幕間 神様少女と少年の旅立ち

 ドクトールがルーナに薬について教えるもらうようになってからおよそ3年の月日が経った。

 3年の間にドクトールは暇を見つけてはルーナのもとへ行き、薬の作り方や薬草の効能などを習った。

 度々村を出ては森へ入っていくドクトールを不思議に思った村人が彼の後をつけたことにより、ルーナの存在が村人達にバレてしまったりもしたが、ドクトールが村人にルーナを紹介したことによって時間はかかったが、ルーナは村の一員として村人全員から受け入れられるようになった。

 薬草採取のため相変わらず森に住んではいるものの、ルーナも村に馴染んできたある日のことである。

「ルーナさん。僕、この国の中心に……ケジャキヤに行こうと思うんです」

「え?」

 ルーナの家でドクトールは覚悟を決めた表情でそう言った。突然のことにルーナは思わず呆けたような声を出してしまう。

「昨日、ケジャキヤからお医者さんの先生が村に来たんです。そこで僕が薬学師を目指していることを知って、先生の病院で働いてみないかと誘ってもらえたんです」

 それはルーナの知らない村の情報だった。森の中で薬草を探したり、家でドクトールに薬について教えたりして過ごしているルーナは村に行くことはあまりない。彼女が村人と仲良くなるのに時間がかかったのもそれが原因だ。

「僕、ケジャキヤで医者の勉強もしようと思うんです。ルーナさんから教わった薬の知識も合わせて、ケジャキヤで医者の資格を取るつもりです」

「そう……ですか。頑張ってくださいね」

 ドクトールの言葉にルーナは少し寂しさを覚えるが、彼が決めた道だ。自分が邪魔をしていいものではない。だからルーナはドクトールの決心に対して水を差すようなことは言わず、ただ彼を応援した。

「それで、ルーナさん。僕はケジャキヤで医者の資格をとったら村に診療所を作ろうと思うんです」

「え?」

 てっきり、そのまま村を出てしまうものだと思っていたから、予想していなかった言葉の続きにルーナはまたしても呆けたような声を出してしまう。

「この村にはまだ医療ギルドの施設が何もありません。かといってウチみたいな小さな村には病院を建設できる程の広さも病院を運営できる程の人手もありません。だから村に小さな診療所を作りたいんです。だから、ルーナさん」

 ドクトールはじっとルーナの目を見つめる。

「僕が診療所を建てたら、そこで一緒に働いてもらえないでしょうか?」

「え? ええ⁉」

 3度目の呆けた声は、すぐに驚きの声へと変わった。

「る、ルーナさんは村にはなくてはならない存在ですし、村を離れるといっても、僕もまだまだルーナさんからいろいろ教えてもらいたいですし……だ、ダメ……でしょうか?」

 そう言いながら不安そうにルーナを見つめるドクトールの顔は、頬が少し赤くなっているように見える。そんな彼の姿がなんだか可愛くて、愛おしくて、思わずルーナは笑ってしまった。

「ええ、待ってます」

 ルーナは優しい声でそう返した。


 それから数日して、ドクトールは警備隊の護衛と共にケジャキヤへと旅立った。教え子の旅立ちにユキは寂しさを感じたが、笑顔で彼の乗った車を送り出した。

 2週間に1回はドクトールからの手紙が届き、彼の近況を知ることができた。遠距離恋愛のようでなんだか嬉しかった。

 そんな生活が1年程続いた時だった。


 ドクトールからの手紙がぱったりと止んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る