第86話
正午過ぎ、主だった者たちを集めて会議が行われた。
まずソウタから、現在の武器弾薬食料の状況と民心について報告がなされ、次にヒトミから現在の戦局の報告がなされた。
「つまり我々にはまだまだ余裕がある。逆に敵はかなり疲弊していて、反乱が起きる可能性も高いということね」
「そうだ。このまま防戦に徹していれば、疲弊した敵は撤退するかもしれない。だけど撤退させただけだと、大帝が諦めたことにはならない。再侵攻の可能性が潰えるわけでもないんだ」
ソウタは懸念を口にした。今はソウタが持ち込んだ技術によって兵器の質が劇的に向上し、圧倒的な開きがあるので、極めて有利に戦いを進めている。
だが、撤退された後に再度侵攻となった場合、今度はこちらの技術を吸収した上で、圧倒的物量で押し寄せてくる可能性が高い。
弾丸は大量に敵の手に渡っている上に、仕組みがわかればライフル銃も国力に物をいわせて大量生産してくるだろう。そうなると、今度こそカ・ナンが滅ぼされかねないというのだ。
「実は敵の一部からは、蜂起するので支援して欲しいとの要望が複数寄せられております」
マガフの言葉に一同がどよめく。
「蜂起が現実になれば、一気に大帝の身柄を確保、もしくは討ち取ることも可能でしょう。楽観的に過ぎる観測ですが」
「罠の可能性も捨てきれないわ。こちらがおびき出されて野戦に持ち込まれたら、多大な損害を被って防衛線の維持が困難になりかねない訳だし」
あえて冷静な意見を口にするエリ。女王の言葉とあって、会議の席に慎重さが戻る。
「それでヒトミはどう思うの?」
ヒトミに注目が集まる。これまでのカ・ナンの勝利は彼女の軍事的手腕によるのは明らかだからだ。
「私は……、やれると思います」
その言葉にどよめきが起こる。
「おじさ……、大帝を捕まえないとカ・ナンの危機はいつまでも去りません。そしてそのチャンスは今だけなんです!」
全員がヒトミの発言を静かに傾聴している。
「もちろん罠の危険性もありますし、罠でなかったとしても迂闊に打って出たら、反撃されてこちらが潰されてしまうと思います。ですから……夜襲を掛けます。そして部隊を二つに分けて攻撃するんです!」
ヒトミが積極策を打ち出したことでさらに大きく場がどよめく。エリが場を静めてつづけさせる
「まず最初に敵の正面に向かって歩兵団と砲兵団が攻撃を行います。それに呼応して敵の内部から反乱が起きたら、それを見計らって機動力の高い部隊で大帝の本陣を強襲するんです」
「もし反乱が起きなかったり、起きても小規模だった場合は正面攻撃だけに留めて、強襲部隊は手出しせずに撤退します」
戦場は勝手知った自国の領土であり、日本から持ち込んだ高度な観測機材も揃っているので、強襲部隊が突出しすぎない限り撤退路が敵の伏兵に脅かされる事はない。
「なるほど。これなら敵の反乱が罠だったとしても、こちらの被害を最小限に抑えることができるわけか」
ソウタは心底感心していた。
「わかったわ、それでいきましょう。それで指揮は?」
「本隊の指揮はマガフさんにお願いします。私は騎兵団と猟兵団を合わせた強襲部隊の指揮を執ります」
またしても場がどよめく。
「私は機動力のある部隊の指揮に慣れていますから。その場その場での判断は、現場にいないと無理ですから」
「わかった。お前が行くなら俺も行く。海兵団、銀輪装備で付いてきてくれ」
ソウタの宣言に皆が驚き、その行動を止めようとする。
「皆も承知のとおり、ゲンブ大帝は俺の伯父貴でもある。俺が直接乗り込んで目の前に姿を見せたら伯父貴は諦めるさ」
ソウタとヒトミとエリは身一つで投降すれば助命してもらえる事は幹部たちにもすでに知れていた。
だが、今までカ・ナン国民を救う為に尽力してきたソウタが、この状況でカ・ナンを見捨てて逃げ出すと考える者も皆無だった。むしろソウタの存在は、万一カ・ナンが追い詰められてしまった場合の切り札になるとさえ考えられるのだ。
そのソウタが自ら出撃すると聞いて、幹部たちは懸念の声を挙げた。
「宰相閣下、将軍閣下、その決意は大変ご立派です。ですが万一お二人を失う事になれば、国防と内政を担う二本柱が無くなり、我が国が瓦解しかねません!故に私はお二人直々の出撃には反対します!」
メーナはソウタとヒトミの出撃に特に強く反対した。
「陛下、本当に宜しいのですか?!」
メーナはエリが日本からカ・ナンに来て以来、身辺警護を長年続けてエリの事を文字通り見守っていた。
「わかったわよ。二人ともそこまで言うならね」
エリは大きく頷く、と立ち上がって宣言した。
「では正面からの攻撃には、私も出陣します」
『おおっ!』
女王が自ら出陣すると聞いて場がどよめく。
「陛下、あまりに危険です!」
メーナが止めるがエリは聞かない。
「危険は承知よ。でもここで立たないで何時立つの?!」
エリは場を睥睨した。
「近日中に作戦を実施します。本隊は私が直接指揮し、マガフ殿に補佐してもらいます。強襲部隊はシシノ将軍が指揮を執ってタツノ宰相も同行。これで決まりね」
かくしてこの日の会議は終了した。
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