかうネタにしないと。

 シャロンと並んで座り、髪や身体を洗っていると、湯から出る気配。後ろを通って行くさっきの女性。優しい声。


「いい湯よ。ゆっくり入って。を取ってね」 


 ……え?

 どうして、私が長旅をしたのが分かって――思わず、後ろを振り返った時には、もうその女性はいなかった。


「う~……あ、姉様ぁ。お、お湯を頭にかけてくださいぃ。目に、目に石鹸がぁ」

「……シャロン。まだ、苦手なの?」

「ち、ちょっとだけ、ちょっとだけ、です」


 呆れながらもお湯をかけてやる。

 目を開けた妹は恥ずかしそうに上目遣い。


「あ、ありがとうございました。……昔も、こうやって姉様にお湯をかけてもらいましたね」

「……そうね」 


 立ち上がり、湯舟へ。

 はぁぁ。確かにいい湯だわ。それにしてもどうして、あの人は。

 シャロンも隣に入ってきた。肩と肩が触れ合う。


「えへへ♪ 姉様~」

「きゃっ。シ、シャロン。ち、ちょっと」


 妹が嬉しそうに抱き着いてくる。く、くすぐったいっ。 

 だけどまぁ……悪くはない、かな。


「いいですねっ! 美少女姉妹で仲良しさんっ! はぁ……うちの団長とルナさんも、いい加減、意地の張り合いは止めて、こういう姿を私に見せてほしいものです。サクラさんとハナだと、こういう雰囲気にならないんですよね」

「! タ、タチアナ」

「はい♪ あ、少しお待ちを」


 気配なく現れた、ワイン瓶と硝子のコップが載ったお盆、そしてタオルを持った素っ裸の美女は呆れる私と、呆気に取られているシャロンを置き去りに、さっさと身体を洗い、温泉へ入って来た。

 ……っぐっ!


「うわぁぁぁ……あ、姉様……」

「…………シャロン、いい? 成長期に食べなきゃダメよ」 

「……は、はいっ!」

「大きくても良いことはあんまりないですよ? あ、でも、ハルさんに愛されるなら、むぐっ」

「タチアナ、私の妹の前でそういう話をしないでっ!」


 酔っ払いの口を押える。

 まったく……コップを渡された。


「レベッカさん、飲みましょう♪」

「あのねぇ……」

「あのあの……あ、姉様。この方は、そのいったい?」


 シャロンがおずおずと尋ねてくる。

 ああ、そう言えば説明してなかったわね。

 ……タチアナ、そんな期待に満ちた視線を向けても無駄よ。


「この子はタチアナ。向こうの知り合いよ。あんまり、近付かないようにしなさい。危ないから」 

「レベッカさん、酷いですっ! 私は、身も心もこんなに曝け出してるのにっ……結局、私のことは遊びだったんですねっ!」

「……まぁ――友人、よ」

「うふ♪」


 これ以上ないくらいのニコニコ顔。

 あ~もうっ。だから、嫌だったのよ。

 タチアナがワインを飲みながら、自己紹介をする。


「改めまして――タチアナです。レベッカさんとは恋敵ですけど、仲良くしていただいていています」 

「シ、シャロン・アルバーンです。えっと、あの……」

「うふふ♪ ほんと、可愛い方ですね。シャロンさん、一つお聞きしても良いですか?」

「は、はい」


 ――タチアナの雰囲気が変わった。

 羽目を外している様子が一変。迷宮都市最強クラン『薔薇の庭園』を支える、切れ者副長のそれ。



「今日、レベッカさんを訪ねて来られたのは、貴女自身の意思ですか? それとも――アルバーン伯爵の意思ですか? の方々はあっさりと気絶されてしまったので聞けなかったんです。お答え願いますか?」

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