第103話

『砲撃、来るぞ!!』


 地表で大きな花火が次々炸裂したような閃光と炎、そして轟音が一帯に轟く。


「こいつは強烈だな……」


 ゲンブ大帝は豪胆にも微動だにしない。実際、本陣の天幕には被害は無かった。だがその周囲に着弾し、馬防柵を守備隊ごと吹き飛ばしていた。


 砲弾はソウタたちの眼前でも着弾した。


「ぐうっ!!」


 爆発の破片が耳元を掠めた。しかし幸い彼らに被害は無く、逆に相対していた強力な敵部隊が綺麗に消え去っていた。運は彼らに味方していたのだ。


「これならいける!」


 隙を突いて一気に前進するソウタたち。だがすぐに穴を塞ごうと敵が集まってきた。ここはゴ・ズマの中枢なのだ。


(やはり厳しすぎるか?!)


 ソウタの脳裏に濡れた布団のように重たい不安が過ぎって来た。幸運が舞い込んでも大帝には届かないのかと目の前が暗くなってしまう。


「みなさん怯まないで下さい!ここを抜ければもうすぐなんです!」


 怯んでしまったソウタより、ヒトミの方が勇敢だった。混乱の渦中で堂々と身を晒し、闇夜に冴える七色に光り輝く旗を振って皆を鼓舞していた。


「ヒトミは凄いな……」


 それは今までソウタが見た事がないヒトミの将軍としての姿だった。戦場に立つ戦女神はこんな姿をしていたのかと、凛々しさと美しさに見惚れてしまう。


 それだけではない。押し寄せてくる敵を相手に部下たちと共に二丁拳銃で立ち向かうメリーベル。混乱の渦中で適格に敵の指揮官を見出して、矢を放って敵の動きを止めるアタラ。皆、勇敢で強く、美しかった。


 ふと気が付くと股間がびっしょり濡れていた事に気が付く。いつの間にか緊張と恐怖から失禁していたのだ。


「俺、何やってんだよ」


 思わず笑ってしまうソウタ。その様子を偶然目にしていた者たちは、ソウタの豪胆さに奮い立っていた。


「宰相閣下は笑っておられるぞ!」


「よし、このまま突き進め!」


 態勢を立て直した者たちが敵陣に再び向かっていく。猟兵と海兵、そして馬を失った騎兵たちがその場で連携して前進している光景が見えた。


「みんな凄いな……」


 ふと音に気が付き横を見る。するとヒトミに向かって突撃してくる敵部隊を見つけた。騎馬部隊の小集団だが、一塊になって突っ込んでくる。


「俺だけ無様を晒すわけにはいかないよな!」


 ソウタは肩から下げていたM3サブマシンガンを構えて引き金を引いた。これはリュウジの会社の社員がカ・ナンに持ち込んだ機械で作ったシロモノだった。


「うおおおぉぉぉぉ!!」


 弾倉が一つ空になるまで連射すると、敵の一団はなぎ倒されて地面に転がっていた。ソウタは人を殺してしまった罪悪感より、自分の仲間を、妻たちを守った意識が圧倒していた。


「ありがとうソウタくん!」


「いや、これからだ!」


 さらに喧騒と共に大勢が迫ってくる気配が。先ほどとは比べ物にならない何百という敵が迫っていた。


(さて、どうする?!)


 十騎程度の集団であればサブマシンガンで相手もできるが、何百という敵にはソウタの装備でも無力である。男気だけでは妻たちを守れないのだ。


 その時、別方向から銃声が轟き、向かってきた敵部隊が壊乱した。


「閣下ぁ!」


 ソウタたちの眼前に現れたのは、白襷をかけた義勇兵たち。指揮していたのはリョウカだった。


「閣下、お待たせしました!」


「お前たち!」


 義勇兵たちの果敢な攻勢。その勢いに押される敵軍。 


「大隊長殿の命令で、閣下の救援に参りました!」


 敵中で孤立してしまった義勇兵たち。指揮するドミナントは、敵に背を向け撤退するのではなく、あえて正面を突っ切って、ソウタたちと合流して活路を拓こうとしたのだ。


「このまま我らが穴を穿ちます!閣下は大将首を!」


「わかった!!」


 ソウタとヒトミの下に、アタラ、メリーベル、ヒイロ、その他の強襲部隊の面々が集まった。


「行きましょう!大帝はもう目の前です!」


 鬨の声を挙げる一同。合わせてソウタはATVを思い切り吹かして爆音を響かせる。そして炎と肉が焼け焦げる煙の中に先陣きって飛び込んでいった。

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