第66話 メル―3

 屋根がない一面白い大理石が敷き詰められている皇宮の中心地点で、私とトマの前に立ち塞がった聖騎士――髭面で真面目そうな壮年の男です――が、床に槍の石突を叩きつけながら口を開きました。


「我が名はファイト。帝国聖騎士の第9席『巨人殺し』なり! 『閃華』メル殿と、『守護者』トマ殿とお見受けする。貴殿らの勇名はかねがね。然るに……何故、このような暴挙をなす! 今、止まらば、我が名に賭けて、寛大な処置を約束する!」


 この男は何を言っているのでしょうか?

 追撃が鈍るような処置はしましたが、通信は出来る筈ですし、その時間もありました。まるで、核心情報が伝わっていないような物言いですが……。

 疑問を抱いていると、トマが叫びました。


「うむ。聖騎士殿。ご厚情は有難く。が――闘争を望まれたのはそちらであるっ!」

「……何? 我等が闘争をだと?」

「ファイトのおっさん! 命じられたのは『皇宮絶対防御』だぞ? こいつ等は、陛下を暗殺しようとした連中の仲間。御託を並べてる場合じゃねぇだろうがっ!!」

「……グリム」


 聖騎士の後ろにいた、聖魔士――気の強そうな顔の青年です――が会話を遮りました。

 ……裏がありそうです。

 まぁ伏兵もいないようですし、舐めてくれているなら構いません。ハル様の教え通り各個撃破することにしましょう。

 目の前にいるのは、聖騎士と聖魔士が一人ずつ。それと約200名前後の近衛兵が剣や槍を構え、魔法を紡いでいます。

 此処に来る途中で蹴散らしてきた兵よりも数は多いでしょう。

 

 ――多少の数的劣勢なんて私の前では無意味ですけど。

 

 双短剣を軽く振り、『鋼』属性上級魔法『鋼鎧機兵』を発動。

 私達の前方に、トマの三倍ほどもある魔法陣を複数構築――発動。大きな金属音が響きます。

 それを見た聖魔士が、咄嗟に命令。


「撃て!! 召喚させるなっ!!!」

「グリム! 指揮官は――」


 聖騎士の叱責は、聖魔士が発動した上級炎魔法と、兵士達の魔法に掻き消されました。多数の魔法が私達にも殺到してきます。が――それらの悉くが十二枚の大楯によって破砕。兵士達からは動揺の声。

 私達の前に並んでいたのは、右手に長槍、左手に大楯を持った十二体の鋼の機械兵達です。

 壮観ですね。気持ち多めに出してみて正解です。

 私が悦に浸っていると、聖魔士の呻き声が聞こえてきました。


「馬鹿な! これだけの数を同時召喚するだとっ!!?」

「うふふ、私達、『盟約の桜花』は現在大きく三組に分かれています」

「な、何を言って?」

「王都には四隊が。同じく自由都市にも四隊がいます」

「だから、てめえ、さっきから何を言ってやがるんだっ!!」

「……待てグリム。そういう事か」


 聖騎士が、苦虫を噛み潰したような表情になっています。帝都の私達がどういう編成をしているのかを知っているみたいですね。

 トマ、どうして後退りしているんです?


「そして、私が率いている帝都組は、このトマが率いている部隊と、『氷獄』のリルが率いる部隊の計二隊のみ。その理由は」

「……貴殿が、単独で二隊分の活躍を示すから、か。だが、所詮は人形。我等には勝てぬっ!!」

「うふふ。それはどうでしょう? トマ」

「うむ! 分かっている!!」


 機械兵達が動き始めます。

 狙いは、六体が聖魔士。残り六体が近衛部隊です。

 その横をトマが疾走し、聖騎士と激突! 

 大剣と槍とが火花を散らします。

 それでは私も次の準備をしましょうか。

 双短剣を重ね合わせ、魔法を紡ぎ始めます。


「うむ! 我が一撃を止めるとは! 流石は聖騎士殿だ!!」

「ぐぐっ……な、何と重く、速い一撃なのだ……貴殿、本当に人間かっ!?」


 トマが楽しそうに大剣を振るう度、聖騎士が押されていきます。あの分なら、問題はないでしょう。

 奥を見ると――阿鼻叫喚の光景が広がっていました。


「な、何なんだ! 何なんだっ!! こいつ等は!?」

「速すぎる! 下手な、魔物よりも明らかに速いぞっ!」

「魔法が効かない! その大楯を何とかしてくれっ!」

「俺の、俺の腕がぁぁぁぁ!」

「足を、足を拾ってくれっ!!」


 機械兵達に、近衛の軍列が蹂躙されています。

 その子達、下手な中級悪魔よりも厄介ですからね?

 聖魔士は――ほぉ。


「俺様を舐めるなぁぁぁ!! この木偶共がぁぁぁぁ!!!」


 炎が機械兵達を飲み込んでいきます。上級魔法『大炎波』の連打ですか。足止めにはなりましょう。

 聖魔士が憎悪の視線をこちらに向け、杖から炎魔法を発動――する前に、私が紡いでいたモノを見て表情が凍り付きました。


「……ば、化け物がっ! そ、その規模の魔法をこの短時間に!!?」

「失礼ですね。トマ」


 聖騎士を追い詰めていた、我が弟弟子に声をかけます。

 私をちらりと見て、引き攣った笑顔となります。


「むむむ!! あ、姉御、それは流石に過剰攻撃ではないかっ!?」

「『余裕があるなら過剰で丁度いいよ』と、教わりました。それと後衛なら、絶対に一度は真似るんです。憧れですから――ああ、皆様、動かないでくださいね? 私、『千射』様みたいに繊細ではないので」

「う、うむ? 大姉御は決して繊細では――」

 

 『鋼』属性特級魔法『鋼槍千雨』を発動。

 

 一面に、超高速で鋼槍が降り注ぎ、次々と床を貫通。大理石を砕いていき、視界が真っ白に染まっていきます。

 ……自分で考えた魔法ですが、相変わらず可愛くありません。

 エルミア姉様の『千射』はそれはそれはもう美しく、えげつないのですが。

 

 さて――仮にも帝国最精鋭を謳われる聖騎士と聖魔士。この程度で終わりではないでしょうね?

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