第122話
「両閣下、ようこそおいでくださいました」
出迎えたのは町長だった。彼は侵攻の際はあえて踏み止まって無用な略奪をさせないために尽力したので、ゲンブ大帝に認められてそのままこの町を任されていた。そして戦後もそのまま町長として激動するこの町を見守っていたのだ。
「いやはや、ゴ・ズマが引いてからはここを宿に使うだけの格の方は両閣下ばかり。このままでは数年持たずに閉鎖するかどうかを考えねばなりません」
半分冗談、半分本気で町長はこの建物について語る。ここは世界帝国ゴ・ズマの幹部の宿泊を念頭に置いて建てられたので、一般客を宿泊させるにはあまりに規模が大きすぎたのだ。
「大丈夫。そのうちエリ女王も定期的に来るようになるだろうからね」
ソウタたちがこの宿を使うのはこれで三度目。装飾こそ質素というが、それでも壁紙や調度品などが整っており、カ・ナンの平均的な屋敷よりかなり豪華である。
「さて、風呂に入るか……」
ゴ・ズマの幹部たちは大帝の影響で入浴が習慣化していたので、ここにも湯船が備わっていた。事前に手配がされていたこともありすでに湯は適温。ソウタが先に入り、その後でヒトミとリンが一緒に入る。二人は旅先の湯では背中を流し合う仲だった。
「あの二人は仲がいいんだよな……」
中学・高校時代のヒトミの事を思い出しても、そこまで深く付き合いがあった同性が居たのか記憶が無いことに思い当たる。
またヒトミはソウタの“女たち”のうち、今のところアンジュ以外とは全員ソウタと共に床を共にしていたが、リンへのそれが、幼馴染のエリや使用人のファルルとも若干異なっていたことに思い当たる。
(アンジュとはどうなんだろうか……)
平時は苦手なタイプの一人だったはずのメリーベルは完全に圧倒してしまっているのを知っているだけに、アンジュが戻ってきて、かつ自分との関係を約束通り維持発展させてほしいとなった場合、ヒトミとどうなるのかは純粋に興味があるところだった。
ともあれ風呂から上がったソウタは温めの穀物酒を飲みながら牡蠣の燻製を肴につまんで二人が上がるのを待つ。入浴後は夕食である。
この日の夕食は前菜に地元の野菜のお浸し。その後に穀物のライメを中心に、ガンプから水揚げされた魚や甲殻類、貝類を合わせて炊き込んだパエリアのような炊き込み料理。ナマズの塩釜焼と、鳥の出汁に豆類を入れたスープが食卓を飾った。
「ゴ・ズマの料理人の下に就いた者が作った新たな料理です」
ライメはゴ・ズマが持ち込んだ東方の穀物で、こちらでは試しに栽培が始まったばかり。今はゴ・ズマの北方方面に送るために輸入が続いているので潤沢に消費されているが、今後はこの作物が定着するかで料理も変わっていくであろう。
「香辛料もふんだんに使ってるんだね」
「はい。これまで香辛料は金の重さと同じ値段でしたが、今や銀と同じ値段にまで落ちましたので」
これまで東方産の香辛料はかなり割高でしか手に入らなかったのだが、生産地を押さえたゴ・ズマが自軍のために持ち込ませているので、東方商人も割高で販売ができなくなり、自然と値が下がっていたのだ。
デザートに出てきた果物も、少々種の大きなバナナに似たもの。青いうちに収穫し、二週間ほどかけて熟したものを持ち込んだものだった。無論今までこの地域では入手困難な一品である。
「ガンプはこの地域の貿易の中心になってきている訳か」
「はい。おっしゃる通りです」
そのガンプをカ・ナンは手に入れているのだ。順調に国際貿易都市として発展させれば、カ・ナンの国力は飛躍的に向上する事に疑いはない。
食後は三人で翌日の日程の確認を行う。
「閣下、明日は午前中に海軍の建造ドッグの視察。午後は奥様がメリーベル“提督”と共に三日間のご予定で周辺海域の警備航海にご出港。閣下は湾岸の視察と、順調でしたらアンジュさまたちクブルのご一行がガンプに到着予定ですのでお出迎えと歓迎パーティーの予定です」
「……。アンジュには酷い事したからな……」
クブルの方を見つめるソウタ。カ・ナンに残って共に戦いたいと訴えていた彼女だったが、ソウタたちは強引にクブルに送り返していたからだ。リオウからは感謝されていたが、アンジュには絶対に詫びねばならなかった。
「アンジュさまは聡明なお方です。事情はよくご存知でしたから、きっと大丈夫かと」
リンはそう言って慰めてくれるが、本当のところは会ってみなければわからない。
「いずれにしても、明日からしばらくは……」
「だからソウタくん、今夜はリンさんが最優先だよ」
「ほ、本当によろしいのですか?!」
改めて驚き尋ねるリンに、ヒトミは微笑む。
「確かに私は海に出ちゃうけど、今朝もしっかりもらってるから。リンさんは一週間以上御無沙汰だったでしょ?それに次も同じくらい空いちゃうみたいだから、今夜しっかりもらわないと後悔しちゃうよ」
目を潤ませたリンがソウタの方を向くと、ソウタは笑顔でリンを抱き寄せた。
「寝込まない程度には頑張るから、今夜はよろしく頼む」
「ソウタさま!ソウタさま!」
こうして同じ床で一夜を過ごした三人。いつものように夫婦二人掛かりでリンを果てさせると、朝まで安らかに眠ったのだった。
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