第101話
『て、敵襲!!』
異質な光の出現で、ようやくゴ・ズマは敵が反対側に侵入していた事に気が付いた。
「あ、あんな場所だと!?」
しかも出現したのは本陣の周囲を固める近衛部隊の配置場所、その特に手薄な場所だった。幹部たちは大いに慌てる。
「何としても食い止めろ!」
だがすでに近衛さえ“最低限”の備えを残して前線に向かっていた後である。目下、カ・ナン側の想定を遥かに上回る好条件で事態は進んでいた。
「野郎ども!アタシらが一番乗りするよ!」
『おう!!』
先陣を切ったのは原付とバイクで構成された海兵団。一斉にライトを集中させて目くらましさせながら敵陣に突入する。
メリーベルはオフロードバイクのエンジン音を辺りに撒き散らす。呼応して部下たちの原付もエンジン音を吹かし、あわせて大音量のサイレンまでかき鳴らす。
「な、なんだこの音は?!」
今まで聴いたことがない不気味な野獣の咆哮に、兵たちは怯え始めた。
「そーれ!ぶち込むよ!」
疾走しながら団員たちの銃が火を噴き、さらに手投げ弾が宙を舞い炸裂。ここでも激しい混乱が巻き起こる。
海兵団の銃が火を噴くと、軽装の者だけでなく、全身に鎧をまとった大男さえ遥か先で倒れていく。そして駆け寄った従者たちは、分厚い甲冑に穴が開けられているのを見ると、慌てて逃げ出していく。
「はるか先から、鎧が撃ち抜かれているぞ!」
「奴らの武器はどこまで届くのだ?!」
彼らの周りはかがり火や火災で明るくなっていたので、立ったまま向かえば遥か先から狙い撃ちされてしまう。臥せって這いながら向かうしかないが、この混乱の渦中で恐怖に駆られて前進できないどころか逃げ出す者さえ多数。
メリーベルはレバーを引いて再装填して銃を撃つ。遠くに見えた派手な装飾の相手は、すぐに倒れて周りに人が集まったので、部下たちもそこに次々発砲する。やがて大慌てで逃げ出し、相手の姿が消えてしまう。
「ハハッ!いいねぇこの銃は!」
海兵団だけでなく、強襲部隊全員に配備されていたのは、苦心して製造に成功した後装式のボルトアクションライフルだった。
筒先から弾を篭めるのではなくレバー操作で後ろから装填するため再装填が早く、命中精度も火縄銃とは比べ物にならないのがこの方式の銃である。
実のところ銃そのものの製造は日本から持ち込んだ工作機械や部材を使って、比較的容易に製造できたのだが、実包の製造が難題だった。
この銃の性能を発揮させる為には金属製の薬莢と、内蔵された火薬を発火させるための雷管が必要だった。だがどちらもカ・ナンで生産するのは極めて困難だったので、ソウタは最初から見送っていた。
だが金属製の薬莢は日本で中古のプレス機械の調達に成功したことで目処が立ち、雷管についても製作した硝石から一度の戦闘で使い切ってしまう程度の量だが製造に成功した事で、この戦いに用いる分の実包を準備する事ができたのだ。
「お前たち、この銃の一発は金貨10枚分だからね!」
「そいつはいい!俺たちの命より高いのを撃ちまくれるなんて最高じゃないですかい!」
海賊たちは壊血病で死に掛けていたところを、ソウタに壊血病の治療を一人あたり金貨20枚で受けて、その治療費の清算のためにカ・ナンに雇われていた。
その彼らに如何なる名剣をも上回る最強の武器が託され、自分たちの治療費、命の半額になる弾丸を惜しげもなくバラまけるのだ。海賊たちは誰もが上機嫌で引き金を引き、敵を存分に蹴散らしていた。
「みんな遅れないで!ボクたちはカ・ナンの騎兵団なんだから!」
ヒイロの呼びかけに奮い立つ騎兵団。彼らにも同様に後装式ライフルが行き渡っており、人馬一体となった突進力も合わさって、存分に敵陣を切り裂いて突き進んでいく。
『敵の狙いは陛下だ!絶対に阻止しろ!』
ゴ・ズマ本陣付近に控えていた近衛の騎馬部隊が強襲を阻止せんと突撃を仕掛けてきた。音で察するに、こちらの騎馬の五倍以上もの数だ。
『アタラさん!』
『任せろ!』
敵の騎馬部隊に向かって猟兵団の狼たちが一斉に咆哮する。
闇夜を切り裂く咆哮と、殺気立った肉食獣の匂いになれていない彼らの馬は、次々とパニックを起こして、停止、落馬が相次いだ。
「何が起こったぁ?!」
混乱に飲まれる騎馬部隊。そこに飛び掛る狼の群れは、闇を意にせず馬ではなく騎手たちを正確に襲う。指揮官を真っ先に、次に動きが取れるものたちの喉笛を食い千切っていったのだ。
狼狽した馬たちは制御を失い、方々に暴れながら逃げ散る。この混乱は夜という事もあって、容易に止められず、拡大し続ける一方だった。
ヒトミは掲げた七色に輝く旗をぐるぐると振り回す。それを見て強襲部隊はすぐに集合する。全く無傷ではないが、何十倍もの敵を蹴散らしてなお殆ど全員が健在だった。
「このまま行きます!!」
大帝を警備する近衛の第一陣を蹂躙した強襲部隊は、目標の大帝の天幕に向かって再び突き進んでいった。
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