第26話 タバサ―9

「はぁ……純白の服を着た、小さな女の子、ですか?」

「そうっ! これでよっ! 間違いないんだからっ!」

「……タバサお嬢様、少しお疲れなのでは? 紅茶を飲んで落ち着いて下さい」


 興奮している私を、ニーナが怪訝そうな表情で見つめ、紅茶を勧めてくる。

 ――美味しい。私が普段飲んでいるそれよりも上質ね。

 本当にここの食べ物は全部外れ無し。昨日の夕食で食べたホワイトシチューも初めて食べたけど、美味しかったし、今朝の朝食も。ホットケーキって甘くなくても美味しいのね。昼食も楽しみ――って、違うっ!!


「おや? タバサも戻って来てるのかい。味見用ケーキがもう一切れ必要だね」

「ハル、タバサお嬢様を甘やかさないで下さい。もう三日目なのにまだ何を選ぶのか決めていらっしゃらないんですから……その上、一人が寂しいからといって、妄想まで見られるなんて……」

「妄想じゃないわよっ! 本当にいたんだから! あ、ケーキは食べたいです」

「ふふ、楽しそうだね。今日の夕方で勝負は終わりだから、それまでに何か選んでくれると嬉しいな」

「……だ、そうです。紅茶を飲んだらお戻り下さい」

「ええー」

「ええー、じゃありませんっ!」

「いいじゃないか。休憩は大事だよ」

「ハル様がそう仰るなら」


 うぅ……ニーナが厳しい。

 しかも、何時の間にか『ハル様』だし。貴女、あっさりと靡き過ぎじゃない?

 まったくもう――


「あ、ハルも聞いて下さい。倉庫に女の子がいるんですっ! 白い服を着た、私よりも年下で、とっっても可愛い!」

「へぇ」

「申し訳ありません。タバサお嬢様は寂しがりやさんでして、お一人で倉庫にいるのが駄目なのです」

「ニーナ!」

「事実ですから。一人で夜寝れないのは誰ですか?」

「むぐぐ……で、でも今回のは本当なのっ!」

「二人は本当に仲良しだね。昼食前だから、少しだけ。ニーナもね」


 ハルさんが優しい笑みを浮かべながら、私達に小皿を差し出してくる。

 載っていたのは、白いケーキ。う~ん、白続き。

 フォークで切って口へ。はぁ、幸せ……。 


「レアチーズケーキだよ。もう少し砂糖を抑えた方が良いかな?」

「美味しいです、とっても」

「ハル様の作られるお菓子やお料理は見た事もない物ばかりです」

「――また甘やかしてる。ズルい私にもして。あと、荷物が来る。先触れがきた」


 呆れた口調でエルミアが入って来た。相変わらずのメイド服姿。似合い過ぎ。

 今、ニーナが着ているのも同じ物で、曰く『ふ、普段着ているのと素材が全く違います、こ、これは……』と絶句していた。

 因みに私は、ハルさんが貸してくれている作業服姿。半ズボンってこんなに動きやすいものだったのねっ!


「今日は何処からかな?」

「――西都」

「また遠方な……ニーナ、悪いんだけど、食べ終えたら荷物を受け取って来てくれるかい?」

「分かりました、昨日と同じでよろしいんですね?」

「うん。第一倉庫へ運んでおいて。それと、これを彼と彼女に」


 そう言ってハルさんが何もない空間から布に包まれた物をニーナへ手渡す。

 あ、もうこれ位じゃ驚かないから。

 それよりも――

 

「はい! これは?」

「僕からの差し入れと伝えてくれれば分かるよ」

「ハルさん、私も興味がありますっ! 一緒に行っていいですか?」

「……タバサお嬢様……」

「……子ネズミ一号……」


 ニーナとエルミアから可哀想な生き物を見る視線。

 だって気になるんだもの。

 もう選ぶ物は絞ってあるから夕方までには間に合う……筈よ。


「勿論。何事も経験だからね。色々、は大事さ。僕は昼食の準備をするよ」



※※※



「うわぁ……」

「サインしました。これ、ハル様からです」

「助かる。有難い。空の上で食べさせてもらう」


 廃教会の外にいたのは、不愛想な男と巨大な蒼い飛竜だった。

 その横には、大きな木箱。

 これを持って西都から来たのね。私、こんなに近くで飛竜を見たのって初めてだわ。


「あ、あのっ!」

「何だ?」

「この子撫でていいですか?」

「構わないが、怖くないのか?」

「へっ? 何でですか? こんなに綺麗で優しそうな子なのに」


 男が驚いた表情をしている。ニーナは呆れた表情。

 ――そんなに変な事言ったかな?

 ゆっくりと鼻筋を撫でる。へぇ~思ったよりざらついてないのね。 

 飛竜は気持ち良いのか、グルル、と声を漏らしている。

 良い子っ!


「ありがとうございました。可愛い子ですねっ!」

「あ、ああ」

「……タバサお嬢様は、時折、本当に凄いですね」

「?」


 二人が一様に変な反応。

 もう! さっきから何なのよ!


「では行く。お前らは新しい教え子か?」

「そうです」

「そうか。頑張れ。また来る」

「はい!」


 男を乗せて、飛竜は飛び立って行った。またね!

 それにしてもニーナ、貴女の中でもうハルさんは『先生』なのね。

 いやまぁ、私だって出来ればそうなってほしいけど。

 それにしても……この荷物どうやって運ぶの?

 

「荷物はこれに仕舞います」

「アイテム袋?」

「はい。その大容量版との事。ただし……これ程の物は滅多にありませんが」


 木箱を収納。こうやって倉庫へ運んでたのね。

 さぁ、戻り――ニーナ?


「そこのお二人、ハルさんの新しい教え子さんですか?」


 振り向くと、立っていたのは長い髪が綺麗な若い女の人だった。ニーナより少し年上かな?

 着ているのはこれ、冒険者ギルドの制服だったような。



「私は辺境都市冒険者ギルドのジゼルと言います。ハルさんとあのサボり魔――エルミア先輩はいますか?」

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