第42話 ロス
「ロス、お帰りなさいぃ。待ってましたぁ。大事な話がありますぅ」
任務を終え、王都の『盟約の桜花』クランホームに戻った直後、僕を呼び止めたのは、満面の笑みを浮かべているサシャでした。どうやら、僕よりも早く任務を終えたようです。相変わらず、仕事が早いですね。まぁ、君、基本的に凄く真面目ですから。納得ですけど。
それにしても――
「帝都から緊急会議要請? しかも、映像宝珠を使って?」
「ですぅ。ただし、私達限定みたいですぅ」
「何時です?」
「今すぐにでもって言ってましたぁ」
「ふむ……サシャ、二人には?」
「サクラに伝えたらぁ『どうせ厄介事か、メルがやりたくない案件でしょ。私は聞かなかったから、内容をロスにまとめさせておいて』ってぇ。もう、鎧翼竜討伐に行っちゃいましたぁ」
「……ファンは?」
「『わざわざ映像宝珠を使っての会議……うむ、間違いなく小難しい事だろう。俺には分からんだろうから、全てロスに任したっ!』。下級悪魔討伐へ嬉しそうに出ていきましたぁ」
「…………サシャ」
「私は残りますよぉ? だって――出ないと凄く後悔しますしぃ」
とてもとても悪い笑顔だ。まるで詐欺師のような……つまり。
ああ、なるほどそういう事ですか。
「わざと、二人を外に出させるように仕向けましたね? 何に気付いているんです?」
「違いますよぉ。最後まで言う前に、二人が勝手に出て行ったんですぅ。今回の案件、多分ですけどぉ……せんせぃ絡みだと思うんですぅ」
「!? せ、先生が、僕達に、ち、直接依頼をされてきたと?」
「メルの様子がぁ、とっっても変だったんですぅ。心ここにあらずというかぁ、浮かれてましたぁ」
「……なるほど。確かにそれは信憑性がありますね。まぁいいです。聞いてみれば分かることですから。それじゃ行きましょうか」
「ですぅ」
サシャをうながし、広い廊下を歩き出します。
王都の我が『盟約の桜花』クランホームには、実戦部隊とそれを支える整備部隊、そして経理、事務、調理組等々、100名以上が常駐しているので、3階建ての屋敷を使用しています。確か、旧大貴族所有の物だったとか。僕個人からすると、少し広すぎますがうちの
それにしても、仮に先生からの依頼だとしたら……快挙だと言えます。
あの方が僕等を助けてくださることは、今まで無数にありましたが、僕達への正式な依頼は記憶にありません。
おそらく、今まで遠慮なく先生が頼りにされたのは『千射』『天騎士』『天魔士』『神剣』『星落』位でしょうか……下手すると、それぞれが一国相手に戦争をして勝ちかねない、あの人外を通り越している姉兄弟子達です。
その方々に僕達が並ぶ! 心が踊ります。遂にそこまで来た、のかと!
……いえ、こういう時こそ落ち着かないといけませんね。あくまでも先生絡みというのは、サシャの推察なのですから。
「顔がにやけてますよぉ?」
「貴女も人のことは言えませんよ?」
「ふふふぅ♪」
「はっはっはっ」
丁度通りかかった、魔法士が顔を引き攣らせて、足早に去っていきましたが、気にしません。何故なら、今、僕はとても上機嫌ですから。
※※※
『ロス、サシャ、元気そうですね』
「そちらも」
「元気ですぅ」
『サクラとファンは……やはり来ませんでしたか。ふふふ、素晴らしいです。予定通りです』
クランホームの大会議室、そこに投影されていたのは帝都組を指揮している副長『閃華』のメル。普段は、冷静沈着にして的確な指揮をする彼女ですが、なるほど浮かれています。
後ろの席に座っているのは、やはり帝都組の『守護者』トマと『氷獄』のリル。そしてもう一人の美少女は確か
「メル、『雷姫』殿まで同席してるということは」
『察しがいいですね。そう! 今回の要件は――これです!』
メルが一枚の紙を近づけた。
心臓が動悸する。まさか、本当に?
「メル、それ、ほ、本物なんですかぁ?」
『ふふふ、本物ですよ。間違いなく、ハル様からの『正式依頼書』ですっ! ここを見てください。正式書類の場合に押されるという印もはっきりと!! 今まで、口頭でお願いをされた事はありましたが……遂に、遂にこの日が……』
「それで、内容は?」
『おや? ロス。嬉しそうじゃありませんね? 王都からも参加させるよう、との条件指定があったのですが……そちらはサシャだけで?』
「待ってください。心から喜んでます。喜んでいますが……突然の事過ぎて、理解が追いついていないんです。状況を説明してください」
『いいですよ。そうですね、まずは――』
メルの説明は、驚くべき内容でした。
先生に剣を向けた大馬鹿者がいた事。
それに『宝玉』の現当主が関わり、帝都組は先生から、宝石? 研磨の依頼を請けた前当主と新しい妹弟子であるタバサ嬢の護衛を依頼されたこと(口頭及びお願いベースだったそうですが)。
自重を、という先生の命に背いてシキ家をメルとトマが強襲し、奇妙な相手と交戦したこと。
そして、僕等が回収し送った宝石が『魔神の欠片』と呼ばれる物であり、先生がそれを集められようとしていること。
……何から突っ込めばいいか分からないですが、サクラに伝えるのは危険な内容過ぎます。サシャ、歯ぎしりが凄いですよ?
『昨日、迷宮都市にて二つ目の『魔神の欠片』を入手されたそうです。向こうにはハナがいますが、人手不足とのこと。そこで、私達へ護衛の依頼が来たのですっ!』
「……色々、突っ込みたい事はありますが、それは会ってからじっくり聞かせてもらいます。サシャも」
「この女ぁ……せんせぃの情報を秘密にするなんてぇ……そっちへ行ったらぜっったいに泣かせてやりますぅぅぅ」
『お待ちしてますよ。では、王都組は貴方達。こちらからは、私とトマが――』
『待つ』
『待って』
今まで発言してこなかった、銀髪の幼女(と、言っても僕よりは遥かに年上だ)と、白金の長髪が美しい『雷姫』が口を開きました。
『何かしら? 取りあえずこの場で話す事はもう何も』
『嘘』
『嘘ね』
『な、何を……』
――妙な雰囲気。先程までとは一転、メルが狼狽の色を見せています。
ちらりと、トマを見やると、両目を瞑り軽く首を振りました。ふむ……どうやら、裏がありますか。
『メル、依頼書の二枚目を見せて』
『ハルはとても暖かったし優しかった。だけど、約束を破るのを黙って許す人じゃないわ――貴女も分かっている筈よね? 何を隠しているの?』
……どうやらまだ、この場の話は終わらないようですね。
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